Match Review 2021.5.15 柏レイソル vs FC東京

5連敗、という結果を受けた瞬間から思い出すのは、15年前の2006年のこと。
8月26日の清水エスパルス戦から10月15日のサンフレッチェ広島戦までの8連敗のことです。

当時既に千葉県に住まいを移していましたので、9月30日味スタでのアルビレックス戦に敗れ6連敗となった試合後の帰路の腹立たしさに任せて、帰宅した瞬間に持っていた荷物を廊下の壁に打ちつけました。

その時妻に「負けて悔しいのは分かるけど、選手の方がもっと悔しいんだから、あんたが怒ったってどうにもならないわよ!」と怒られたのを今でも覚えています。

以来、応援しているチームが連敗しても、良い部分を探してそこをチームが気づいてくれることを信じていこう、そんなふうに考え方を変えました。
その結果が多くの方に目を通して頂いた”FC東京の窮状を考えてみる”と”FC東京の窮状を考えてみる2~補強策の成否について”であったりします。

応援している、愛しているチームの連敗というのはファン・サポーターにとっては辛いものです。
しかし、そこを自分なりに理屈を持って納得し、信じることで突破してくれた時の喜びは一入と言えます。

15年前の闇を抜けた時は、77分から84分でガンバ大阪から3点を奪った3-2の勝利だったことを考えると、FC東京というチームは派手に突破口を見出すチームだな、などと独りごちながらベランダで飲んだスーパードライと赤ワインは至極の味でした。

上記を見ていただくと、橋本の数値を上回る結果を青木が出していることが分かります。
「いやいや、そう言っても橋本は海外の厳しい環境でやってるでしょ」というご意見もあるかと思いますが、橋本自身がロシアに行ってから各スタッツが大きく下がっていることはなく、むしろキャリア全体の数値を採用しているので、割合の少ないロシアの数値は全体に比して誤差程度です。

このダイアグラムから読み取れるのは、橋本と青木の数値は非常に似通っており、シルバは彼ら二人に比べると守備的MFに必須なデュエル能力で彼ら二人の後塵を拝すということが分かります。

では守備的なスタッツを比較するとどうでしょうか。

 

札幌戦のレビューを書かないとな、と思っているうちに時間は過ぎていき、業務やコーチ業で疲弊してあっという間にフロンターレ戦当日を迎えました。
と同時に札幌戦のレビューは放棄する、という安易な選択肢を選んだわけですが、「別にレビュー書いて給料もらっているわけでもなし。」と思っているわけではなく、単に1日が48時間あったらいいよね、ぐらいに思っているワーカホリックです。

さて、あらゆるところで触れられていることですので今更言及する必要もないのですが、FC東京が勝てなかった理由はその過程が全てであり、川崎の勝因はその誤ったFC東京の過程を見逃すことなく楽に自分達のペースを維持できたことでしょう。
そのくらいFC東京のプロセスは酷かったです。
「結果良ければプロセスが悪くてもOK」であったのはシーズン序盤によく言われる言葉ですが、シーズン中盤に突入するこの時期にあのプロセスでは先が思いやられる、というのが正直な感想です。
一方で自分を宥めているのはその「シーズン序盤」という言葉です。
まだ9節。今シーズンは残り29試合あるわけです。
4分の1が終わったこのタイミングを序盤とするのか中盤とするのか、これによって見え方は大きく変わってくると思います。

柏 - スターティングメンバー選出に失敗

後半20分の間にFC東京はよく失点をしなかった、と言えるほどに柏レイソルの重圧は非常に厚いものでした。
逆を言えば、後半のプレーを本来は試合開始後から展開したかったのかと思いますが、公式戦4試合でうまく結果が出ていなかった上に、その内の3試合が横浜FC、ベガルタ仙台、アヴィスパ福岡とレイソルから見れば「格下」とも言えるチームに対してクリーンシートを喫しているということが焦りにも繋がったスタメンだったように思います。

上記の試合を振り返ってみても、ポゼッションでは相手を圧倒しながらも決め手にかけて結果に繋がらなかった、という事から考えると新加入選手を一気に使ってチームバランスを崩すリスクをこの試合で取る必要があるのだろうか、というのがスターティングメンバーを見た時に感じました。

具体的にはエメルソン・サントス、ドッジ、アンジェロッティという3選手が加入後初先発しました。

エメルソン、ドッジは非常に良いパフォーマンスを局面局面で見せていましたが、殊更エメルソンについてはここで先発させるというのは総体的難易度をあげてしまったのではないかな、と振り返ると思います。
特にレイソルが志向している3-4-3のフォーメーションは、全体をコンパクトにして攻守の切り替えを早くするサッカーを目指したものになります。
すなはち、DFラインの上下動は3人のDFが細かくコミュニケーションを取るだけでなく、時には阿吽の呼吸で「ここは下がるべきだな」「ここはあげておこう」というバランスを保つ必要がある戦術とも言えます。

個の対応で強さを所々見せていたエメルソンではありますが、このラインコントロールの部分で他選手との呼吸が合っていたとは言えず、DFラインがバタバタとしているうちにFC東京のDFライン裏を狙う動きで失点を重ねてしまいました。
3失点してからは、GKのキムがDFラインの裏をケアする動きが多くなり、なんとか全体的なバランスを保ちましたが、このキムの動きがなければあと2点ぐらいは失っていたかと思います。

思うに、レイソルの場合はここ数試合の状況がそんなに悪いわけでもないにも関わらず、結果が出ていないことに囚われてチームの背骨となるセンターバックからトップまでを全て変えてしまったことが敗因のように思えます。
後半20分間見せたように、圧倒的なポゼッションとスペースを突く動きはできているので、まずはDFラインは日本人選手で構成しながら、ドッジの運動量を活かしていくと、そして江坂を始めとする中盤より前の選手とアンジェロッティティのタイミングを合わせていけば上手くハマる日が早晩に来るように思います。
エメルソン・サントスが良い選手なのはこの試合のディエゴ・オリベイラへの対応やデュエルでよく分かりましたので、焦らず少しずつ新戦力をフィットさせながら勝ち点を積み上げることを目指した方が良いように思います。

FC東京もそうですが、昨シーズンのカップ戦決勝を共に戦ったチーム、双方共に年明けまで戦った疲労をようやく乗り越え、新戦力のマッチに入れるフェーズだけに、焦らなければ結果はついてくるように思います。

東京 - 外からの目がもたらした勝利

FC東京を救った選手の筆頭は間違いなく高萩でしょう。
ハイプレスで襲い掛かるレイソルのプレッシャーをいなすように、ワンタッチでシンプルにボールを動かしながら、効果的にピッチの幅を取る動きを繰り返し、レイソルDFラインの裏を狙うパスを繰り出すなどここ数試合で見られない「繋ぎを担う」動きをFC東京のピッチ内で展開してくれました。

スタッツだけを眺めると特段良い数値ではないのですが、このスタッツに表れないピッチを動き回る姿勢というのがこれまでの東京に不足していたものを与えてくれたと言えます。

 

高萩Heat Map

FC東京を救った選手の筆頭は間違いなく高萩でしょう。
ハイプレスで襲い掛かるレイソルのプレッシャーをいなすように、ワンタッチでシンプルにボールを動かしながら、効果的にピッチの幅を取る動きを繰り返し、レイソルDFラインの裏を狙うパスを繰り出すなどここ数試合で見られない「繋ぎを担う」動きをFC東京のピッチ内で展開してくれました。

スタッツだけを眺めると特段良い数値ではないのですが、このスタッツに表れないピッチを動き回る姿勢というのがこれまでの東京に不足していたものを与えてくれたと言えます。

図=ヒートマップ

本人も試合後のインタビューで語っている通り、

“勝つことができていない中でリーグ戦の出場機会が少なかったので外から客観的にチームの試合を見ていた”

という外からチームが苦しい状況を見て、自分ならどう動くのか、ということを考えそれを実践できるというベテランらしい動きがこの試合の好結果に結びついたと言えます。

その上にこれまでに指摘されていたDFラインが下がる、という課題に関しても意識を高く持ち、常にDFの選手に声をかけていました。

後半反則でレイソルにFKを与えたシーンでも、

「おい!下がるな。さがるなよ!」

とDFの選手にかけた声がマイクに拾われていましたし、試合の最中でも首を振ってはDFに対して、前に前に、と手で示すシーンが何度も見られました。

外からサッカーを見たベテラン選手が窮状にあるチームを救う、というのはよく聞くストーリーでもありますが、代表、海外チームなどで経験を積んだベテランがこのタイミングで目に見えない形でチームを救ってくれたことは非常に価値が高いと思います。

この高萩の姿を受けて他の選手がどう振る舞うのか。

ピッチにいた選手は刺激を受けた部分も多いのではないか、と思います。

フィットし始めた中盤の底

前回投稿で橋本の後継としての青木獲得は間違いでない、ということを述べました。

この試合でも青木はその力量を見事に示していたと思います。

Wyscoutのスタッツ的にはチーム全体で150/269(勝率55.76%)のデュエルの内、約15%に及ぶ23回のデュエルで15回の勝率をあげています(ちなみに守備時のデュエルだけなら13回で77%の勝率)
チーム全体で言えば、高萩が38回(勝率34%)、安部28回(同50%)、アダイウトン24回(38%)に次ぐデュエル回数を考えると、その勝率の高さも出色です。

ボールリカバリーも森重(19)、渡辺(11)、小川(10)に次いで8と中盤の底としては十分な数字を示している事からも、目立たないところでしっかりと守備面で貢献してくれていることがわかります。
いよいよ東京の中盤の底を任せるに相応しい結果を出し始めています。
運動量豊富な安部とダブルボランチを組む形でのこの試合でしたが、相互に補い合うことで押されている時間帯もきっちりと守備面で安定をもたらしていました。

5連敗という闇の中にありましたが、あの惨敗であった鹿島でもデュエル勝率80%というパフォーマンスを出していた事からも、青木を中盤の底に固定する流れができたようです。

印象的に地味(失礼)な選手ではありますが、目立たずともきちんと結果を出す縁の下の力持ち、という意味でも貴重な選手がようやく本領発揮となったようです。

これから安定したパフォーマンスを出してくれることでしょう。

勝って兜の・・・

 

前半20分までの3得点で終わらずに4点目を取り、尚且つクリーンシートで終えられたというのは選手にとっても非常に自信になる勝利だったのではないかと思います。

ただ、気になるポイントがなかったわけではありません。

攻撃面では左サイド偏重になってしまっていたために、右サイドの田川、内田が守備的なプレーになってしまっていた点が非常に気になります。
全体的なバランスを取る、という意味では左偏重な分右は下がってバランスを取る、というのはわからないでもないですが、逆を言えば左を抑えられた時に右からどうやって崩していくのか、というアイディアが見られなかった点が今後の課題になるのではないかと思います。

終盤に中盤でボールを奪った内田がそのままゴール前に上がりシュートまで繋げたしシーンがありましたが、あのシーン自体は右サイドで崩したのではないため、この勝利を今後につなげる意味でも右からの攻撃の形成をどうするのかは注意していかなければならないポイントかと思います。

ちなみに追記するとすれば、22分に内田がパスをカットされた直後に自陣に向けて走り出す動きを見せた点も気になったポイントです。

3点を奪って優勢な状況ではありましたが、あの場面は内田がボールホルダーに対してプレッシャーをかけるべきだったと思います。

田川が内田に代わって右サイドバックのポジションに入っていた事からも、内田がプレッシャーをかけにいくというイメージを持たないと、右サイドだけが下がり気味になって相手の攻撃の起点にされてしまいます。

本職右サイドバックではないのでその点では仕方がないかな、という思いはあれども、攻撃的にプレッシャーを掛けにいけていた全体感の中では違和感のあった瞬間だったと思います。

全体的には柏ボールになるとDFからFWまでの3ラインが形成され、10人のピッチプレーヤーが一つの画面に収まるコンパクトさが見られたことは非常に良かったと思います。

一方でボールを奪われた瞬間は、まだまだ前線の選手がプレスを掛けに行く一方で、全体が下がり気味になってしまい全体が間延びしてしまうシーンが散見されました。

レイソルが試合を支配した20分間もそのような状況の繰り返しでしたので、奪われた瞬間にFWがプレスに入るのか、それとも1枚行かせてボールを追わせながら他は引くのか、など決め事をしていかないと上位チームと当たった時にそのポイントを容易に使われてしまうかと思います。

厳しい言い方をしてしまえば、レイソルの出来が良いとは言えなかった中でその弱点をついて早々に試合を決めたことは大きな評価ポイントですが、一方で戦術的には粗さが見られた試合でもありました。

この勝ちに甘んじることなく、更なる選手間コミュニケーションを重ねてチームとして上昇気流に乗ってもらえるように願っています。