Match Review 2022.2.18 川崎フロンターレ vs FC東京

2022年シーズン開幕。

監督、コーチ陣のみならずフロントも変わり、今シーズンのFC東京がどんなサッカーを見せてくれるのか。
昨シーズンまではポゼッションを放棄したカウンターサッカーをやっていたFC東京が、”ポジショナルプレー”、一言で言うなら”常に良い位置を取る”サッカーで”ボールを愛する”サッカー、と言う真逆のサッカーを志向していくことが果たしてできるのか。

恐らく多くのFC東京ファンの方々がそんな心配を胸に、リーグチャンピオンとの開幕戦となるこの試合を観たと思います。

僕自身と同様に、その多くのFC東京ファンの方は「川崎相手だし、今シーズンの方向性が感じられればいいかな」と思っていたのではないでしょうか。
いやはや。そんな思いを抱いていた自分が恥ずかしくなるほどの胸躍る試合でした。
試合終了後に等々力に集まったFC東京サポーターを煽ったアルベル監督の姿に、こんな甘い考えで観戦した自分を恥じたほどでした。

11秒間で8本のパスを繋げた試合序盤のメッセージ

試合が進むにつれ、FC東京のポゼッションの高さに目を見張りました。
試合開始後15分は、監督、選手が語ったようにバタバタとして、ボールを扱う精度も川崎との間には雲泥の差があるように思えました。
しかし、今シーズンのFC東京は面白いかもしれないぞ!そう僕が目を見張るシーンは試合開始早々にやってきました。

そのシーンは、両軍ボールが落ち着かず主導権争いが口火を切った前半1分36秒に、エンリケ・トレヴィザンが川崎レアンドロ・ダミアンへの楔のパスをカットしたところから始まります。
ここからボールは、青木→小川→青木→安部→永井→青木→安部と繋がり、1分47秒にディエゴ・オリヴェイラへの楔のパスがカットされる形で一連の流れが終わります。
各選手が三角形を構成して、ワンタッチでボールを繋ぎ、11秒の中で8本のパスが交わされました。
このプレーに、昨シーズンまでとこれは本当に違うぞ!という端緒を見た気がしました。
これまでチームのリリースや各種報道で言われてきた今シーズンのFC東京のスタイルというものは、本当なんだ、選手もこういうサッカーをやろうとしているんだ、というメッセージが画面を通して伝わってくるようでした。

試合開始直後だっただけに、このシーンでどれだけの人が心動かされたかはわかりませんが、DAZN加入者の方は是非見直してもらいたいと思います。
90分を通して試合を支配したFC東京でしたが、ディエゴにこそボールは通りませんでしたが、僕はこのプレーがこれから磨かれて行くであろうチームの方向性を如実に表した美しいプレーとして印象に残りました。

カウンターアタック0というメッセージ

ここでデータを幾つか提示してみます。
データ元はプロも活用しているwyscout.comから抜き出します。

チーム全体及び選手個々のパフォーマンスを、General、Attacking、Defending、Passingの大項目から見ることができるのがWyscoutの大きな特徴ですが、試合後にデータを眺めていて目を引いたのがAttacking項目配下の”Counter Attack 0″という数値です。

カウンターアタックと言えば、前任長谷川監督指揮下でのFC東京の代名詞と言っても良い戦術でした。
新チーム始動から1ヶ月程度、開幕戦ということを考えれば、ビハインドな状況などでは慣れ親しんだ戦術に選手が頼ってしまうこともあるでしょうし、更には選手個々にもその感覚を捨てきれないだろう、と思っていました。
ゆえに、カウンターアタックが0というのは、個人的には軽く頭を殴られたような衝撃でもありました。

 

 

Wyscouticデータ一部Screen Shot

一応ここでWyscoutが定義するCounteattackを記しておくと
A transition of the possession from the opponent team, where the team is transitioning quickly from defensive to attacking phase, trying to catch the opponent out of their defensive shape.
と記載があります。
つまりは、ボールのポゼッションが相手チームから移り、相手チームディフェンスの体制が整わない間に素早く攻撃に転じること、ということです。
98分間を通して、FC東京はこういった攻撃がなかったということをこのデータは表しています。

これが何を意味するのか、はもはや説明する必要もないと思いますが、いかに2022のFC東京が相手からボールを奪っても、慌てて相手DFの裏側に蹴り出すような非効率な攻撃をするよりも、しっかりと繋いで自分達が動いて良いポジションを取りながら(ポジショナル)、ボールを繋いで攻撃をして行くのか、ということを意味するほかありません。

ちなみに、過去はどうだったかというと、2021シーズンはカウンター0が7試合あり、3勝3敗1引分でした。
相手のある話ですので、カウンター0で抜き出しても結果が変わってくるのは当たり前ですが、ポゼッションやポジショナルアタッキング(ボールを握って攻撃した回数とシュート数)といったデータと並べてみると、この試合でFC東京が表現したものがいかにこれまでと違った質のものだったのか、が分かると思います。

 

 

2021~2022シーズンのカウンターアタック0のチームデータ抜粋(Wyscoutデータを元に筆者作成)

平準化という課題

その他、この試合で語りたいことは多くありますが、色々なメディアやファンBlogで多く論じられている通り、人を魅了する試合だったことは間違いないと思います。
注目の超高校級スター松木のデビュー戦とその新人とは思えないプレーぶり、また新戦力新戦力スウォビィク、木本、エンリケのシュアなプレーぶりなども含めて、Jリーグファンの正月でもある開幕戦に相応しいものが見れた夜であったと思います。

一方で、果たしてこの試合でできたことが、メンバーが変わっても質を落とさずにできるのか、という課題にチームはこれから直面して行くと思います。

この試合、コロナの影響もあるのでしょう、何人かのスタメンクラスの選手が不在でした。
そのため急遽出場した選手もいたかと思いますが、この試合が今シーズンの基準になります。
アルベル監督が言うように、まだまだ道半ば、20%の出来だということであれば今後よりこの質が向上して行くことは間違いないでしょう。
一方で昨シーズンまでも多く感じたことですが、控え選手が入ると同じことができない、選手交代策の意図が見えにくいといった、チーム全体を平準化するという部分が極めて不足していました。
この点をアルベル監督がどうレベルの高い平準化ができるのかが大きな鍵になるかと思います。

この記事をこうして書いている間にも、コロナによりチームが1週間活動を停止すると言うニュースが入ってきました。
変異をし続けるこのウィルスとは、我々はこの先も長く付き合っていかなくてはならないのでしょう。
そうした場合に、コロナにより機会を得る選手、失う選手が出てくることもまだまだ続くと思います。
その時に、チームの高い水準を維持する平準化ができるのかどうかが問われてくると思います。

川崎フロンターレは少ないチャンスを活かして勝利しました。
確かに試合はFC東京が主導権を握っていましたが、交代で入った選手がしっかりと仕事をし得点に絡んだと言う意味では、やはりフロンターレはチャンピオンとして高い次元でチームの水準を維持出来ているとも言えます。

魅力的なサッカーをし、多くの人々の注目を集めた開幕戦。
首都東京のチームとして、さらに多くの人々から注目されるためにも、この試合のフロンターレのように、誰が出ても結果が伴う試合をして勝利しなくてはならないでしょう。
そのためにも、松木ばかりが注目されますが、同年代の若手選手にはもっと奮起してもらわなければなりません。

アルベルサッカーの熟成と共に、チーム全体の底上げを実感できる。
そんな2022シーズンになってくれること、そしてチーム内罹患者の皆さんが早期に回復することを祈っていきたいと思います。