Transfer Talk – 永遠の逸材 Lucas Lima

2014年から見続けた自称「リマウォッチャー」が思うこと

FC東京ファンが柏レイソルもしくはヴィッセル神戸と噂がある選手を語るな、と言われてしまうかも知れませんが、2014年からルーカス・リマという選手を注目して追いかけてきた身としては、今回の移籍の噂はサッカーファンとして奮い立つもの以外の何者でもありません。
そもそも僕とルーカス・リマという選手の出会いは2014年まで遡ります。
当時Football Managerというゲームに出会った僕は、当時のゲーム内のラツィオをどう立て直すかに必死でした。
そんな中でゲーム内で探し求めて出会ったのがリマでした。
以来、ルーカス・リマを現実でも追い続けてきました。

そのため今回投稿でも、実際にプロのスカウトも利用しているWyscoutを使用して、これまでのルーカス・リマのプレースタッツを用いてプレースタイルの想定をしていきたいと思います。

ルーカス・リマを巡る背景

少しだけ小難しい話から始めさせて頂きたい。
ルーカス・リマが生まれた年は1990年。そして彼の名が欧州マスコミの記事に乗り始めたのが2014年頃、つまりリマが24歳の頃からになります。
2014年は、リマ自身がインテルナシオナルからサントスに移籍したタイミングに当たります。
それまでインテルナシオナルの下部組織で育ちながらもトップチームでは出場機会が限られていたため、ローン移籍したスポルチ・レシフェで当確を表したことで、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったサントスのスカウトの目に止まり加入を果たしました。

当時既にリマは24歳。
24歳という年齢は移籍市場においては決して若くはなく、高額の移籍金を求めるなら圧倒的なパフォーマンスを試合で見せることができなければ「それなり」の扱いしかされないというのは、昨今のマーケットを見ていればご理解いただけるかと思います。
そん中で、当時のサントスの中心選手だったガンソ(2012年当時23歳でサンパウロ移籍)とネイマール(2013年当時21歳でバルセロナ移籍)というチームの中核を失ったままのサントスにとっては、インテルナシオナルでは主力として見られておらず、スポルチで躍動したリマは格好のターゲットでした。
同時に、ここから小難しい話になるのですが、当時のブラジル経済は以下のグラフの通り、下降の一途を辿っていました。
かつてBRICsと言われて世界恰好の投資市場と言われたブラジルですが、不安定な政権運営によりその投資マネーすら撤退してしまっていました。
その煽りは当たり前のようにサッカークラブも襲い、サントスも自前で育てた選手をとにかく可能な限り高値で売り抜けることで、チームの運営を賄うような状態でした。

ブラジルの経済成長率の推移

この状況が、リマの置かれた状況を難しくしてしまいました。
ガンソの後釜、ネイマールを輩出したサントスが見立てた逸材。
そして何よりもブラジル経済の大幅な後退による移籍金の下落。
ヨーロッパのチームは24歳という年齢ではあるものの即戦力としては計算できないリマを安く買い叩こうとし、サントスは必死でインテルナシオナルから買い取った逸材を高値で売り抜けようとする。
そんな鬩ぎ合いにリマは巻き込まれてしまった時代でした。

絶えぬ噂と現実のギャップ

もう少しだけリマの経歴背景の話をさせてください。
その後2015年あたりから、欧州への移籍の噂は絶えませんでした。
2015年にはエージェントがレアル・マドリードへの移籍を認めるという報が流れ、2016年には中国チームが高額の移籍金と年俸でオファーしたのを断ったとの報が流れ、果てはバルサが興味を惹いていたが本人はオファーを受けていないとの報まで

結局のところ、先に示したブラジル経済の後退による高額の移籍金を欲するサントスと、欲しいとは思えどもそこまで高額の移籍金を支払うほどまでの年齢と実力ではないという欧州チームの駆け引きが毎年のように成されたことで、リマ本人が欲してた欧州でプレーしたいという意思(先の中国チームオファーのリンク参照)が成就しなかったと言えます。

その後もクリスタルパレス、トリノなど、移籍の噂は絶えませんでした。
恐らくはサントスの思惑と、選手自身が望む環境、そして欧州チームの思惑、3つの要素がうまく噛み合わなかったのでしょう。
この噂と現実のギャップが彼をブラジルという土地に閉じ込めてしまっていたのではないか、というのがリマウォッチャーを自負する私の見立ててです。

ポジショニングとプレーの推移は?

前置きが異様に長くなりまして申し訳ありません。そのくらいルーカス・リマを追っていたと思って頂ければ・・・。

では本題に。ルーカス・リマとはどんな選手なのでしょうか。
スタッツを使って見ていきたいと思います。

攻撃的MF、ウイング、中盤の底も出来る、色々な憶測が飛んでいますが、スタッツから見ればどこでも出来てしまう、というのが正解です。
以下はWyscoutが示すリマのキャリア全般(Wyscoutが数字を取り始めた2015年から)でのヒートマップです。

ルーカス・リマのキャリアヒートマップ

では、年代別に分けて見ていきたいと思います。
所属チームの違いはありますが、2022年から2年おきに遡って、2022→2020→2018→2016と4年のヒートマップを以下に示して、プレーの推移を想像して見ましょう。

ルーカス・リマのHeat Map推移(2016〜2022まで2年毎)

推移を見ると、中盤の底をプレーするという印象に比べて、インサイドの位置でプレーしていることが多いことが分かります。
そして、歳を重ねる毎にそのポジショニングにおいてのボールタッチ数は少なくなっていると同時に、プレーエリアも狭くなってしまっていることが分かります。
一方で、キャリアを通していわゆるアタッキングサードでのプレーを好む(または求められてきた)選手であるということは事実です。

短くはない間リマを見てきた人間からすると、プレーエリアとボールタッチの濃淡は決して悪いことではなく、違う要因にもつながっていると思います。
ですので、次の項ではパス数と、Jリーグでは必須とされるディフェンシブな項目について見ていきたいと思います。

プレーの中身は?

ではまず、一般的なスタッツの推移から見ていきましょう。
もちろん2年毎ですし、その時々のチーム戦術における役割にも関連するので一概にスタッツだけでは選手の能力を判断できないことは前置きさせてください。

ルーカス・リマの90分平均Generalスタッツ(抜粋)

ゴール、アシスト数とも年々に減じています。
ただ、90分平均でいると枠内シュート数は1以上をキープしていますので、シュートは上手いことが分かります。
またパス成功率についても4期間平均でも79.55と80%近くをキープしていますので、アタッキングサードでかなりの確率で正確なパスを出せることは変わりがありません。
デュエル数とリカバリー率は年々減っていますが、勝率とリカバリー数は大きな変化がありませんので、守備もそれなりにすることが分かります。

それでは次に期待される攻撃的なスタッツを見ていきましょう。

ルーカス・リマ90分平均攻撃スタッツ推移

ここで見て取れるのは、ドリブルはあまりしないこと、ペナルティエリア内に入ってボールを触ることにプレーが変わっていることが分かります。
先に見た枠内シュート数が1本以上を維持し続けていること、アタッキングサードでのプレーが多いことを考えると、ペナルティエリアの奥に入るよりは、いわゆるペナ角と言われるペナルティエリアの角でボールを受けて、あわよくばゴールを狙うタイプの選手ということが読み解けます。

ではこの項目の最後にパスのスタッツを見ていきましょう。


ルーカス・リマ90分平均パススタッツ推移

パスに関するスタッツを見ていくと、2018年以降はスルーパスを狙うというよりはチャンスと見た時にだけ出していることが分かります。
また、ペナルティエリア内へのパス数がキャリアを重ねる毎に増えていることからも、効率的に相手ゴールを陥れるためにどうペナルティエリア内にパスを出すのか、をトライしていることが分かります。
ただ、逆の見方をするのであれば、このポイントは「打開できないからペナにパス出しておくか」というようにも見えてしまうことは確かです。

スタッツ的にも難しいですが、まとめていきたいと思います。

Jリーグでの適応は難しいのではないか

さて、ここまで見てきたことで、ルーカス・リマが今柏レイソルに、またはヴィッセル神戸に来たことをイメージしてみたい。
リマのプレーフィールドを考えると、恐らくは我々にとってのJリーグでの物差しはアンドレス・イニエスタと言っても良いかもしれない。
ただ、残念なことに、ここでイニエスタのスタッツを出すと話が長くなるので割愛するが、Jリーグに限って見てもイニエスタのスタッツは全てがリマを上回っている。
そして、イニエスタが2022シーズンだけを見ても左サイドを中心にボールタッチ数が多いことを考えても、イニエスタの後釜としての存在感をリマが出せるようには思えない。

アンドレス・イニエスタの2022シーズンヒートマップ

確かにルーカス・リマは過去に欧州も注目し、ブラジル代表で14試合を経験した大物ではある。
が、ここまでスタッツを見てきた中で、今の彼がどうかというと、Jリーグという特性、つまりはアジリティとデュエルを重視する環境、そしてそこを切り抜けるだけの日本人との違いを見せるには十分な選手とは思えない。

何度も言うように、短くはない時間、ルーカス・リマという選手に注目してきた自分からしても、今32歳というキャリアの終盤に差し掛かった選手が、ブラジルだけの経験でこの島国の地を踏んでも、結果を残せるようには思えない。

日本語で言うなら「ご縁」という言葉があるが、国の経済事情とクラブ間の思惑を背景にして、これまで欧州というご縁に恵まれなかったルーカス・リマがこの地に足を下ろすなら僕は注目して見たい。
が、今の日本は、Jリーグは右肩下がりの選手が簡単に成果を出せるリーグでもないことは確かだと思う。
僕にとってはご縁がなかった選手になるのではないか、と予測するが、この予測が違ったものであれば嬉しいという気持ちがあることも確かだ。

これは代表経験者であろうが、2部しか経験してない選手であろうが、皆に言えることだけど。