FC東京の窮状を考えてみる2 ~補強策の成否について

前回投稿ポストFC東京の窮状を考えてみるがこんな大っぴらに宣伝もしてないBlogにも関わらず700を超えるページビューを頂きました。
そんな中、以下のようにTwitterにて@matsu さんよりご感想とご質問を頂きました。
@matsuさんのご了承を頂いた上で引用致します。

非常に多くの東京サポーターが感じている室屋、橋本の穴埋め、という問題について問われています。
他チームが良い補強をしている(ように見える)ということもあり、このようなご質問を頂いたと思いますが、このポイントを考察してみる貴重な機会になるとも思いましたので、僕なりにご回答というか、考えを述べさせて頂ければと思い予定外の第2弾投稿です。
※マリノスやフロンターレの補強戦略については長くなるので今回は省きます。

 

2020年夏を振り返る

まず、大前提として、日本代表までになった実力を持つ選手の穴埋めをすることは至難の業である、ということを我々も冷静に捉えないといけないと思います。
この手の大きな穴埋めを行うに当たっては、大きくは3つの対策があると思います。

  1. 相応の力量を持つであろう外国人選手を補強する
    • ただし、この場合は当該選手が日本やJリーグに馴染めるか、というリスクがある
  2. 相応の力量を持つ日本人選手を補強する
    • この場合は候補選手が他チームの主力であるため、簡単に交渉が進まない可能性が高い
  3.  いわゆる”下位互換”型の選手を獲得し、使いながらチーム力を相応のレベルまで上げていく
    • この場合、多くのケースでは即戦力新人補強が主体
      • 新人選手の獲得またはアカデミーからの昇格で賄う
    • ただ、サテライトリーグの終了やFC東京のJ3参加が終了してしまったことからも、若い選手をJ1の試合使いながら育てなければならないという難しさがある

この観点で考えると、橋本や室屋がJリーグシーズン途中での移籍であったことから考えると、上記1と2の補強というのは難しかったと思います。
またその背景には受け取る移籍金が相応でなかったことからも、適当な補強資金を投入することができなかったこともあり、補強を先送りして置かなければならなかった台所事情があったかと思います。
加えて予期しなかったコロナ禍であったことからも、取りうる策は3の一択であったと思います。

しかも先述の通りシーズン中であることからも現有戦力で賄うしかありません。
室屋の穴は、左サイドバックとして試合に出ていた中村穂高が主力となり、左の小川と共にサイドバックを構成しました。
そのバックアッパーとして中村拓海が左右を適宜担当する形式でなんとか事なきを得られたシーズンであったといえます。

橋本の穴が難しかったと言えます。
ここは後述をしますが、当時の戦力では若い品田や荒削りなシルバを使いながら育てるしかありませんでした。
ただし、この二人では勝負がかかったポイントで不安があったため、森重のアンカー起用という、ある意味で最終ラインの強度を下げるというリスクを取る奇策で乗り切りました。
この背景には森重の代役で起用したオマリが出色の出来を見せた、ということもありました。
こうしてみると、非常に幸運とも言える要素があったと今振り返ると思えます。

2021年本当に穴埋めはできていないのか

冒頭に頂いたコメントの中にもあったように、「橋本、室屋の穴埋めができていない」ということはネット上でも多く見られる意見です。
ではそう感じるのは何故でしょうか?
恐らくこう質問させていただくと、「チームのスカウティングが悪い」「他チームで控えにしかならない選手しか取れない強化部」などなどのご意見が出てくることと思います。

ここで冷静に考えてみようと思います。
補強した選手が退団した選手と相応の実力を持っている選手のようだ、ということが客観的に示されたとしたら、どんな風に思考が変わるでしょうか。
選手の評価というのは見ている我々ファンの印象で変わります。
では冷静に選手を評価する尺度があったら、さらにその印象も変わるのではないでしょうか。
そのために現在は多くのスカウティングツールがプロ向けに開発・提供されており、大半のプロチームはそれらを複数使用して選手を客観的に分析し、必要な補強策を検討しています。
プロが使うスカウトツールにどんなものがあるのか、は以下の記事を読んでいたくのが良いかと思います。

サッカー界もマッチングアプリの時代に? 名将ビエルサ率いるリーズが明かす移籍市場でのデジタル戦略とは (Number Web)

そこで今回は上記にも記載されているWyscoutのWriter Editionから選手の統計データを使って比較を行いました。

ちなみに、個人の趣味でやっている限りですので、係る費用も持ち出しです。
なので全てのサービスは契約できませんので、あくまでもWyscoutで限定して提供されるデータを使用している点はご了承ください(宝くじでも当たれば契約できるサービスは全て契約したい・・・)。

橋本の代わりは青木、が正しい

ではWyscoutのデータを使って橋本、青木、そして橋本退団後にアンカーポジションで起用されていたシルバを比較してみましょう。

とはいえ各選手のキャリアや出場試合レベルもまちまちのため、出来る限り均等に数値を比較できるように、プレーの正確性を示すプレーの成功率で比較をしましょう。

以下はプレーアクションを起こした結果の成功率を示すTotal Action、枠内シュート率、パス、ロングパス、クロス、ドリブルの成功率、デュエル及び空中戦の勝率、自陣でのボールロスト率、相手人内でのボール回収率といった一般的指標をレーダーチャートにしたものです。

Figure 1

上記を見ていただくと、橋本の数値を上回る結果を青木が出していることが分かります。
「いやいや、そう言っても橋本は海外の厳しい環境でやってるでしょ」というご意見もあるかと思いますが、橋本自身がロシアに行ってから各スタッツが大きく下がっていることはなく、むしろキャリア全体の数値を採用しているので、割合の少ないロシアの数値は全体に比して誤差程度です。

このダイアグラムから読み取れるのは、橋本と青木の数値は非常に似通っており、シルバは彼ら二人に比べると守備的MFに必須なデュエル能力で彼ら二人の後塵を拝すということが分かります。

では守備的なスタッツを比較するとどうでしょうか。

 

Figure 2

空中戦とボールロスト、リカバリーは先述の項目と同様ですが、ここでは守備時のデュエル勝率とスライディングタックル成功率を加えています。
ここでもやはり青木の出している結果は橋本と大きく変わりません。

Figure 3

最後にパスのスタッツ比較です。
橋本と青木で顕著に違うのは、ロングパスの成功率とペナルティエリアへのパス成功率です。

ここの選手が置かれている状況は様々ですが、抜けた穴を埋めるには同様の特性を持った選手を補強したい、と考えた時にはその選手同士の何らかのデータを比較し検討することが必要です。
ゲームのようにそれぞれの選手のスタミナやスピードが同じ基準で数値化されたものがない以上、パスなどの正確性から獲得を検討しているのは先に挙げた記事からもわかるかと思いますし、そのプロが使っているデータを利用して客観的に比較した結果がここまでのものです。

つまりは、選手個人の能力を推測するデータから判断すると、橋本の穴は青木で十分に埋められたことが分かります。

ただ難しいのは、データを取得するチーム=条件が全く異質なのでその変数を数値化できない限り正確な判断はできないでしょう。
けれども、それが出来たらどのチームも獲得移籍には失敗しません。
つまりは、その数値化できない変数があるからこそ、同様のスタッツを持ち、同様のプレーが期待できる選手が期待通りのプレーをできない、のはチーム戦術や起用法、チームに馴染めているか、などの要素によるものとも言えるでしょう。

言うなれば、この吉と出るか凶と出るか、が移籍の面白いところでもあります。

じゃあ室屋の穴はどうなのか

では全く同様の比較を、室屋、中村穂、中村拓でも行ってみました。
このケースではGeneral StatsとDefensive Statsのみを用いています。

Figure 4
Figure 5

どんな印象でしょうか。
僕個人は、サンプル数が少ない、という前提はありながらも、中村拓はよくやっているじゃないか、という印象を強く持ちました。
「拓海の守備は心許ない」という印象を多くの方がお持ちと思いますが、デュエルでは室屋と同等、守備面でのデュエルでは室屋を上回る数値であることからも、視覚で見る印象というのがどれだけデータと乖離があるのかがよくわかると思います。

ここでも青木の項目と同様に、数値化できない経験値やプレー環境というものはありながらも、穴埋めは十分にできるだけの能力を持った選手がいてくれることは分かるかと思います。

FC東京の補強策は的確

前項で見たように、データ(各々の選手の環境因子は勘案していないが)を比較してみると、橋本の穴は青木、室屋の穴は二人の中村でうめられている、つまりはFC東京の補強策は的確である、というのが僕の結論です。

ではなぜ彼らがいた時と同じような印象を持った試合が見られないのでしょうか?
ここが重要なポイントだと思います。
データに写らない部分から考えると以下のように思います。

    • 中村帆の怪我、中村拓の経験不足と体力面の問題
      • ハードな環境の連続に耐えうるフィジカルを有していない
    • 青木のコンディション?チームへの馴染み度合い?

 原因は外からでは分かりませんが、外野言えることは「我慢して使って馴染ませる」ということがシーズン開幕後から必要だったのではないか、ということです。
推測されるものは以下の通りです。

  • せっかく青木を補強したが「慣れていない」ということで森重アンカー策に拘泥してしまった。
    • 攻撃面では森重の展開力が活きる場面が多かったが、アジリティが不足する分を周囲がカバーせざるを得ず、DFラインにギャップが生じてしまうことがあった。
  • 結果全体がアンバランスになり、失点が重なったことでDFラインが下がり全体が間延びする結果に
  • 室屋の穴は中村帆の成長で埋まったとところに、不運にも彼の怪我となってしまった。
  • 中村拓を起用したものの、フロンターレ戦での失点に繋がるミスがあり、以来一番手としての選択肢から外れてしまった。
    • 若い選手を起用すれば、経験不足からミスはつきもの。確かにフロンターレ戦でのミスは反撃の狼煙を上げたチームに水を刺した格好になった。
  • 結果、本職ではない選手起用も含めて右サイドの守備が固定されずさらに不安定な状態に陥っている。

確かに、中村拓は幾つか決定的なミスを犯してしまったのは確かです。
でもミスをしない選手はいません。
データから見ても、室屋や穂高とは違う特徴を持っており、経験値の割には高いレートを出しています。
ミスをしたからといってメンバーから外してしまっては、選手が持っている良さを失って「ミスをしないためのプレー」に終始してしまい、結局成長のスピードを止めることになってしまうかもしれません。
チーム全体が上手く行っていれば、DFラインおよび中盤で中村拓を助けてあげよう、という機運も生まれやすいかもしれませんが、悪い状況ではそういった選手同士の「前向きな」フォローへの意識は低下するものです。

チーム全体を見れば、フロンターレ戦の敗戦までは良くはないものの、悪い流れではなかっただけに、同じメンバーでもう一度組み直せばよかったとというのが僕の思いです。
しかしながら「負けたからいじろう」と起用する選手を変えてしまったことで、「下手を打つと出してもらえない」という意識を選手に与えてしまった可能性も否定できません。

苦しい日程の中で、選手に疲労が出ることは考慮の上でしょう。
しかしながら若くフィジカル面もまだ十分ではないながらも、変えの効かない存在となってしまった中村拓をミスという結果で変えてしまった事からチーム全体のバランスが崩れたと思います。

せっかく良い選手、的確な補強を行ったとしても、一つの悪手で局面は大きく変わってしまい、それを挽回しようとするが故にさらに悪手を重ねる。
ビジネスでも良くある営業最悪の局面だったり、ボードゲームや将棋、果てはギャンブルまでこのようなことは起こり得ます。
選手の問題、というよりも前回も述べた通り、ベンチの問題が大きいと考えます。

どう仕切り直すのか

ここからどう立て直すのが良いのでしょうか。
現状ではウヴィニのコンディションが想像以上に良いこともあり、次節からは3-5-2でスタートする可能性が高いかもしれません。

しかし、チームとして(比較的)成熟度が高い(であろう)4-3-3で再び仕切り直すというのも一つの選択肢であると思います。
要は見失った時こそ基本に立ち返ろうよ、という事です。
今季のFC東京の基本は、あくまでも4-3-3で縦に速いサッカーをする、ということではなかったでしょうか。

基本に立ち返りながらも、ここまで見てきたように、アンカーに適任の青木、右サイドバックには中村拓を起用することで肚を決めて、今できる本来あるべき姿に向かってチーム全体で動くべきでしょう。

その上でインサイドハーフにはボールを動かせる三田と運動量でDFのカバーまで出来る安部を。
運動量とアジリティに優れる三田や阿部が中村拓を守備面で助けてあげることもできると思います。

前線はトップにディエゴ。
その近くでトップ下〜サイドまでを動くレアンドロか田川を置き、ウィングは個で局面を打開できる推進力アダイウトン。

永井は怪我の影響か少々鋭さを書いている感じもあるため、スーパーサブとして起用する方が良いでしょうし、東は一度外から試合を見せた方が良いと思います。
プレーを見ていると、どうも客観的に現在の問題を認識できていないように思えます。
元来サッカー観は鋭いものを持っていますし、それが故に気の利いたスペースを埋めたりというプレーができる選手です。

ここで「センターバックは質が高いのでとにかくゴール前に鍵をかけよう」と安易に3-5-2にして「負けないサッカー」を選択すると、ここまでやってきたことを全て否定することになりかねません。

開幕からここまでの中で、この5連敗で新たなチーム作りに失敗してしまっただけに、立て直しは少なくとも残っている土台を活かして、もう一度開幕からやり直すつもりで戦うべきだと思います。