Match Review 2023.1.5 Leeds United vs West Ham United

失った勝利

前節好調ニューカッスルを前に必死の守備が身を結び勝点1を手にいれたリーズ。
今節は昨シーズンとは打って変わって開幕来不調が続くウェストハムをホームに迎えてのゲーム。
下位からの勝点3奪取が何よりも期待されたところだが、結果は2−2の2戦連続ドロー。
正直に言ってしまえば、リーズサイドから見るとこの試合は勝点2を失った、と言っても差し支えのない試合だった。
後述するが、先制点及び勝ち越し点の取られ方があまりにも残念だからだ。
一方のハマーズにとっては今後の残留争いに基調となるであろう勝点1。
5連敗で迎えたこの試合で、勝点1を拾えたことは相当大きかっただろう。

怪我と移籍交渉の難航に苦しむハマーズ

昨シーズンのウェストハムの成功は、何よりもモイーズ監督が標榜する堅守速攻型のサッカーがハマったことにある。
ライス、ソーチェクの汗をかくことを厭わない守備的に強い中盤に、センターバックにはドーソンとズマもしくはディオップと体を張れるフィジカルに強い選手がいた。
そこで守ったボールを、フォルナルス、昨シーズンブレークしたボーウェンのスピードあるサイドが運んでいく。
最前線ではマイケル・アントニオがそのフィジカルの強さを存分に発揮してボールを守って後続の上がりを待つ時間を作ることができていた。

しかし、今シーズンはその安定の方程式が崩れている。
最前線はサッスオーロから加入したスカマッカの起用でさらなる飛躍を担ったが、最前線で幅広く張ってフィジカルで勝負するアントニオに比較すると、スカマッカは中盤まで降りてきてボールに触るタイプのため、ボールの保持ポイントが低くなってしまっている。

スカマッカとアントニオのヒートマップ比較

FWでのボールの収まりの不安定さをアントニオの交代投入で改善を図るが、それ以前に今シーズンリーグ18試合の内14試合で先制点を与えてしまっている守備の崩壊が大きい。

一つはボールの跳ね返しの部分で大きな役割を担っていたDFラインの中核ドーソンが開幕から7試合、今シーズン計10試合使えていない事。
ディオップをフルハムに放出してレンヌから獲得したアグエルドが怪我で全く機能できないこと。
ズマも怪我がちで稼働率が良いとは言えず、そのセンターバックの惨状を右サイドバックのジョンソンや左サイドバックのクレスウェルで埋めてみたり、PSGから獲得したケーラーを左サイドバックで使ってみたりと、とにかくDFラインのラインアップが安定しない。
これにより守備はガタガタの状況が続いてしまっている。

この守備状況をなんとか改善しようとこの冬の移籍市場で懸命にセンターバックの補強を目指しているようだが、残留争いに巻き込まれたプレミアリーグのチームに加入する選手は限られる。
選択肢を考えると、CLで既に敗戦しているチームでかつプレミアリーグよりもプレー及び給与水準が落ち、なおかつビッグクラブと競合しない、というかなりの難易度になってくる。

12月にサンパウロから若いルイゾンを獲得したものの、20歳のブラジル人がいきなりプレミアで救世主となることも難しい。
ドーソンが復帰から万全になりつつある今、あと1枚確実に稼働でき、かつロングボール配球が可能なセンターバックを獲得できれば、なんとかなる可能性は高い。

相変わらずな右サイドバックの問題

ハマーズの項目で全く戦術的なことに触れなかったが、それは冒頭にも述べたようにリーズの失点があまりにも酷かったためだ。
まず1失点目は、ボールが落ち着かない状況で右サイドバックのエイリングが前に比重をかけたことで、案の定裏をスカマッカに綺麗に取られて、そこから楽にセンタリング。
ストライクがボーウェンを引っ掛けてしまいPK。

毎度毎度当Blogでも述べているが、この右サイドがエイリングであろうが、クリステンセンであろうが、同じように簡単に裏を取られることがあまりにも多すぎる。
無論これは両選手のポジショニングの悪さに起因するものだが、もう少し言えば最前線でボールが落ち着かないために、前にかけた比重を後ろに戻さねばならない状況になっている、とも言える。

最前線の観点で言えば、ロドリゴはシュートとボールの持ち方は上手いが、ボールを収めるという意味ではバンフォードに劣る。
バンフォードの懐の深さがあれば、右サイドバックが上がろうとするところを前線で時間を作れるし、下がるにしても1秒か2秒の時間はつくってくれる。
しかしながら、ロドリゴは頑張っているが、その懐の深さがない。
アーロンソンは前を向いてなんぼの選手なので、ワンタッチで相手のプレスを剥がせればいいが、相手に研究されて2枚でプレッシャーをかけられて満足にボールを持てなくなっている。

前節の際にも言ったが、右サイドを右サイドバックとウィングの2枚で作っていくのであれば、少なくともDFライン(ストライク・クーパー・コッホ)はもっと右サイドにスライドしてそのリスクをマネージしなければならない。
もっと言えば、エイリングの裏を取られた際にコッホがフォルナルスについて行ってしまい、そのポジションを離れてしまったこともこのシーンの不味さに繋がっている。
この右サイドの課題は縦のパスのみならず、逆サイドのサイドチェンジでピンチに陥ることもしばしばにも関わらず、18試合を紹介して尚修正されないのは大きな問題であり、勝点を積み上げられない要因だと思われる。

2失点目は言わずもがな。
不用意なワンタッチのバックパスを掻っ攫われての失点。
誰にもミスはあるし、ミスの無いフットボールはあり得ない。
アーロンソンはここから多くを学んだと思うが、この失点の仕方もがっかり感が大きく、ハマーズの力量でやられたとは思えない。

美しさを取り戻しつつある攻撃陣

悲観的なことばかり言っても仕方ないので攻撃に目を移せば、試合を重ねるごとにニョントが良くなっている。
先制点のシーンでもスローインからロドリゴが繋げたボールを右サイドで受けて中央のスペースに運びながら、サマーヴィルの上がりを待ってパス。
サマーヴィルが縦にドリブルして作った時間で裏のスペースに出てワンタッチでゴールを陥れた。
起点はスローインだったが、しっかりとスローインの際にボールが入るロドリゴに寄って行ってボールを受け、瞬時に空いたバイタルを使って攻撃を構成しつつも、DFラインの裏を取る動きは19歳の選手とは思えない動きとしか言いようがない。

ロドリゴの同点ゴールも美しかった。

これも起点はスローインだが、アダムスが中央のプレッシャーの少ない状況でボール持って時間を作る間にハリソンがバイタルのスペースに移動。
ボールを受けたハリソンは前を向きながらワンタッチで相手を交わして、ツータッチ目で斜めにペナルティエリアに入るロドリゴの足元にパス。
ワンタッチで縦の関係になった相手センターバックの間を抜けたロドリゴはツータッチ目で左足を一閃。

1点目も2点目も、こういったワンタッチ、ツータッチで相手のDFの間を抜ける攻撃ができるようになってくれば、攻撃面は心配なくなる。
攻撃陣は若手を中心に美しい攻撃が出来る素地があることがこの試合でも分かったので、今後の試合ではこの練度を高めて行って欲しい。

ありがとうクリヒ

この試合を最後に、プレミア昇格からこの日までチームを支えてくれたマテウシュ・クリヒがリーズを退団した。
2017年にオランダのトウェンテから加入したものの、半ば使い物にならないと再びオランダのユトレヒトにローン移籍させられ、イングランドでのキャリアに暗雲もあっただろう。
しかし、2018年にビエルサが就任すると、その運動量とデュエルで瞬く間にチームの中心となった。
それから昇格。
プレミアの力量には足りなかったかもしれないが、それでも交代で入ると変わらぬ運動量と暑苦しいまでの熱量と、そして前に前にと向けるパスで局面を変えるために尽力してくれた。

語り始めるとキリがない。
ただ、世界のリーズサポーター、特に我々日本人にはクリヒの献身性は心に響くものがあった。
パブロ・エルナンデス、カルヴィン・フィリップスと共に、リーズ再復活の道筋を作ってくれたレジェンドの一人であることは間違いない。

これからはMLSのDCユナイテッドへと旅立つ。
MLSはApple TVで観れるようになるそうで(MLS Passが幾らになるかは分からないが)、間違いなくMLSでもチームの中心としてファンの心を掴むであろうクリヒの活躍を見続けていきたい。

本当にありがとう。クリヒ。
Dziękuję bardzo, Klich.

Transfer Talk – 永遠の逸材 Lucas Lima

2014年から見続けた自称「リマウォッチャー」が思うこと

FC東京ファンが柏レイソルもしくはヴィッセル神戸と噂がある選手を語るな、と言われてしまうかも知れませんが、2014年からルーカス・リマという選手を注目して追いかけてきた身としては、今回の移籍の噂はサッカーファンとして奮い立つもの以外の何者でもありません。
そもそも僕とルーカス・リマという選手の出会いは2014年まで遡ります。
当時Football Managerというゲームに出会った僕は、当時のゲーム内のラツィオをどう立て直すかに必死でした。
そんな中でゲーム内で探し求めて出会ったのがリマでした。
以来、ルーカス・リマを現実でも追い続けてきました。

そのため今回投稿でも、実際にプロのスカウトも利用しているWyscoutを使用して、これまでのルーカス・リマのプレースタッツを用いてプレースタイルの想定をしていきたいと思います。

ルーカス・リマを巡る背景

少しだけ小難しい話から始めさせて頂きたい。
ルーカス・リマが生まれた年は1990年。そして彼の名が欧州マスコミの記事に乗り始めたのが2014年頃、つまりリマが24歳の頃からになります。
2014年は、リマ自身がインテルナシオナルからサントスに移籍したタイミングに当たります。
それまでインテルナシオナルの下部組織で育ちながらもトップチームでは出場機会が限られていたため、ローン移籍したスポルチ・レシフェで当確を表したことで、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったサントスのスカウトの目に止まり加入を果たしました。

当時既にリマは24歳。
24歳という年齢は移籍市場においては決して若くはなく、高額の移籍金を求めるなら圧倒的なパフォーマンスを試合で見せることができなければ「それなり」の扱いしかされないというのは、昨今のマーケットを見ていればご理解いただけるかと思います。
そん中で、当時のサントスの中心選手だったガンソ(2012年当時23歳でサンパウロ移籍)とネイマール(2013年当時21歳でバルセロナ移籍)というチームの中核を失ったままのサントスにとっては、インテルナシオナルでは主力として見られておらず、スポルチで躍動したリマは格好のターゲットでした。
同時に、ここから小難しい話になるのですが、当時のブラジル経済は以下のグラフの通り、下降の一途を辿っていました。
かつてBRICsと言われて世界恰好の投資市場と言われたブラジルですが、不安定な政権運営によりその投資マネーすら撤退してしまっていました。
その煽りは当たり前のようにサッカークラブも襲い、サントスも自前で育てた選手をとにかく可能な限り高値で売り抜けることで、チームの運営を賄うような状態でした。

ブラジルの経済成長率の推移

この状況が、リマの置かれた状況を難しくしてしまいました。
ガンソの後釜、ネイマールを輩出したサントスが見立てた逸材。
そして何よりもブラジル経済の大幅な後退による移籍金の下落。
ヨーロッパのチームは24歳という年齢ではあるものの即戦力としては計算できないリマを安く買い叩こうとし、サントスは必死でインテルナシオナルから買い取った逸材を高値で売り抜けようとする。
そんな鬩ぎ合いにリマは巻き込まれてしまった時代でした。

絶えぬ噂と現実のギャップ

もう少しだけリマの経歴背景の話をさせてください。
その後2015年あたりから、欧州への移籍の噂は絶えませんでした。
2015年にはエージェントがレアル・マドリードへの移籍を認めるという報が流れ、2016年には中国チームが高額の移籍金と年俸でオファーしたのを断ったとの報が流れ、果てはバルサが興味を惹いていたが本人はオファーを受けていないとの報まで

結局のところ、先に示したブラジル経済の後退による高額の移籍金を欲するサントスと、欲しいとは思えどもそこまで高額の移籍金を支払うほどまでの年齢と実力ではないという欧州チームの駆け引きが毎年のように成されたことで、リマ本人が欲してた欧州でプレーしたいという意思(先の中国チームオファーのリンク参照)が成就しなかったと言えます。

その後もクリスタルパレス、トリノなど、移籍の噂は絶えませんでした。
恐らくはサントスの思惑と、選手自身が望む環境、そして欧州チームの思惑、3つの要素がうまく噛み合わなかったのでしょう。
この噂と現実のギャップが彼をブラジルという土地に閉じ込めてしまっていたのではないか、というのがリマウォッチャーを自負する私の見立ててです。

ポジショニングとプレーの推移は?

前置きが異様に長くなりまして申し訳ありません。そのくらいルーカス・リマを追っていたと思って頂ければ・・・。

では本題に。ルーカス・リマとはどんな選手なのでしょうか。
スタッツを使って見ていきたいと思います。

攻撃的MF、ウイング、中盤の底も出来る、色々な憶測が飛んでいますが、スタッツから見ればどこでも出来てしまう、というのが正解です。
以下はWyscoutが示すリマのキャリア全般(Wyscoutが数字を取り始めた2015年から)でのヒートマップです。

ルーカス・リマのキャリアヒートマップ

では、年代別に分けて見ていきたいと思います。
所属チームの違いはありますが、2022年から2年おきに遡って、2022→2020→2018→2016と4年のヒートマップを以下に示して、プレーの推移を想像して見ましょう。

ルーカス・リマのHeat Map推移(2016〜2022まで2年毎)

推移を見ると、中盤の底をプレーするという印象に比べて、インサイドの位置でプレーしていることが多いことが分かります。
そして、歳を重ねる毎にそのポジショニングにおいてのボールタッチ数は少なくなっていると同時に、プレーエリアも狭くなってしまっていることが分かります。
一方で、キャリアを通していわゆるアタッキングサードでのプレーを好む(または求められてきた)選手であるということは事実です。

短くはない間リマを見てきた人間からすると、プレーエリアとボールタッチの濃淡は決して悪いことではなく、違う要因にもつながっていると思います。
ですので、次の項ではパス数と、Jリーグでは必須とされるディフェンシブな項目について見ていきたいと思います。

プレーの中身は?

ではまず、一般的なスタッツの推移から見ていきましょう。
もちろん2年毎ですし、その時々のチーム戦術における役割にも関連するので一概にスタッツだけでは選手の能力を判断できないことは前置きさせてください。

ルーカス・リマの90分平均Generalスタッツ(抜粋)

ゴール、アシスト数とも年々に減じています。
ただ、90分平均でいると枠内シュート数は1以上をキープしていますので、シュートは上手いことが分かります。
またパス成功率についても4期間平均でも79.55と80%近くをキープしていますので、アタッキングサードでかなりの確率で正確なパスを出せることは変わりがありません。
デュエル数とリカバリー率は年々減っていますが、勝率とリカバリー数は大きな変化がありませんので、守備もそれなりにすることが分かります。

それでは次に期待される攻撃的なスタッツを見ていきましょう。

ルーカス・リマ90分平均攻撃スタッツ推移

ここで見て取れるのは、ドリブルはあまりしないこと、ペナルティエリア内に入ってボールを触ることにプレーが変わっていることが分かります。
先に見た枠内シュート数が1本以上を維持し続けていること、アタッキングサードでのプレーが多いことを考えると、ペナルティエリアの奥に入るよりは、いわゆるペナ角と言われるペナルティエリアの角でボールを受けて、あわよくばゴールを狙うタイプの選手ということが読み解けます。

ではこの項目の最後にパスのスタッツを見ていきましょう。


ルーカス・リマ90分平均パススタッツ推移

パスに関するスタッツを見ていくと、2018年以降はスルーパスを狙うというよりはチャンスと見た時にだけ出していることが分かります。
また、ペナルティエリア内へのパス数がキャリアを重ねる毎に増えていることからも、効率的に相手ゴールを陥れるためにどうペナルティエリア内にパスを出すのか、をトライしていることが分かります。
ただ、逆の見方をするのであれば、このポイントは「打開できないからペナにパス出しておくか」というようにも見えてしまうことは確かです。

スタッツ的にも難しいですが、まとめていきたいと思います。

Jリーグでの適応は難しいのではないか

さて、ここまで見てきたことで、ルーカス・リマが今柏レイソルに、またはヴィッセル神戸に来たことをイメージしてみたい。
リマのプレーフィールドを考えると、恐らくは我々にとってのJリーグでの物差しはアンドレス・イニエスタと言っても良いかもしれない。
ただ、残念なことに、ここでイニエスタのスタッツを出すと話が長くなるので割愛するが、Jリーグに限って見てもイニエスタのスタッツは全てがリマを上回っている。
そして、イニエスタが2022シーズンだけを見ても左サイドを中心にボールタッチ数が多いことを考えても、イニエスタの後釜としての存在感をリマが出せるようには思えない。

アンドレス・イニエスタの2022シーズンヒートマップ

確かにルーカス・リマは過去に欧州も注目し、ブラジル代表で14試合を経験した大物ではある。
が、ここまでスタッツを見てきた中で、今の彼がどうかというと、Jリーグという特性、つまりはアジリティとデュエルを重視する環境、そしてそこを切り抜けるだけの日本人との違いを見せるには十分な選手とは思えない。

何度も言うように、短くはない時間、ルーカス・リマという選手に注目してきた自分からしても、今32歳というキャリアの終盤に差し掛かった選手が、ブラジルだけの経験でこの島国の地を踏んでも、結果を残せるようには思えない。

日本語で言うなら「ご縁」という言葉があるが、国の経済事情とクラブ間の思惑を背景にして、これまで欧州というご縁に恵まれなかったルーカス・リマがこの地に足を下ろすなら僕は注目して見たい。
が、今の日本は、Jリーグは右肩下がりの選手が簡単に成果を出せるリーグでもないことは確かだと思う。
僕にとってはご縁がなかった選手になるのではないか、と予測するが、この予測が違ったものであれば嬉しいという気持ちがあることも確かだ。

これは代表経験者であろうが、2部しか経験してない選手であろうが、皆に言えることだけど。

Match Review 2023.1.1 Newcastle United vs Leeds United

袂を分つ双子の兄弟

新年明けましておめでとうございます。
また最近当ブログも頑張って記事投稿をするようになりましたが、今年はきちんと定常的に、自分の身丈にあった無理のない形で投稿をしていきたいと思います。

さて、本題ですが、天皇杯の決勝が元日に行われなくなって2年。
サッカーファンの元日はプレミアリーグが担うようになってきました(多分)。
故あって国立競技場で12月31日の日中を過ごし、1日14キロも歩いて疲労困憊の状況で迎えた新年最初のサッカー観戦は、楽しみにしていたニューカッスルvsリーズ。

異論はあるでしょうが、個人的にはこの2チームはなんとも言えない味わいを持った「双子」のようなチームだと感じていました。
歴史的にも長きに渡りイングランドサッカーの中心であり、共に相手チームが戦うのを嫌がるほどの熱いホームサポーターとスタジアムがあり、それでもプレミアリーグでは残留ラインから中位のシーズンが続く。
そんな状況でも決してサポーターは離れる事なく、我がチームへの声援をやめない。
リーズが長期の間2部にいたことを別とさせてもらうならば、歴史的に見ても非常に似た背景を持つ両チーム。

その双子のようなチームも、2021年にニューカッスルがサウジアラビア系ファンドのPIFに買収されて以来、袂を分かち始めました。

的確な補強が身を結ぶニューカッスル

これまでの移籍市場においては、いわゆるビッグマネーを背景としたオーナーが誕生すると、いきなりとんでもない大目玉の選手獲得が期待されてきました。
しかし、ニューカッスルの場合は豊富な資金を戦略的に使って補強に向けた打ち手を打っていると言えます。
PIF買収以降の加入選手は以下の通りです(Transfermarktより)

移籍金については、当該選手の当時の市場価値を遥かに上回る金額を支払っているのは確かですが、その一方でどういったチームを構成していきたいのかが的確にわかります。
2021/22シーズンは、ゲームを作り上げるための中盤にビッグクラブも注目していたブルーノ・ギマランイスを移籍金で圧倒して獲得。
同時にアトレティコ・マドリーで絶対的な存在となっていたキーラン・トリッピアーを当時の移籍金約19億円+ボーナスと格安の移籍金で獲得。
その他の選手についても語り出すと項目に終わりがないが、獲得した選手それぞれからもこれはチームとしてどのようなチームを作り上げていくのか、それにあたって短期/中期/長期でどのような選手獲得をしていくのかが非常に明確に分かります。

この狙いと結果の連動に関しては、非常に興味深いので別で記事を書くことにしたいと思うが、この2年弱で大きく変わったのがポゼッションが20/21→21/22→22/23の19節終了時点まで38.84%→41.85%→50.15%(各90分平均/プレミアリーグのみ)と大きく向上しています。

またこの試合においては、後述のLeedsの項でも触れるがパス数が405本と全シーズンのプレミアリーグ自チーム平均309.11を100近く超えています。
このことからも新生ニューカッスルが狙うサッカーは明らかなもので、この冬も含めてよりパス志向のサッカーに取り組んでいくことになると思われます。
マンチェスターシティを凌駕する金満チームでありながら、シティ同様に世界トップクラスかつ自チームのコンセプトに合う選手を獲得していきながらどうチームを組み立てるのか、が非常に楽しみなチームであり、それに十分応えてくれる試合内容でした。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方のリーズはといえば、前節マンチェスターシティ戦から大きな改善があったというわけでもなかったというのが印象でした。
相手がニューカッスルということもあり、シティに比べればこの力はまだ落ちる部分もあるため、最後の最後の場面でなんとか耐え凌ぐことができていました。
それがこの0−0という結果、つまりは勝点1に繋がったわけですが、全体的に左右のサイドバックが上がった裏を中長距離のパスで取られてピンチになる場面が多数あり、この観点は昨シーズン終盤の残留争い時点から改善された印象がありません。

もちろん自身がポゼッションしている際にラインを高く設定して、相手ゴールに迫力を持って迫っていくサッカーは、可能性を感じることが多く観ていても楽しいと感じています。
しかし、相手ゴール前まで迫っても、シュート数は8本で枠内が1本、そこに至るまでの相手ゴールに迫るまでのProgressive Passの成功率は64%と、ここ数試合大きく改善していません。
またこの試合では全96回のボールロストにおいて、中盤でのロストが約半数の43回と、せっかく守備陣が奮闘して守り切ってもそのボールを繋ぎきれていないことがはっきりと分かります。

実際にプレーの中でも、中盤での繋ぎの場面でボールをつなげることができず、前半でフォーショーをロカに交代させて中盤でのパス向上を目指しました。
そして、この交代によって中盤での失地回復の兆しが見えたことは、ニューカッスルに攻撃を受ける際に許すパス数を示す数値のPPDAが改善していることもこの交代によって示されています。

このことからも、中盤でロカ、アダムスのどちらかが欠けても、中盤のバランスが崩れてしまうことは前節、今節で改めて痛感することになったリーズの課題でしょう。

Newcastle vs LeedsにおけるLeedsのPPDA推移

飛車角落ちの状況をどう補うのか

前節のレビューでは、DFラインと中盤に課題と述べました。
DFラインについては、この冬の移籍市場でザルツブルグからクリステンセンやアーロンソンに次いでマキシミリアン・ウーバーを獲得しました。
これにより左サイドで奮闘していたストライクが本来のセンターバック、場合によっては中盤の底を担う余地ができましたので、コッホとストライクというセンターバックコンビの計算が立つようになりました。
またウーバーはセンターバックとしてもプレーができる選手ですので、コッホとウーバーのドイツ語圏のセンターバックコンビでストライクを左サイドバックにすることで、右サイドバックのクリステンセンが持つ前への力を活かすために、攻撃時はストライク-ウーバー-コッホでの3バックにすることも、先述したサイドバックの裏を取られることへのリスク回避策にもなります。
さらにはこの場合、中盤のアダムスやロカを必要以上にDFラインに近い場所でプレーさせなくて良い、というメリットにもつながります。

その一方で、アダムスとロカいずれかの飛車角落ちの状況になった場合の備えについてはまだまだリスクが高いと思います。
この冬の移籍市場のニュースも、攻撃的な選手かサイドバックの名前が相変わらず多く、中盤の選手で噂があるのはスイスのルツェルンの若手アルドン・ヤシャリ程度であるのが少々不安です。
そのヤシャリはスコットランドのセルティックも興味を惹いているという報道もありますし、クリヒの移籍も変わらず噂されているため、中盤での繋ぎが出来て汗もかける選手の補強はこの冬必達の目標と言っていいでしょう。

もう少し攻撃で可能性のある場面が増えてくれれば、課題を覆い尽くすポジティブな材料も出せるかと思いますが、この2節で見た飛車角落ちの現状が改善されなければ、昨シーズン最後のようなアップダウンの激しいサポーター感情に巻き込まれるのではないかと、かなり心配になってしまった年末年始の2試合でした。

Match Review 2022.12.28 Leeds United vs Manchester City FC

対照的なチームによる対照的なゲーム

ワールドカップ明けのリーズ初戦。
ワールドカップにアメリカ代表以外に選手を派遣していないチームは、スペインでのキャンプも含めてチーム練度の向上に当ててきたが、この期間の親善試合3試合を通してDFラインの裏にボールを出されると完全に守備が後手に回る弱点が改善できていないことが如実となった。

一方多くの選手をワールドカップに派遣したシティは各々の選手の疲労が心配されたが、エースであるハーランドは休養十分。

チーム事情も好対照なら、プレーするサッカーも好対照。
ボールを繋ぎながらも縦に早いサッカーもできる万能型のシティに対して、ハイライン・ハイプレスでリスクを取りながら相手ゴールに迫るリーズ。

90分を通して対照的な試合となった。

幅も縦ものシティ

リーズファンであることを差し引いても、シティのサッカーは観ていて楽しい。
楽しいというよりも開いた口が塞がらない、と言った方が正しいかもしれない。

ワールドカップを優勝したアルゼンチンがそうだったように、ピッチの幅をワンタッチ・ツータッチでしっかりと使いながら、相手が食いついてラインが上がったところを中長距離のパスでしっかりDFラインの裏を狙って相手ゴールに迫る。
シティはこの精度が異様に高い。
DF各々の足元の上手さはもとより、デ・ブライネ、マフレズ、ギュンドアンといった中盤の選手がしっかりとDFが持ったボールに合わせて、それを引き出しながら次に繋げる効果的なポジションを採ってくるので、食い付けば食い付くほど相手チームは手玉に取られるようにシティのペースに嵌ってしまう。

この状況を如実に表しているデータが以下のPPDAです。
PPDA(PassesAllowed per Defensive Action)を説明しておくと、ピッチ全体の攻撃側の60%内で攻撃側のチームが出したパス数を、ディフェンス側のアクション(デュエル勝利、インターセプト、スライディングタックル、ファール)で割った数値になります。
例えば、相手ゴールから60%のエリア内で攻撃側が404本のパスを出し、それに対して守備側が23回の守備的アクションを成功させているとするなら、404÷23=17.565…となります。
この数値が低ければ低いほど守備側のプレスがハマっているということになりますし、高ければ高いほどプレスが効いていないということになります。
説明が長くなりましたが、PPDAの意味を理解した上で以下のデータを見て頂くと、どれだけシティがリーズを蹂躙していたかということがわかるかと思います。

Leeds vs Man CityにおけるLeedsのPPDA推移

試合開始15分までの39.3も相当ですが、16分から30分までの83はもはやLeedsが何もできていないことを示しています。
この試合でシティが出したパスは680本なので、4分の1がこの時間帯にあったとして170本のパスを出したとしてもリーズのディフェンスアクションが決まったのは2回程度ということになります。
もはや大人と子供のサッカーをプレミアリーグというトップレベルで展開できること自体が次元が違うと言えます。
前半終了間際に得点するまでのPPDAの推移を見ても、試合全体が均衡していたとはいえ、得点は必然の結果と言っても良かったのでしょう。
逆にシティ側からのPPDAをこの項の最後に掲載しておくと、ポゼッション率以前にシティが試合を支配していたこと、及び失点した理由がよく分かるかと思います。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方リーズはこの試合で多くの課題を再び突きつけられると共に、嬉しい悩みにも直面したと言えるでしょう。

大きな課題点としてはやはりDFラインです。
この試合の2失点目はキャプテンであるクーパーの不用意なパスミスからでした。
筆者自身も、クーパーは代えの効かない唯一無二のチームキャプテンであることは認めていますし、彼自身のプライベートでの活動も正に人格者と言えるものです。
しかしながら、フットボールということに目を移して考えると明らかにプレミアリーグレベルにない、ということは確かです。
個人の批判はなるべく避けたいのですが、リーズが直面している大きな課題は二つの課題が同居していると思います。

一つ目はクーパーを外すことによるピッチ内外の影響。
二つ目はクーパーの代わりになるはずのジョレンテが怪我がちであること。

一つ目については、カルヴィン・フィリップスが残っていれば大きな問題にもならなかったでしょう。
しかし、フィリップスが移籍してしまった今、キャプテンとしてチームを引っ張れる人材がいないこと、及びキャプテンをベンチに置くことによる本人及びチームの影響を考慮すると、マーシュ自身も実は頭が痛いのではないかと思います。
何より選手本人もその事実に気付いているようにも思えます。
このポイントをこの試合でのキャプテン交代から変えることが出来るのか、は今後の注目ポイントでしょう。

二つ目のポイントは、一つ目の課題が片付いたとしても肝心のジョレンテが加入以降怪我がちであるため、結局クーパーを外せない、という結果に帰結してしまう点です。
マーシュに限らず、前任のビエルサもDFラインからしっかりビルドアップする、または中長距離の配球をすることを目指してきており、それにあたってジョレンテの足元の技術は非常に重要になっています。
しかしながら調子が上がると怪我、の繰り返しで計算が立たないことを考えると、どこまでジョレンテを引っ張れるのかが分かりません。

次なる課題点は中盤です。
この試合ではワールドカップ前の退場裁定によりアダムスが出場できませんでした。
そのためグリーンウッドを入れて4-3-3の並びでスタートしましたが、やはりプレスのスイッチを入れるアダムスがいないことで、先にシティの項で示したようなPPDAの恐るべき低下を招きました。
後半にフォーショーやクリヒを投入したことで(シティが2点先制して受けに回ったのもありますが)、PPDAの改善にはなりましたが、アダムスがいない際にどのような形で同じようなプレスのスイッチを入れるのか、を検討する必要があります。
この試合でプレミアリーグデビューを飾ったギャビが、中断期間の親善試合も含めてデュエルの強さを見せていますので、どうギャビを育てながらアダムスの後継としていくのか、を考える機会に直面しているようにも思えます。

嬉しい悩みの前線

課題は多いものの、前線のタレントは非常に楽しみになってきました。
中断前に活躍を続けたサマーヴィル、この試合でオフェンシブ・デュエルでの勝利を度々見せてチャンスを作ったニョント、そしてセットプレーからもチャンスを演出できるグリーンウッド。
何よりディフェンシブサードまで下がっての守備も厭わずに最前線の相手DFが一番嫌なところに飛び込めるゲルハルト。

ロドリゴ、アーロンソン、ジャック・ハリソンといった選手に負けないタレントが今シーズンはどんどん出てきています。
その他にもシニステラやU21のジョセフやパーキンスといった下からの突き上げも強い状況です。

開幕からその実力を発揮したアーロンソンが、対策を敷かれて少々期待された活躍を出来なくなっている状況ですが、若手をどうスタートから起用していくのか、をマーシュ監督にも検討してほしいと思います。

この試合でも中断前に良いパフォーマンスを見せていたサマーヴィルを出すことはありませんでした(流れ的に中盤を強固にしないといけないのはありましたが)。
誰の目から見ても若手が良いパフォーマンスを見せているだけに、思い切れるのかどうか、がマーシュには問われているかもしれません。

最後に、冬の移籍市場での噂が絶えません。
クリヒ、ハリソン、果ては大黒柱のメリエまで。
プレミア復帰後に冬の獲得に関する噂は多かったですが、結果的に誰も射止めることはできませんでした。
そう考えるとこの冬の加入はかなり期待薄になるため、現有戦力をキープしながらどう若手を上手くはめられるのか、がこの冬のリーズの課題になると思います。

次節は好調ニューカッスル戦。
胸の熱くなる試合を期待しましょう。

Transfer Talk – Pedro Henrique Perottiを知ってみよう〜後編

FC東京への移籍の噂がある選手をチェック

前回の投稿では、プロも注目するというサッカーゲームFootball Manager 2023のデータを使ってPerottiのプレースタイルを能力面から想定してみました。

今回投稿では実際にプロのスカウトも利用しているWyscoutを使用して、これまでのプレースタッツを用いてプレースタイルの想定をしていきたいと思います。

Football ManagerはJリーグのデータを有していないため、FC東京の選手との比較ができませんでしたが、WyscoutはJリーグのスタッツも取得していますので、FC東京の現有選手との比較も見ていきたいと思います。

ヒートマップから見る役割

Perottiが現在所属しているシェペコエンセの基本戦術は4−2−3−1です
時に4−3−3も使用していますが、基本的には4-2-3-1の配置で進められることが多く、Perottiはその1トップでプレーすることが中心になっています。
時に左ウィングでのプレーすることもあるようですが、センターフォワードとしてワントップをプレーすることがほとんどなのは、別のスタッツサイトでもあるTransfermarktでご覧いただくとよくわかると思います。

それでは、2022シーズンのPerottiのヒートマップを見てみましょう。

2022シーズンのPerottiのプレイングヒートマップ

ワントップ、と言ってもボックス近くに張ってボールを待つだけのタイプではないことがこのヒートマップからも分かります。
ピッチの幅を広く移動してボールを受けるタイプの選手であることが想像できます。
(センターサークルでのプレーが高くなっているのは、シャペコエンセが失点が多くキックオフすることが多いためこのようになっていますので、この点は無視して良いと思います。)

では、2022シーズンのFC東京で4-3-3のワントップを担っていたディエゴ・オリヴェイラのヒートマップと比較してみましょう。

2022シーズンのディエゴ・オリヴェイラのプレイングヒートマップ

比較してみると、ディエゴの方がより広範にピッチを動いているのに比べて、ペロッティはボックス内、サイドに流れてのプレーが多いことがわかります。
このことから、運動量でディエゴのように勝負するより決まった場所に張って攻撃の起点になるようなプレーが多いことがわかります。

そのため、前回投稿の能力値からも想定できるようにポストタイプの選手として、ピッチワイドにボールを受ける役割が期待されることが想定できます。

スタッツから見る役割

それでは、Perottiのブラジル2部セリエBリーグ戦でのスタッツをみていきたいと思います。
2022シーズン、PerottiのセリエB出場は26試合1,827分です。
この時間内のプレーを90分平均にしたものが以下に示すスタッツとなっています。
一般的なスタッツ(General)、攻撃に関連するもの(Attacking)、パスに関連するもの(Passing)の順に上から並べています。

Perotti 2022ブラジルSerie Bでの90分平均スタッツ

このスタッツを見る中でも比較対象がないと想定が難しいので、ここでも同じスタッツを2022年のJ1リーグに絞ってディエゴのものを表記したいと思います。

ディエゴ・オリヴェイラ2022J1での90分平均スタッツ

両者のそれぞれの項目を比べてみましょう。
総体的にみると、いかにディエゴが多くの仕事をこなしているのか、ということがよく分かります。

最上段のGeneralの項目で見ると、90分あたりのパス数(Passes)クロス数(Crosses)はほぼ倍です。
しかし、空中戦数(Aerial Duels)は倍以上の数をPerottiがこなしています(勝率はほぼ同じ)。

中段のAttacking項目を見るとシュート数と枠内シュート率(Shots / on target)はPerottiが上回っています。
また、ペネルティエリア内でのタッチ数(Touches in penalty area)数、オフサイド数の比較から、ディエゴよりも相手ペナルティ内に侵入したり、相手DFの裏を狙う動きが多いことが見て取れます。

最後に下段のPassingの項目を見ると先に述べたようにディエゴの仕事量の多さがよく分かります。
Passes、Through passes、Passes to penalty area、Received passes、Forward passesと、あらゆる項目でディエゴがPerottiを上回っています。
このことはディエゴがいかにユーティリティなプレーヤーかということを表すと共に、ディエゴに多くの仕事を任せすぎていたことも同時に表しています。

話がディエゴが主語の流れになってしまいましたが、4−3−3という戦術の特性を考えると、ワントップがこれだけ多くの役割を担うことは本来狙うべきサッカーになっていないことを示してしまっています。
その意味では、Received Passesに対してBack Passesの比率が高い(73.9%)というポストの役割を厭わないPerottiの方が、ワントップとして適任であり、このことはよりディエゴを本来の役割で活用できることを示していると思います。

フェリッピではダメなのか

ここまでディエゴ・オリヴェイラとの比較で見てきましたが、では2022年シーズン後半からFC東京に加入したルイス・フェリッピ選手と比較をした場合、フェリッピではダメなのか、ということを最後に考察したいと思います。

フェリッピの場合、1,000分以上の試合出場を果たしたのがスポルティングでの2019/2020シーズンまで遡らないといけないことから、単純にスタッツで比較することが正しいのかどうかという疑問点が残ります。
それを除してあくまでもFC東京でプレーした12試合451分というスタッツに限ってみると、以下の通りになります。

フェリッピ2022J1での90分平均スタッツ

プレー時間の差異を考えてみても、先に示したPerottiのスタッツと大きく変わるポイントがない、というのがご覧いただけるかと思います。
つまりは、フェリッピに求めた仕事をPelottiもこなせる、ということがスタッツ的にもみてとることが出来ますし、逆を言えば2022シーズン少ない時間でフェリッピがこなした仕事をペロッティはシーズン通してやってきた、ともいえます。

各々の選手が活躍したフィールドの差異を数値的に表せないために、この比較に意味を持たせることは非常に難しいのですが、あくまでも直近の数値比較にJリーグファンという考えを加えると「Jリーグというサッカーを理解したであろうフェリッピが、獲得候補と同じ数値を出しているならフェリッピでいいのではないか?」という疑念も湧いてきます。
もちろん、巷間に噂される2億円超というフェリッピの獲得オプション行使をするのであれば、新たな選手をレンタルで獲得することのほうが財務的なインパクトが少ないとも言えます。
さらには、新外国人選手が日本という国、さらにはこの治らないコロナ禍に馴れる時間を考えると、フェリッピの買取検討を夏まで伸ばすことはできなくはないのではないか、という思いが頭を擡げるとも言えます。

もちろん、24歳と29歳、左利きと右利き、スタッツでの違い以上に違うポイントも多い上に、性格上の違いなどもあるためにどちらの選手が良いとか悪いとかは一概に言うことはできません。

しかし、ここまでみてきた中では、Perottiに期待される役割は

  • 高いフィジカルを活かして全線での起点となる
  • ディエゴの負担を軽減する
  • ゴール前での高い枠内シュート
といったポイントを期待されているように思います。
本日現在、まだレアンドロの去就が明らかになっていませんが、極めて個人的な意見を言うならば、Perottiが左サイドもできると言うことを考えると、レアンドロの去就如何ではフェリッピも残しての前線ハイタワーもオプションに入れながらの比較検討でもいいのではないかと思います。
フェリッピの足元の柔らかさとフィジカルの強さはJリーグでは驚異になりますし、Perottiの枠内シュート数の高さ、起点となれるであろう力量も魅力的です。
前線に二つの起点がある、というのは相手DFにとっても試合終盤に非常に厄介になる可能性も高いですし、これまでにそんなサッカーを見たことがない、という興味も含めて。
ただ、これでPerottiがFC東京に来なかったら、この分析は他サポーターさんの参考にして頂ければと思います・・・。

Transfer Talk – Pedro Henrique Perottiを知ってみよう〜前編

FC東京への移籍の噂がある選手をチェック

相変わらずの全然管理されてないブログ。
なんとかしないとなんとかしないと、で10ヶ月。あー。
とはいえ、なんとかする気はあるので時間を見つけて積極的に何か更新したいと思います。

今回は2022年12月28日現在FC東京加入の噂となっているPedro Henrique Perotti選手に関して、これまでのStatsなどを使って考察したいと思います。

本人について知る前に思い出すべきこと

Perotti選手本人について考察する前に、彼が所属するChapecoense(シャペコエンセ)について思い出しておくべきことがあります。
ご記憶の方も多いかと思いますが、2016年11月28日に発生したラミア航空2933便墜落事故です。
詳細は上記リンクWikipedia 他に譲りますが、当時このニュースを聞いた際にいったい何が起こったのか、(一応)航空ファンでもある僕はあちこちのニュースサイトを掘っくり返して、この事故の背景にあった人為的なミスに憤ったのを今でも覚えています。
この燃料不足の件は、事故後かなり早い段階で現地報道では問われていましたが、公式な見解が出たのは上記リンクの通り2018年4月までの時間を要しました。
この事故で主力の大半を失い2部降格もやむなしと言われたシャペコエンセは、1年後の16/17には1部リーグ9位、17/18シーズンは14位、18/19シーズンは19位で2部(セリエB)降格、19/20シーズンは2部で首位となり1シーズンで1部返り咲き。
現在は再びセリエBとなっていますが、元来磐石とは言えない財政基盤をローン移籍や選手の売買で乗り越え、悲劇の後もブラジル国内で確かなチームとして活動しています。
そしてこのPerottiは、正に悲劇の直後の16/17シーズン1月に、シャペコエンセU20からトップチームに昇格し、以来ポルトガル2部のCDナシオナルへのローン移籍を含めたシーズンをシャペコエンセで過ごしています。
いわば、シャペコエンセでは「我がチームの希望」としてファンから愛されていたであろうことは想像に難くありません。

プレースタイルを想像してみる - Football Manager 2023編

そんなシャペコの星(であろう)Perottiとはどんな選手なんでしょうか。
能力を数値化する、というのは世界数多あるリーグで基準を設けることは容易にはできませんし、主観が入ります。
Youtubeの動画も代理人事務所が売りに出したい良いシーンを編集しているに過ぎませんので、弱みを観てとることはできません。
そんな時に、極めて客観性が高く、能力値を数値化しているのがゲームのFootball Managerシリーズです。
数値化の詳細は明らかにされていませんが、プロも舌を巻くほどに若手選手までしっかりと押さえており、尚且つその能力を数値化していることを考えると、これを使って想起するのがまずは容易かと思います。

各数値の満点は20点です。
この満点から見ていくと、概ね60%ぐらいの数値を叩き出している「平均よりちょっと上」の選手と言えます。
ただ、この数値が良いのか悪いのか、Perotti選手の数値ではイメージができにくいので、先のW杯でも活躍した堂安選手の数値も載せておきます。

堂安選手のプレースタイル、W杯でのプレーぶりを思い返すと、なんとなくPerottiのプレースタイルが想像できるのではないでしょうか。

堂安選手がテクニック(First TouchとTechnique)及び俊敏性(Agility)で勝負するのに比べて、Perottiはその点が欠けています。
しかし大きく遅れをとっているわけでもありません。
例えば、堂安選手のFirst Touchが15に対してPerottiは12、前者のTechniqueが16に対して後者は12。
こう見ていくと、フィジカルの強さ(Heading,Jumping Reach)と共に決定力(Finishing)を持ち合わせた、典型的なポストタイプの選手または前線で体を張ってボールを守る選手と想像することができます。

本日のところはゲームではあれど、プロも注目するデータの数値化を実践しているFootball Manager2023 の能力値を見てどんな選手なのか、を想像してみました。
明日は実際のシャペコエンセでのスタッツを使って、今回見てきたプレースタイルの裏付けを見ていきたいと思います。

ロシアのウクライナ侵攻とサッカー

「政治とスポーツは別」ということ

2022年2月24日(日本時間)に、ロシアがウクライナに侵攻したことは誰しもが知ることかと思います。
最初に申し上げておくと、一般市民を巻き込むこの蛮行は許されるものではありません。
国際政治学的に見ると、プーチンの人格を分析すると、などは偉い先生方にお任せすべきことであって、一般市民としては、とにかくこの侵略戦争が早期に解決し、一日も早くウクライナ市民が元通り(に近い)生活に戻れることを望みます。

その一方で、ネット上ではロシアをスポーツ界から弾き出すべき、という声が散見されます。
ネット上と言っても、特に酷いのはヤ○ーコメントな訳ですが。
そんなの相手にする必要はない、という気が自分でもしつつ、根幹的なことが理解されてないなという思いがあり、この投稿をしてみようと思います。

「スポーツと政治は別」
というのはある種使い古された言葉ではありますが、このような有事の事態であるからこそ、この言葉を改めてしっかりと見つめ直す時でもあろうと思います。
当サイトでの投稿ですので、サッカーの観点で見ていきたいと思います。

大きな勘違いから助長されているロシア制裁論

まず、今回のロシアによるウクライナ侵攻において、サッカー界として最も注目を集めたニュースは、2022年5月28日にサンクトペテルブルグで開催を予定されていたチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦を、フランスのパリ・サンドニに変更するという、UEFAの発表です。
このニュースにおいて最初に言っておかなければならないのは、このシンプルなリリースが決定的なミスリーディングを招いていると言わざるを得ません。
なぜ変更する必要があるのかを明記せず、要旨としては以下の通りです。

  1. サンクトペテルブルグからパリに変更します。
  2. このような難しい状況で受けていれてくれたフランス政府に感謝します

  3. ロシアとウクライナのチームが行うUEFA管理の試合については中立地で行います
  4. 必要な判断ができるように今後も状況を注視していきます

 

これだけ見ると行間の読み方次第では「ロシアが侵攻したからCLの会場も変更した」と取られかねません。
後述しますが、UEFA、更にはその管理団体となるFIFAは、政治的なことを理由に会場を変更したわけではありません。
残り3ヶ月を切った世界的なイベントに対して、サンクトペテルブルグの会場及び関連施設の安全を確保しないといけませんし、その準備は一朝一夕でなされるものではありません。

試合会場の安全性の確保、およびコンディショニング、選手・スタッフの宿泊先の確保など、その準備は1年以上前からなされているわけです。
そのような状況下において、今後の情勢の見通しが立たない段階であらゆるアセスメントを行い、決断をしないと、決勝戦そのものが行えるかどうかも不透明になってしまいます。
ですから、「現状で正しく状況判断をするためにも、このタイミングで選手・スタッフの安全性を担保するために会場を変更する」という理由を明記する必要があり、それをこのリリースにおいて広く知らしめなくてはならなかったという点を指摘しなくてはなりません。

FIFA Statutesに明記された政治とサッカー分離の原則

ではなぜ先述の通りに理解をすべきなのでしょうか。
それは先にも述べたUEFAの管理母体でもあるFIFAの”FIFA Statutes”訳すれば”FIFAの法令”に明記されているからです。

まず本資料の第4項(PDF13ページ)には以下のように記されています。

  1. Discrimination of any kind against a country, private person or group of people on account of race, skin colour, ethnic, national or social origin, gender, disability, language, religion, political opinion or any other opinion, wealth, birth or any other status, sexual orientation or any other reason is strictly prohibited and punishable by suspension or expulsion. 
  2. FIFA remains neutral in matters of politics and religion. Exceptions may be made with regard to matters affected by FIFA’s statutory objectives.
 
1.については、いかなる国、個人、人種、肌の色などにおける区別・差別はしない、と明記しています。

2.についてがさらに重要なポイントで、「FIFAは政治的、地域的な事柄について中立であり続けます」と明記してあります。
すなはち、今回の事象に照らし合わせるのであれば、「FIFAはロシアがウクライナを侵攻したからといってその中立性を崩しません。ただし、このFIFAの法令を破るようなことがあれば、それは別です。」ということになります。
更には15項(PDF19ページ)において、メンバー国に対しても政治とは分離した主幹組織の組成を規定しています。
(a)〜(k)までの項目がありますが、今回の事象に関連するのは(a)〜(c)となるので、ここではそれを転載します。

  • (a) to be neutral in matters of politics and religion; 
  • (b) to prohibit all forms of discrimination; 
  • (c) to be independent and avoid any form of political interference;
 
順に見ていくと(a)政治的・地域的な事柄から中立であること (b)全ての差別を禁じていること (c)いかなる政治的な影響を受けずに独立していること ということになります。
つまりは、ロシアのサッカー主幹組織であるロシアサッカー連合(RFU)が、この憲章に明確に反しているということが立証されない限りFIFAおよびUEFAからロシア=RFUを除名する、つまりは国際大会から除名することはできません。
これを「戦争はその差別に含まれる」などと言い出すと、戦時下の国は全て除名または資格停止となり、FIFAが本来敷いている「政治的・地域的な事柄については中立である」という自らの組織定義を否定することになります。
よしんばロシアを資格停止にしたとするならば、それは理事会において極めて政治的な信条によった恣意的な判断が行われたと言わざるを得ません。
このような「法令」を掲げてきた以上、FIFAはロシアを除外または資格停止にすることができないわけです。
この点に関しては、過去にクウェート侵攻をしたイラクにも同様のことが言えます。
当時イラクはサッカーの大会から除名はされていません。
今回ロシアを除名する、という運びになれば、時を遡ってイラクはどうなんだ、イランはどうなんだ、フォークランド紛争のアルゼンチンはどうなんだということになります。

上記から考えると、ロシアを国際的なサッカーシーンから締め出せ、というのはFIFAが掲げるサッカー本来のあり方から逸脱する意見であり、よもやそれが行われたとするならば、それは国際サッカーのあり方を根底から覆すこととなってしまいます。

制裁の目はなし

そうは言っても、人としてやはり今回の蛮行は許し難いものです。
FIFA、UEFAがロシアをサッカーシーンから締め出せないなら、何が起これば締め出せるのか。

結論を言えば、先に示したFIFA StatutesにRFUが明確に違反していること、つまりはRFUにロシア政府が介入し意思決定を行うこと、またはロシアという国じたいが国連制裁を受けるしかありません。

過去を見てみると、ここでは内戦下にあったユーゴスラビアがEURO 92’への出場ができませんでした。
(ここでは当該の内戦については細かく触れません。ご興味のある方はお調べください。)
この際は、内紛が続くユーゴスラビアに対して、国連がスポーツも含めたあらゆる禁止事項を含んだ制裁を課したため、ユーゴスラビア代表は活動を許されず、スウェーデンに渡航することも叶いませんでした。

いやいや、これは流石に政治的な事柄にFIFAが縛られているではないか、という思いも私自身でさえもします。
ただ、このケースの場合は国連という政治的・地域的な括りというよりも、国内間問題を検討する組織体の中で合議の上決定した、ということにFIFAも従わざるを得なかった、ということになります。
ここでサッカーだけは例外、ということが起きていたとするならば、それこそFIFAの権力が各国代表の判断を超えるほど影響力が大きくなりすぎた、ということにもなってしまいます。

では実際に国連制裁がロシアに下って、国際サッカーシーンから締め出されることがあるのか、というとそれは現実的ではないでしょう。
国連安全保障理事会の常任理事国にロシアがいる限り、ロシアは否決権を行使しますので、国連内で孤立する印象こそつけられるでしょうが、実態として国連としての強い制裁は現実にはならないでしょう。
実際に、ロシアの否決により日本時間2022年2月25日にはロシア非難決議案が否決されています。

つまりは、サッカーファンとしては、それが納得し難いものだとしても、ロシアを国際サッカーシーンから消すということは出来ません。

欧米サッカー弱体化への始まりの可能性

ここまで述べてきたように、スポーツシーンにおいてはロシアを締め出すというのは、公正なことではありませんし、公正さを脇に置いてなんとか実行しようとしても不可能なわけです。

ただ今回の侵攻が、サッカーファンとしては本義ではありませんが、結果的にはロシアサッカーの弱体化の起点になるように思います。
親善試合や代表ウィークのAマッチを設定するのは各国主幹組織の自由です。
マッチメイキングができそうな国に打診をし、合意することができるなら試合をすることができます。
逆の意味で言うと、今回の侵攻を非難する各主幹組織からすると、自国の代表がロシアと試合をしても良いことがないと判断すれば、ロシアとの試合をセットする必要がありません。
サポーターが暴れる可能性がある、政治的なメッセージがピッチ内外で掲げられるなど、安全で安心な試合を行えないことを理由に、ロシアとのマッチメイクは避けることができます。
これは先のFIFA Statutesにおける中立性ではく、開催する試合の安全性を担保しなければならない主幹組織に与えられた権限です。
然るに、中長期的に見て、特に欧米各国・NATO加盟国やその連合国は、政治的に中立でありたいという暗黙の理由からロシアとのマッチメイクはしなくなるのでしょう。
例え中立地で試合をしたとしても、自国内サッカーファンからの批難は避けられません。

同様に、今回の侵攻が一個人に与えた印象も強烈だったでしょう。
ロシア国内で活動する非ロシア人選手が「不安定で先行きも不透明で自分の安全に関わる」という理由で退団することもあるかもしれません。
海外指導者も同様にロシア行きを拒むでしょうし、各国の育成ノウハウも共有されなくなってしまうかもしれません。
プレーする、指導する現場はあくまでも一個人ですから、サッカーという側面では各個人はその信条に従って行動するようになるでしょう。
レベルの高い選手がリーグに入って来なくなれば、国際試合で十分に戦える選手は、自国内のみで育成しなければならなくなります。
ロシアの育成メソドロジーがそこまで成熟していれば問題ありませんが、国際的に活躍する若手も少ない現状を見ると、さらなる後退は余儀なくされるでしょう。

一方で、各国リーグでロシア企業のスポンサードを受けているチームも同様でしょう。
実際に日本時間2022年2月25日には、マンチェスター・ユナイテッドが日本円で12億円相当の、ロシア航空会社アエロフロートとのスポンサー契約を破棄することを発表しています。
また、2007年からロシア企業ガスプロムのロゴをユニフォーム胸スポンサーとしているドイツ2部シャルケも、表記を無くしたユニフォームでプレーすることを表明しています。

ロシア企業のロゴを胸につけて躍動する選手をサポーターは見たくもないでしょうから、反対運動が巻き起こることになるでしょう。
となると、そのチームは新たに莫大な資金を注ぎ込んでくれるスポンサーを探さなくてはなりません。
しかし、コロナ禍で多かれ少なかれ痛手を被っている企業が多い中で、そのような新スポンサーを見つけることも難儀でしょう。
結果トップチームも青息吐息になり、ユースチームなどへの投資が絞られてしまうこともあるでしょう。

つまり、今回の侵攻は、ロシアのサッカーシーンを苦しませるだけではなく、欧州サッカーをも引っくり返すことになってもおかしくない事態であると想像するのはするのは難くありません。

僕が応援するチェルシーも、誰もが知るようにロシア人オーナーのチームです。
各国の経済制裁により、アヴラモビッチ氏の企業の資金凍結などとなれば、チェルシーも一緒に叩き落とされることにになります。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は決して許されるものではありません。
また、オリンピックを始めとするスポーツ大会の開催には政治との関係は不可欠でもあります。
その一方で、プレーヤー・ファースト、どのような政治状況下にあっても選手がプレーをする機会を政治的な要因により取り上げることはないとするFIFA Statutesを僕は支持します。
サッカーは、スポーツは、政治的背景を除することはできなくても、与えられたフィールドの上で、共通のルールの下で互いが鎬をけずる場であるべきなのだから。

Match Review 2022.2.18 川崎フロンターレ vs FC東京

2022年シーズン開幕。

監督、コーチ陣のみならずフロントも変わり、今シーズンのFC東京がどんなサッカーを見せてくれるのか。
昨シーズンまではポゼッションを放棄したカウンターサッカーをやっていたFC東京が、”ポジショナルプレー”、一言で言うなら”常に良い位置を取る”サッカーで”ボールを愛する”サッカー、と言う真逆のサッカーを志向していくことが果たしてできるのか。

恐らく多くのFC東京ファンの方々がそんな心配を胸に、リーグチャンピオンとの開幕戦となるこの試合を観たと思います。

僕自身と同様に、その多くのFC東京ファンの方は「川崎相手だし、今シーズンの方向性が感じられればいいかな」と思っていたのではないでしょうか。
いやはや。そんな思いを抱いていた自分が恥ずかしくなるほどの胸躍る試合でした。
試合終了後に等々力に集まったFC東京サポーターを煽ったアルベル監督の姿に、こんな甘い考えで観戦した自分を恥じたほどでした。

11秒間で8本のパスを繋げた試合序盤のメッセージ

試合が進むにつれ、FC東京のポゼッションの高さに目を見張りました。
試合開始後15分は、監督、選手が語ったようにバタバタとして、ボールを扱う精度も川崎との間には雲泥の差があるように思えました。
しかし、今シーズンのFC東京は面白いかもしれないぞ!そう僕が目を見張るシーンは試合開始早々にやってきました。

そのシーンは、両軍ボールが落ち着かず主導権争いが口火を切った前半1分36秒に、エンリケ・トレヴィザンが川崎レアンドロ・ダミアンへの楔のパスをカットしたところから始まります。
ここからボールは、青木→小川→青木→安部→永井→青木→安部と繋がり、1分47秒にディエゴ・オリヴェイラへの楔のパスがカットされる形で一連の流れが終わります。
各選手が三角形を構成して、ワンタッチでボールを繋ぎ、11秒の中で8本のパスが交わされました。
このプレーに、昨シーズンまでとこれは本当に違うぞ!という端緒を見た気がしました。
これまでチームのリリースや各種報道で言われてきた今シーズンのFC東京のスタイルというものは、本当なんだ、選手もこういうサッカーをやろうとしているんだ、というメッセージが画面を通して伝わってくるようでした。

試合開始直後だっただけに、このシーンでどれだけの人が心動かされたかはわかりませんが、DAZN加入者の方は是非見直してもらいたいと思います。
90分を通して試合を支配したFC東京でしたが、ディエゴにこそボールは通りませんでしたが、僕はこのプレーがこれから磨かれて行くであろうチームの方向性を如実に表した美しいプレーとして印象に残りました。

カウンターアタック0というメッセージ

ここでデータを幾つか提示してみます。
データ元はプロも活用しているwyscout.comから抜き出します。

チーム全体及び選手個々のパフォーマンスを、General、Attacking、Defending、Passingの大項目から見ることができるのがWyscoutの大きな特徴ですが、試合後にデータを眺めていて目を引いたのがAttacking項目配下の”Counter Attack 0″という数値です。

カウンターアタックと言えば、前任長谷川監督指揮下でのFC東京の代名詞と言っても良い戦術でした。
新チーム始動から1ヶ月程度、開幕戦ということを考えれば、ビハインドな状況などでは慣れ親しんだ戦術に選手が頼ってしまうこともあるでしょうし、更には選手個々にもその感覚を捨てきれないだろう、と思っていました。
ゆえに、カウンターアタックが0というのは、個人的には軽く頭を殴られたような衝撃でもありました。

 

 

Wyscouticデータ一部Screen Shot

一応ここでWyscoutが定義するCounteattackを記しておくと
A transition of the possession from the opponent team, where the team is transitioning quickly from defensive to attacking phase, trying to catch the opponent out of their defensive shape.
と記載があります。
つまりは、ボールのポゼッションが相手チームから移り、相手チームディフェンスの体制が整わない間に素早く攻撃に転じること、ということです。
98分間を通して、FC東京はこういった攻撃がなかったということをこのデータは表しています。

これが何を意味するのか、はもはや説明する必要もないと思いますが、いかに2022のFC東京が相手からボールを奪っても、慌てて相手DFの裏側に蹴り出すような非効率な攻撃をするよりも、しっかりと繋いで自分達が動いて良いポジションを取りながら(ポジショナル)、ボールを繋いで攻撃をして行くのか、ということを意味するほかありません。

ちなみに、過去はどうだったかというと、2021シーズンはカウンター0が7試合あり、3勝3敗1引分でした。
相手のある話ですので、カウンター0で抜き出しても結果が変わってくるのは当たり前ですが、ポゼッションやポジショナルアタッキング(ボールを握って攻撃した回数とシュート数)といったデータと並べてみると、この試合でFC東京が表現したものがいかにこれまでと違った質のものだったのか、が分かると思います。

 

 

2021~2022シーズンのカウンターアタック0のチームデータ抜粋(Wyscoutデータを元に筆者作成)

平準化という課題

その他、この試合で語りたいことは多くありますが、色々なメディアやファンBlogで多く論じられている通り、人を魅了する試合だったことは間違いないと思います。
注目の超高校級スター松木のデビュー戦とその新人とは思えないプレーぶり、また新戦力新戦力スウォビィク、木本、エンリケのシュアなプレーぶりなども含めて、Jリーグファンの正月でもある開幕戦に相応しいものが見れた夜であったと思います。

一方で、果たしてこの試合でできたことが、メンバーが変わっても質を落とさずにできるのか、という課題にチームはこれから直面して行くと思います。

この試合、コロナの影響もあるのでしょう、何人かのスタメンクラスの選手が不在でした。
そのため急遽出場した選手もいたかと思いますが、この試合が今シーズンの基準になります。
アルベル監督が言うように、まだまだ道半ば、20%の出来だということであれば今後よりこの質が向上して行くことは間違いないでしょう。
一方で昨シーズンまでも多く感じたことですが、控え選手が入ると同じことができない、選手交代策の意図が見えにくいといった、チーム全体を平準化するという部分が極めて不足していました。
この点をアルベル監督がどうレベルの高い平準化ができるのかが大きな鍵になるかと思います。

この記事をこうして書いている間にも、コロナによりチームが1週間活動を停止すると言うニュースが入ってきました。
変異をし続けるこのウィルスとは、我々はこの先も長く付き合っていかなくてはならないのでしょう。
そうした場合に、コロナにより機会を得る選手、失う選手が出てくることもまだまだ続くと思います。
その時に、チームの高い水準を維持する平準化ができるのかどうかが問われてくると思います。

川崎フロンターレは少ないチャンスを活かして勝利しました。
確かに試合はFC東京が主導権を握っていましたが、交代で入った選手がしっかりと仕事をし得点に絡んだと言う意味では、やはりフロンターレはチャンピオンとして高い次元でチームの水準を維持出来ているとも言えます。

魅力的なサッカーをし、多くの人々の注目を集めた開幕戦。
首都東京のチームとして、さらに多くの人々から注目されるためにも、この試合のフロンターレのように、誰が出ても結果が伴う試合をして勝利しなくてはならないでしょう。
そのためにも、松木ばかりが注目されますが、同年代の若手選手にはもっと奮起してもらわなければなりません。

アルベルサッカーの熟成と共に、チーム全体の底上げを実感できる。
そんな2022シーズンになってくれること、そしてチーム内罹患者の皆さんが早期に回復することを祈っていきたいと思います。

Match Review 2021.5.15 柏レイソル vs FC東京

5連敗、という結果を受けた瞬間から思い出すのは、15年前の2006年のこと。
8月26日の清水エスパルス戦から10月15日のサンフレッチェ広島戦までの8連敗のことです。

当時既に千葉県に住まいを移していましたので、9月30日味スタでのアルビレックス戦に敗れ6連敗となった試合後の帰路の腹立たしさに任せて、帰宅した瞬間に持っていた荷物を廊下の壁に打ちつけました。

その時妻に「負けて悔しいのは分かるけど、選手の方がもっと悔しいんだから、あんたが怒ったってどうにもならないわよ!」と怒られたのを今でも覚えています。

以来、応援しているチームが連敗しても、良い部分を探してそこをチームが気づいてくれることを信じていこう、そんなふうに考え方を変えました。
その結果が多くの方に目を通して頂いた”FC東京の窮状を考えてみる”と”FC東京の窮状を考えてみる2~補強策の成否について”であったりします。

応援している、愛しているチームの連敗というのはファン・サポーターにとっては辛いものです。
しかし、そこを自分なりに理屈を持って納得し、信じることで突破してくれた時の喜びは一入と言えます。

15年前の闇を抜けた時は、77分から84分でガンバ大阪から3点を奪った3-2の勝利だったことを考えると、FC東京というチームは派手に突破口を見出すチームだな、などと独りごちながらベランダで飲んだスーパードライと赤ワインは至極の味でした。

上記を見ていただくと、橋本の数値を上回る結果を青木が出していることが分かります。
「いやいや、そう言っても橋本は海外の厳しい環境でやってるでしょ」というご意見もあるかと思いますが、橋本自身がロシアに行ってから各スタッツが大きく下がっていることはなく、むしろキャリア全体の数値を採用しているので、割合の少ないロシアの数値は全体に比して誤差程度です。

このダイアグラムから読み取れるのは、橋本と青木の数値は非常に似通っており、シルバは彼ら二人に比べると守備的MFに必須なデュエル能力で彼ら二人の後塵を拝すということが分かります。

では守備的なスタッツを比較するとどうでしょうか。

 

札幌戦のレビューを書かないとな、と思っているうちに時間は過ぎていき、業務やコーチ業で疲弊してあっという間にフロンターレ戦当日を迎えました。
と同時に札幌戦のレビューは放棄する、という安易な選択肢を選んだわけですが、「別にレビュー書いて給料もらっているわけでもなし。」と思っているわけではなく、単に1日が48時間あったらいいよね、ぐらいに思っているワーカホリックです。

さて、あらゆるところで触れられていることですので今更言及する必要もないのですが、FC東京が勝てなかった理由はその過程が全てであり、川崎の勝因はその誤ったFC東京の過程を見逃すことなく楽に自分達のペースを維持できたことでしょう。
そのくらいFC東京のプロセスは酷かったです。
「結果良ければプロセスが悪くてもOK」であったのはシーズン序盤によく言われる言葉ですが、シーズン中盤に突入するこの時期にあのプロセスでは先が思いやられる、というのが正直な感想です。
一方で自分を宥めているのはその「シーズン序盤」という言葉です。
まだ9節。今シーズンは残り29試合あるわけです。
4分の1が終わったこのタイミングを序盤とするのか中盤とするのか、これによって見え方は大きく変わってくると思います。

柏 - スターティングメンバー選出に失敗

後半20分の間にFC東京はよく失点をしなかった、と言えるほどに柏レイソルの重圧は非常に厚いものでした。
逆を言えば、後半のプレーを本来は試合開始後から展開したかったのかと思いますが、公式戦4試合でうまく結果が出ていなかった上に、その内の3試合が横浜FC、ベガルタ仙台、アヴィスパ福岡とレイソルから見れば「格下」とも言えるチームに対してクリーンシートを喫しているということが焦りにも繋がったスタメンだったように思います。

上記の試合を振り返ってみても、ポゼッションでは相手を圧倒しながらも決め手にかけて結果に繋がらなかった、という事から考えると新加入選手を一気に使ってチームバランスを崩すリスクをこの試合で取る必要があるのだろうか、というのがスターティングメンバーを見た時に感じました。

具体的にはエメルソン・サントス、ドッジ、アンジェロッティという3選手が加入後初先発しました。

エメルソン、ドッジは非常に良いパフォーマンスを局面局面で見せていましたが、殊更エメルソンについてはここで先発させるというのは総体的難易度をあげてしまったのではないかな、と振り返ると思います。
特にレイソルが志向している3-4-3のフォーメーションは、全体をコンパクトにして攻守の切り替えを早くするサッカーを目指したものになります。
すなはち、DFラインの上下動は3人のDFが細かくコミュニケーションを取るだけでなく、時には阿吽の呼吸で「ここは下がるべきだな」「ここはあげておこう」というバランスを保つ必要がある戦術とも言えます。

個の対応で強さを所々見せていたエメルソンではありますが、このラインコントロールの部分で他選手との呼吸が合っていたとは言えず、DFラインがバタバタとしているうちにFC東京のDFライン裏を狙う動きで失点を重ねてしまいました。
3失点してからは、GKのキムがDFラインの裏をケアする動きが多くなり、なんとか全体的なバランスを保ちましたが、このキムの動きがなければあと2点ぐらいは失っていたかと思います。

思うに、レイソルの場合はここ数試合の状況がそんなに悪いわけでもないにも関わらず、結果が出ていないことに囚われてチームの背骨となるセンターバックからトップまでを全て変えてしまったことが敗因のように思えます。
後半20分間見せたように、圧倒的なポゼッションとスペースを突く動きはできているので、まずはDFラインは日本人選手で構成しながら、ドッジの運動量を活かしていくと、そして江坂を始めとする中盤より前の選手とアンジェロッティティのタイミングを合わせていけば上手くハマる日が早晩に来るように思います。
エメルソン・サントスが良い選手なのはこの試合のディエゴ・オリベイラへの対応やデュエルでよく分かりましたので、焦らず少しずつ新戦力をフィットさせながら勝ち点を積み上げることを目指した方が良いように思います。

FC東京もそうですが、昨シーズンのカップ戦決勝を共に戦ったチーム、双方共に年明けまで戦った疲労をようやく乗り越え、新戦力のマッチに入れるフェーズだけに、焦らなければ結果はついてくるように思います。

東京 - 外からの目がもたらした勝利

FC東京を救った選手の筆頭は間違いなく高萩でしょう。
ハイプレスで襲い掛かるレイソルのプレッシャーをいなすように、ワンタッチでシンプルにボールを動かしながら、効果的にピッチの幅を取る動きを繰り返し、レイソルDFラインの裏を狙うパスを繰り出すなどここ数試合で見られない「繋ぎを担う」動きをFC東京のピッチ内で展開してくれました。

スタッツだけを眺めると特段良い数値ではないのですが、このスタッツに表れないピッチを動き回る姿勢というのがこれまでの東京に不足していたものを与えてくれたと言えます。

 

高萩Heat Map

FC東京を救った選手の筆頭は間違いなく高萩でしょう。
ハイプレスで襲い掛かるレイソルのプレッシャーをいなすように、ワンタッチでシンプルにボールを動かしながら、効果的にピッチの幅を取る動きを繰り返し、レイソルDFラインの裏を狙うパスを繰り出すなどここ数試合で見られない「繋ぎを担う」動きをFC東京のピッチ内で展開してくれました。

スタッツだけを眺めると特段良い数値ではないのですが、このスタッツに表れないピッチを動き回る姿勢というのがこれまでの東京に不足していたものを与えてくれたと言えます。

図=ヒートマップ

本人も試合後のインタビューで語っている通り、

“勝つことができていない中でリーグ戦の出場機会が少なかったので外から客観的にチームの試合を見ていた”

という外からチームが苦しい状況を見て、自分ならどう動くのか、ということを考えそれを実践できるというベテランらしい動きがこの試合の好結果に結びついたと言えます。

その上にこれまでに指摘されていたDFラインが下がる、という課題に関しても意識を高く持ち、常にDFの選手に声をかけていました。

後半反則でレイソルにFKを与えたシーンでも、

「おい!下がるな。さがるなよ!」

とDFの選手にかけた声がマイクに拾われていましたし、試合の最中でも首を振ってはDFに対して、前に前に、と手で示すシーンが何度も見られました。

外からサッカーを見たベテラン選手が窮状にあるチームを救う、というのはよく聞くストーリーでもありますが、代表、海外チームなどで経験を積んだベテランがこのタイミングで目に見えない形でチームを救ってくれたことは非常に価値が高いと思います。

この高萩の姿を受けて他の選手がどう振る舞うのか。

ピッチにいた選手は刺激を受けた部分も多いのではないか、と思います。

フィットし始めた中盤の底

前回投稿で橋本の後継としての青木獲得は間違いでない、ということを述べました。

この試合でも青木はその力量を見事に示していたと思います。

Wyscoutのスタッツ的にはチーム全体で150/269(勝率55.76%)のデュエルの内、約15%に及ぶ23回のデュエルで15回の勝率をあげています(ちなみに守備時のデュエルだけなら13回で77%の勝率)
チーム全体で言えば、高萩が38回(勝率34%)、安部28回(同50%)、アダイウトン24回(38%)に次ぐデュエル回数を考えると、その勝率の高さも出色です。

ボールリカバリーも森重(19)、渡辺(11)、小川(10)に次いで8と中盤の底としては十分な数字を示している事からも、目立たないところでしっかりと守備面で貢献してくれていることがわかります。
いよいよ東京の中盤の底を任せるに相応しい結果を出し始めています。
運動量豊富な安部とダブルボランチを組む形でのこの試合でしたが、相互に補い合うことで押されている時間帯もきっちりと守備面で安定をもたらしていました。

5連敗という闇の中にありましたが、あの惨敗であった鹿島でもデュエル勝率80%というパフォーマンスを出していた事からも、青木を中盤の底に固定する流れができたようです。

印象的に地味(失礼)な選手ではありますが、目立たずともきちんと結果を出す縁の下の力持ち、という意味でも貴重な選手がようやく本領発揮となったようです。

これから安定したパフォーマンスを出してくれることでしょう。

勝って兜の・・・

 

前半20分までの3得点で終わらずに4点目を取り、尚且つクリーンシートで終えられたというのは選手にとっても非常に自信になる勝利だったのではないかと思います。

ただ、気になるポイントがなかったわけではありません。

攻撃面では左サイド偏重になってしまっていたために、右サイドの田川、内田が守備的なプレーになってしまっていた点が非常に気になります。
全体的なバランスを取る、という意味では左偏重な分右は下がってバランスを取る、というのはわからないでもないですが、逆を言えば左を抑えられた時に右からどうやって崩していくのか、というアイディアが見られなかった点が今後の課題になるのではないかと思います。

終盤に中盤でボールを奪った内田がそのままゴール前に上がりシュートまで繋げたしシーンがありましたが、あのシーン自体は右サイドで崩したのではないため、この勝利を今後につなげる意味でも右からの攻撃の形成をどうするのかは注意していかなければならないポイントかと思います。

ちなみに追記するとすれば、22分に内田がパスをカットされた直後に自陣に向けて走り出す動きを見せた点も気になったポイントです。

3点を奪って優勢な状況ではありましたが、あの場面は内田がボールホルダーに対してプレッシャーをかけるべきだったと思います。

田川が内田に代わって右サイドバックのポジションに入っていた事からも、内田がプレッシャーをかけにいくというイメージを持たないと、右サイドだけが下がり気味になって相手の攻撃の起点にされてしまいます。

本職右サイドバックではないのでその点では仕方がないかな、という思いはあれども、攻撃的にプレッシャーを掛けにいけていた全体感の中では違和感のあった瞬間だったと思います。

全体的には柏ボールになるとDFからFWまでの3ラインが形成され、10人のピッチプレーヤーが一つの画面に収まるコンパクトさが見られたことは非常に良かったと思います。

一方でボールを奪われた瞬間は、まだまだ前線の選手がプレスを掛けに行く一方で、全体が下がり気味になってしまい全体が間延びしてしまうシーンが散見されました。

レイソルが試合を支配した20分間もそのような状況の繰り返しでしたので、奪われた瞬間にFWがプレスに入るのか、それとも1枚行かせてボールを追わせながら他は引くのか、など決め事をしていかないと上位チームと当たった時にそのポイントを容易に使われてしまうかと思います。

厳しい言い方をしてしまえば、レイソルの出来が良いとは言えなかった中でその弱点をついて早々に試合を決めたことは大きな評価ポイントですが、一方で戦術的には粗さが見られた試合でもありました。

この勝ちに甘んじることなく、更なる選手間コミュニケーションを重ねてチームとして上昇気流に乗ってもらえるように願っています。

FC東京の窮状を考えてみる2 ~補強策の成否について

前回投稿ポストFC東京の窮状を考えてみるがこんな大っぴらに宣伝もしてないBlogにも関わらず700を超えるページビューを頂きました。
そんな中、以下のようにTwitterにて@matsu さんよりご感想とご質問を頂きました。
@matsuさんのご了承を頂いた上で引用致します。

非常に多くの東京サポーターが感じている室屋、橋本の穴埋め、という問題について問われています。
他チームが良い補強をしている(ように見える)ということもあり、このようなご質問を頂いたと思いますが、このポイントを考察してみる貴重な機会になるとも思いましたので、僕なりにご回答というか、考えを述べさせて頂ければと思い予定外の第2弾投稿です。
※マリノスやフロンターレの補強戦略については長くなるので今回は省きます。

 

2020年夏を振り返る

まず、大前提として、日本代表までになった実力を持つ選手の穴埋めをすることは至難の業である、ということを我々も冷静に捉えないといけないと思います。
この手の大きな穴埋めを行うに当たっては、大きくは3つの対策があると思います。

  1. 相応の力量を持つであろう外国人選手を補強する
    • ただし、この場合は当該選手が日本やJリーグに馴染めるか、というリスクがある
  2. 相応の力量を持つ日本人選手を補強する
    • この場合は候補選手が他チームの主力であるため、簡単に交渉が進まない可能性が高い
  3.  いわゆる”下位互換”型の選手を獲得し、使いながらチーム力を相応のレベルまで上げていく
    • この場合、多くのケースでは即戦力新人補強が主体
      • 新人選手の獲得またはアカデミーからの昇格で賄う
    • ただ、サテライトリーグの終了やFC東京のJ3参加が終了してしまったことからも、若い選手をJ1の試合使いながら育てなければならないという難しさがある

この観点で考えると、橋本や室屋がJリーグシーズン途中での移籍であったことから考えると、上記1と2の補強というのは難しかったと思います。
またその背景には受け取る移籍金が相応でなかったことからも、適当な補強資金を投入することができなかったこともあり、補強を先送りして置かなければならなかった台所事情があったかと思います。
加えて予期しなかったコロナ禍であったことからも、取りうる策は3の一択であったと思います。

しかも先述の通りシーズン中であることからも現有戦力で賄うしかありません。
室屋の穴は、左サイドバックとして試合に出ていた中村穂高が主力となり、左の小川と共にサイドバックを構成しました。
そのバックアッパーとして中村拓海が左右を適宜担当する形式でなんとか事なきを得られたシーズンであったといえます。

橋本の穴が難しかったと言えます。
ここは後述をしますが、当時の戦力では若い品田や荒削りなシルバを使いながら育てるしかありませんでした。
ただし、この二人では勝負がかかったポイントで不安があったため、森重のアンカー起用という、ある意味で最終ラインの強度を下げるというリスクを取る奇策で乗り切りました。
この背景には森重の代役で起用したオマリが出色の出来を見せた、ということもありました。
こうしてみると、非常に幸運とも言える要素があったと今振り返ると思えます。

2021年本当に穴埋めはできていないのか

冒頭に頂いたコメントの中にもあったように、「橋本、室屋の穴埋めができていない」ということはネット上でも多く見られる意見です。
ではそう感じるのは何故でしょうか?
恐らくこう質問させていただくと、「チームのスカウティングが悪い」「他チームで控えにしかならない選手しか取れない強化部」などなどのご意見が出てくることと思います。

ここで冷静に考えてみようと思います。
補強した選手が退団した選手と相応の実力を持っている選手のようだ、ということが客観的に示されたとしたら、どんな風に思考が変わるでしょうか。
選手の評価というのは見ている我々ファンの印象で変わります。
では冷静に選手を評価する尺度があったら、さらにその印象も変わるのではないでしょうか。
そのために現在は多くのスカウティングツールがプロ向けに開発・提供されており、大半のプロチームはそれらを複数使用して選手を客観的に分析し、必要な補強策を検討しています。
プロが使うスカウトツールにどんなものがあるのか、は以下の記事を読んでいたくのが良いかと思います。

サッカー界もマッチングアプリの時代に? 名将ビエルサ率いるリーズが明かす移籍市場でのデジタル戦略とは (Number Web)

そこで今回は上記にも記載されているWyscoutのWriter Editionから選手の統計データを使って比較を行いました。

ちなみに、個人の趣味でやっている限りですので、係る費用も持ち出しです。
なので全てのサービスは契約できませんので、あくまでもWyscoutで限定して提供されるデータを使用している点はご了承ください(宝くじでも当たれば契約できるサービスは全て契約したい・・・)。

橋本の代わりは青木、が正しい

ではWyscoutのデータを使って橋本、青木、そして橋本退団後にアンカーポジションで起用されていたシルバを比較してみましょう。

とはいえ各選手のキャリアや出場試合レベルもまちまちのため、出来る限り均等に数値を比較できるように、プレーの正確性を示すプレーの成功率で比較をしましょう。

以下はプレーアクションを起こした結果の成功率を示すTotal Action、枠内シュート率、パス、ロングパス、クロス、ドリブルの成功率、デュエル及び空中戦の勝率、自陣でのボールロスト率、相手人内でのボール回収率といった一般的指標をレーダーチャートにしたものです。

Figure 1

上記を見ていただくと、橋本の数値を上回る結果を青木が出していることが分かります。
「いやいや、そう言っても橋本は海外の厳しい環境でやってるでしょ」というご意見もあるかと思いますが、橋本自身がロシアに行ってから各スタッツが大きく下がっていることはなく、むしろキャリア全体の数値を採用しているので、割合の少ないロシアの数値は全体に比して誤差程度です。

このダイアグラムから読み取れるのは、橋本と青木の数値は非常に似通っており、シルバは彼ら二人に比べると守備的MFに必須なデュエル能力で彼ら二人の後塵を拝すということが分かります。

では守備的なスタッツを比較するとどうでしょうか。

 

Figure 2

空中戦とボールロスト、リカバリーは先述の項目と同様ですが、ここでは守備時のデュエル勝率とスライディングタックル成功率を加えています。
ここでもやはり青木の出している結果は橋本と大きく変わりません。

Figure 3

最後にパスのスタッツ比較です。
橋本と青木で顕著に違うのは、ロングパスの成功率とペナルティエリアへのパス成功率です。

ここの選手が置かれている状況は様々ですが、抜けた穴を埋めるには同様の特性を持った選手を補強したい、と考えた時にはその選手同士の何らかのデータを比較し検討することが必要です。
ゲームのようにそれぞれの選手のスタミナやスピードが同じ基準で数値化されたものがない以上、パスなどの正確性から獲得を検討しているのは先に挙げた記事からもわかるかと思いますし、そのプロが使っているデータを利用して客観的に比較した結果がここまでのものです。

つまりは、選手個人の能力を推測するデータから判断すると、橋本の穴は青木で十分に埋められたことが分かります。

ただ難しいのは、データを取得するチーム=条件が全く異質なのでその変数を数値化できない限り正確な判断はできないでしょう。
けれども、それが出来たらどのチームも獲得移籍には失敗しません。
つまりは、その数値化できない変数があるからこそ、同様のスタッツを持ち、同様のプレーが期待できる選手が期待通りのプレーをできない、のはチーム戦術や起用法、チームに馴染めているか、などの要素によるものとも言えるでしょう。

言うなれば、この吉と出るか凶と出るか、が移籍の面白いところでもあります。

じゃあ室屋の穴はどうなのか

では全く同様の比較を、室屋、中村穂、中村拓でも行ってみました。
このケースではGeneral StatsとDefensive Statsのみを用いています。

Figure 4
Figure 5

どんな印象でしょうか。
僕個人は、サンプル数が少ない、という前提はありながらも、中村拓はよくやっているじゃないか、という印象を強く持ちました。
「拓海の守備は心許ない」という印象を多くの方がお持ちと思いますが、デュエルでは室屋と同等、守備面でのデュエルでは室屋を上回る数値であることからも、視覚で見る印象というのがどれだけデータと乖離があるのかがよくわかると思います。

ここでも青木の項目と同様に、数値化できない経験値やプレー環境というものはありながらも、穴埋めは十分にできるだけの能力を持った選手がいてくれることは分かるかと思います。

FC東京の補強策は的確

前項で見たように、データ(各々の選手の環境因子は勘案していないが)を比較してみると、橋本の穴は青木、室屋の穴は二人の中村でうめられている、つまりはFC東京の補強策は的確である、というのが僕の結論です。

ではなぜ彼らがいた時と同じような印象を持った試合が見られないのでしょうか?
ここが重要なポイントだと思います。
データに写らない部分から考えると以下のように思います。

    • 中村帆の怪我、中村拓の経験不足と体力面の問題
      • ハードな環境の連続に耐えうるフィジカルを有していない
    • 青木のコンディション?チームへの馴染み度合い?

 原因は外からでは分かりませんが、外野言えることは「我慢して使って馴染ませる」ということがシーズン開幕後から必要だったのではないか、ということです。
推測されるものは以下の通りです。

  • せっかく青木を補強したが「慣れていない」ということで森重アンカー策に拘泥してしまった。
    • 攻撃面では森重の展開力が活きる場面が多かったが、アジリティが不足する分を周囲がカバーせざるを得ず、DFラインにギャップが生じてしまうことがあった。
  • 結果全体がアンバランスになり、失点が重なったことでDFラインが下がり全体が間延びする結果に
  • 室屋の穴は中村帆の成長で埋まったとところに、不運にも彼の怪我となってしまった。
  • 中村拓を起用したものの、フロンターレ戦での失点に繋がるミスがあり、以来一番手としての選択肢から外れてしまった。
    • 若い選手を起用すれば、経験不足からミスはつきもの。確かにフロンターレ戦でのミスは反撃の狼煙を上げたチームに水を刺した格好になった。
  • 結果、本職ではない選手起用も含めて右サイドの守備が固定されずさらに不安定な状態に陥っている。

確かに、中村拓は幾つか決定的なミスを犯してしまったのは確かです。
でもミスをしない選手はいません。
データから見ても、室屋や穂高とは違う特徴を持っており、経験値の割には高いレートを出しています。
ミスをしたからといってメンバーから外してしまっては、選手が持っている良さを失って「ミスをしないためのプレー」に終始してしまい、結局成長のスピードを止めることになってしまうかもしれません。
チーム全体が上手く行っていれば、DFラインおよび中盤で中村拓を助けてあげよう、という機運も生まれやすいかもしれませんが、悪い状況ではそういった選手同士の「前向きな」フォローへの意識は低下するものです。

チーム全体を見れば、フロンターレ戦の敗戦までは良くはないものの、悪い流れではなかっただけに、同じメンバーでもう一度組み直せばよかったとというのが僕の思いです。
しかしながら「負けたからいじろう」と起用する選手を変えてしまったことで、「下手を打つと出してもらえない」という意識を選手に与えてしまった可能性も否定できません。

苦しい日程の中で、選手に疲労が出ることは考慮の上でしょう。
しかしながら若くフィジカル面もまだ十分ではないながらも、変えの効かない存在となってしまった中村拓をミスという結果で変えてしまった事からチーム全体のバランスが崩れたと思います。

せっかく良い選手、的確な補強を行ったとしても、一つの悪手で局面は大きく変わってしまい、それを挽回しようとするが故にさらに悪手を重ねる。
ビジネスでも良くある営業最悪の局面だったり、ボードゲームや将棋、果てはギャンブルまでこのようなことは起こり得ます。
選手の問題、というよりも前回も述べた通り、ベンチの問題が大きいと考えます。

どう仕切り直すのか

ここからどう立て直すのが良いのでしょうか。
現状ではウヴィニのコンディションが想像以上に良いこともあり、次節からは3-5-2でスタートする可能性が高いかもしれません。

しかし、チームとして(比較的)成熟度が高い(であろう)4-3-3で再び仕切り直すというのも一つの選択肢であると思います。
要は見失った時こそ基本に立ち返ろうよ、という事です。
今季のFC東京の基本は、あくまでも4-3-3で縦に速いサッカーをする、ということではなかったでしょうか。

基本に立ち返りながらも、ここまで見てきたように、アンカーに適任の青木、右サイドバックには中村拓を起用することで肚を決めて、今できる本来あるべき姿に向かってチーム全体で動くべきでしょう。

その上でインサイドハーフにはボールを動かせる三田と運動量でDFのカバーまで出来る安部を。
運動量とアジリティに優れる三田や阿部が中村拓を守備面で助けてあげることもできると思います。

前線はトップにディエゴ。
その近くでトップ下〜サイドまでを動くレアンドロか田川を置き、ウィングは個で局面を打開できる推進力アダイウトン。

永井は怪我の影響か少々鋭さを書いている感じもあるため、スーパーサブとして起用する方が良いでしょうし、東は一度外から試合を見せた方が良いと思います。
プレーを見ていると、どうも客観的に現在の問題を認識できていないように思えます。
元来サッカー観は鋭いものを持っていますし、それが故に気の利いたスペースを埋めたりというプレーができる選手です。

ここで「センターバックは質が高いのでとにかくゴール前に鍵をかけよう」と安易に3-5-2にして「負けないサッカー」を選択すると、ここまでやってきたことを全て否定することになりかねません。

開幕からここまでの中で、この5連敗で新たなチーム作りに失敗してしまっただけに、立て直しは少なくとも残っている土台を活かして、もう一度開幕からやり直すつもりで戦うべきだと思います。