Match Review 2022.12.28 Leeds United vs Manchester City FC

対照的なチームによる対照的なゲーム

ワールドカップ明けのリーズ初戦。
ワールドカップにアメリカ代表以外に選手を派遣していないチームは、スペインでのキャンプも含めてチーム練度の向上に当ててきたが、この期間の親善試合3試合を通してDFラインの裏にボールを出されると完全に守備が後手に回る弱点が改善できていないことが如実となった。

一方多くの選手をワールドカップに派遣したシティは各々の選手の疲労が心配されたが、エースであるハーランドは休養十分。

チーム事情も好対照なら、プレーするサッカーも好対照。
ボールを繋ぎながらも縦に早いサッカーもできる万能型のシティに対して、ハイライン・ハイプレスでリスクを取りながら相手ゴールに迫るリーズ。

90分を通して対照的な試合となった。

幅も縦ものシティ

リーズファンであることを差し引いても、シティのサッカーは観ていて楽しい。
楽しいというよりも開いた口が塞がらない、と言った方が正しいかもしれない。

ワールドカップを優勝したアルゼンチンがそうだったように、ピッチの幅をワンタッチ・ツータッチでしっかりと使いながら、相手が食いついてラインが上がったところを中長距離のパスでしっかりDFラインの裏を狙って相手ゴールに迫る。
シティはこの精度が異様に高い。
DF各々の足元の上手さはもとより、デ・ブライネ、マフレズ、ギュンドアンといった中盤の選手がしっかりとDFが持ったボールに合わせて、それを引き出しながら次に繋げる効果的なポジションを採ってくるので、食い付けば食い付くほど相手チームは手玉に取られるようにシティのペースに嵌ってしまう。

この状況を如実に表しているデータが以下のPPDAです。
PPDA(PassesAllowed per Defensive Action)を説明しておくと、ピッチ全体の攻撃側の60%内で攻撃側のチームが出したパス数を、ディフェンス側のアクション(デュエル勝利、インターセプト、スライディングタックル、ファール)で割った数値になります。
例えば、相手ゴールから60%のエリア内で攻撃側が404本のパスを出し、それに対して守備側が23回の守備的アクションを成功させているとするなら、404÷23=17.565…となります。
この数値が低ければ低いほど守備側のプレスがハマっているということになりますし、高ければ高いほどプレスが効いていないということになります。
説明が長くなりましたが、PPDAの意味を理解した上で以下のデータを見て頂くと、どれだけシティがリーズを蹂躙していたかということがわかるかと思います。

Leeds vs Man CityにおけるLeedsのPPDA推移

試合開始15分までの39.3も相当ですが、16分から30分までの83はもはやLeedsが何もできていないことを示しています。
この試合でシティが出したパスは680本なので、4分の1がこの時間帯にあったとして170本のパスを出したとしてもリーズのディフェンスアクションが決まったのは2回程度ということになります。
もはや大人と子供のサッカーをプレミアリーグというトップレベルで展開できること自体が次元が違うと言えます。
前半終了間際に得点するまでのPPDAの推移を見ても、試合全体が均衡していたとはいえ、得点は必然の結果と言っても良かったのでしょう。
逆にシティ側からのPPDAをこの項の最後に掲載しておくと、ポゼッション率以前にシティが試合を支配していたこと、及び失点した理由がよく分かるかと思います。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方リーズはこの試合で多くの課題を再び突きつけられると共に、嬉しい悩みにも直面したと言えるでしょう。

大きな課題点としてはやはりDFラインです。
この試合の2失点目はキャプテンであるクーパーの不用意なパスミスからでした。
筆者自身も、クーパーは代えの効かない唯一無二のチームキャプテンであることは認めていますし、彼自身のプライベートでの活動も正に人格者と言えるものです。
しかしながら、フットボールということに目を移して考えると明らかにプレミアリーグレベルにない、ということは確かです。
個人の批判はなるべく避けたいのですが、リーズが直面している大きな課題は二つの課題が同居していると思います。

一つ目はクーパーを外すことによるピッチ内外の影響。
二つ目はクーパーの代わりになるはずのジョレンテが怪我がちであること。

一つ目については、カルヴィン・フィリップスが残っていれば大きな問題にもならなかったでしょう。
しかし、フィリップスが移籍してしまった今、キャプテンとしてチームを引っ張れる人材がいないこと、及びキャプテンをベンチに置くことによる本人及びチームの影響を考慮すると、マーシュ自身も実は頭が痛いのではないかと思います。
何より選手本人もその事実に気付いているようにも思えます。
このポイントをこの試合でのキャプテン交代から変えることが出来るのか、は今後の注目ポイントでしょう。

二つ目のポイントは、一つ目の課題が片付いたとしても肝心のジョレンテが加入以降怪我がちであるため、結局クーパーを外せない、という結果に帰結してしまう点です。
マーシュに限らず、前任のビエルサもDFラインからしっかりビルドアップする、または中長距離の配球をすることを目指してきており、それにあたってジョレンテの足元の技術は非常に重要になっています。
しかしながら調子が上がると怪我、の繰り返しで計算が立たないことを考えると、どこまでジョレンテを引っ張れるのかが分かりません。

次なる課題点は中盤です。
この試合ではワールドカップ前の退場裁定によりアダムスが出場できませんでした。
そのためグリーンウッドを入れて4-3-3の並びでスタートしましたが、やはりプレスのスイッチを入れるアダムスがいないことで、先にシティの項で示したようなPPDAの恐るべき低下を招きました。
後半にフォーショーやクリヒを投入したことで(シティが2点先制して受けに回ったのもありますが)、PPDAの改善にはなりましたが、アダムスがいない際にどのような形で同じようなプレスのスイッチを入れるのか、を検討する必要があります。
この試合でプレミアリーグデビューを飾ったギャビが、中断期間の親善試合も含めてデュエルの強さを見せていますので、どうギャビを育てながらアダムスの後継としていくのか、を考える機会に直面しているようにも思えます。

嬉しい悩みの前線

課題は多いものの、前線のタレントは非常に楽しみになってきました。
中断前に活躍を続けたサマーヴィル、この試合でオフェンシブ・デュエルでの勝利を度々見せてチャンスを作ったニョント、そしてセットプレーからもチャンスを演出できるグリーンウッド。
何よりディフェンシブサードまで下がっての守備も厭わずに最前線の相手DFが一番嫌なところに飛び込めるゲルハルト。

ロドリゴ、アーロンソン、ジャック・ハリソンといった選手に負けないタレントが今シーズンはどんどん出てきています。
その他にもシニステラやU21のジョセフやパーキンスといった下からの突き上げも強い状況です。

開幕からその実力を発揮したアーロンソンが、対策を敷かれて少々期待された活躍を出来なくなっている状況ですが、若手をどうスタートから起用していくのか、をマーシュ監督にも検討してほしいと思います。

この試合でも中断前に良いパフォーマンスを見せていたサマーヴィルを出すことはありませんでした(流れ的に中盤を強固にしないといけないのはありましたが)。
誰の目から見ても若手が良いパフォーマンスを見せているだけに、思い切れるのかどうか、がマーシュには問われているかもしれません。

最後に、冬の移籍市場での噂が絶えません。
クリヒ、ハリソン、果ては大黒柱のメリエまで。
プレミア復帰後に冬の獲得に関する噂は多かったですが、結果的に誰も射止めることはできませんでした。
そう考えるとこの冬の加入はかなり期待薄になるため、現有戦力をキープしながらどう若手を上手くはめられるのか、がこの冬のリーズの課題になると思います。

次節は好調ニューカッスル戦。
胸の熱くなる試合を期待しましょう。