Transfer Talk – 永遠の逸材 Lucas Lima

2014年から見続けた自称「リマウォッチャー」が思うこと

FC東京ファンが柏レイソルもしくはヴィッセル神戸と噂がある選手を語るな、と言われてしまうかも知れませんが、2014年からルーカス・リマという選手を注目して追いかけてきた身としては、今回の移籍の噂はサッカーファンとして奮い立つもの以外の何者でもありません。
そもそも僕とルーカス・リマという選手の出会いは2014年まで遡ります。
当時Football Managerというゲームに出会った僕は、当時のゲーム内のラツィオをどう立て直すかに必死でした。
そんな中でゲーム内で探し求めて出会ったのがリマでした。
以来、ルーカス・リマを現実でも追い続けてきました。

そのため今回投稿でも、実際にプロのスカウトも利用しているWyscoutを使用して、これまでのルーカス・リマのプレースタッツを用いてプレースタイルの想定をしていきたいと思います。

ルーカス・リマを巡る背景

少しだけ小難しい話から始めさせて頂きたい。
ルーカス・リマが生まれた年は1990年。そして彼の名が欧州マスコミの記事に乗り始めたのが2014年頃、つまりリマが24歳の頃からになります。
2014年は、リマ自身がインテルナシオナルからサントスに移籍したタイミングに当たります。
それまでインテルナシオナルの下部組織で育ちながらもトップチームでは出場機会が限られていたため、ローン移籍したスポルチ・レシフェで当確を表したことで、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったサントスのスカウトの目に止まり加入を果たしました。

当時既にリマは24歳。
24歳という年齢は移籍市場においては決して若くはなく、高額の移籍金を求めるなら圧倒的なパフォーマンスを試合で見せることができなければ「それなり」の扱いしかされないというのは、昨今のマーケットを見ていればご理解いただけるかと思います。
そん中で、当時のサントスの中心選手だったガンソ(2012年当時23歳でサンパウロ移籍)とネイマール(2013年当時21歳でバルセロナ移籍)というチームの中核を失ったままのサントスにとっては、インテルナシオナルでは主力として見られておらず、スポルチで躍動したリマは格好のターゲットでした。
同時に、ここから小難しい話になるのですが、当時のブラジル経済は以下のグラフの通り、下降の一途を辿っていました。
かつてBRICsと言われて世界恰好の投資市場と言われたブラジルですが、不安定な政権運営によりその投資マネーすら撤退してしまっていました。
その煽りは当たり前のようにサッカークラブも襲い、サントスも自前で育てた選手をとにかく可能な限り高値で売り抜けることで、チームの運営を賄うような状態でした。

ブラジルの経済成長率の推移

この状況が、リマの置かれた状況を難しくしてしまいました。
ガンソの後釜、ネイマールを輩出したサントスが見立てた逸材。
そして何よりもブラジル経済の大幅な後退による移籍金の下落。
ヨーロッパのチームは24歳という年齢ではあるものの即戦力としては計算できないリマを安く買い叩こうとし、サントスは必死でインテルナシオナルから買い取った逸材を高値で売り抜けようとする。
そんな鬩ぎ合いにリマは巻き込まれてしまった時代でした。

絶えぬ噂と現実のギャップ

もう少しだけリマの経歴背景の話をさせてください。
その後2015年あたりから、欧州への移籍の噂は絶えませんでした。
2015年にはエージェントがレアル・マドリードへの移籍を認めるという報が流れ、2016年には中国チームが高額の移籍金と年俸でオファーしたのを断ったとの報が流れ、果てはバルサが興味を惹いていたが本人はオファーを受けていないとの報まで

結局のところ、先に示したブラジル経済の後退による高額の移籍金を欲するサントスと、欲しいとは思えどもそこまで高額の移籍金を支払うほどまでの年齢と実力ではないという欧州チームの駆け引きが毎年のように成されたことで、リマ本人が欲してた欧州でプレーしたいという意思(先の中国チームオファーのリンク参照)が成就しなかったと言えます。

その後もクリスタルパレス、トリノなど、移籍の噂は絶えませんでした。
恐らくはサントスの思惑と、選手自身が望む環境、そして欧州チームの思惑、3つの要素がうまく噛み合わなかったのでしょう。
この噂と現実のギャップが彼をブラジルという土地に閉じ込めてしまっていたのではないか、というのがリマウォッチャーを自負する私の見立ててです。

ポジショニングとプレーの推移は?

前置きが異様に長くなりまして申し訳ありません。そのくらいルーカス・リマを追っていたと思って頂ければ・・・。

では本題に。ルーカス・リマとはどんな選手なのでしょうか。
スタッツを使って見ていきたいと思います。

攻撃的MF、ウイング、中盤の底も出来る、色々な憶測が飛んでいますが、スタッツから見ればどこでも出来てしまう、というのが正解です。
以下はWyscoutが示すリマのキャリア全般(Wyscoutが数字を取り始めた2015年から)でのヒートマップです。

ルーカス・リマのキャリアヒートマップ

では、年代別に分けて見ていきたいと思います。
所属チームの違いはありますが、2022年から2年おきに遡って、2022→2020→2018→2016と4年のヒートマップを以下に示して、プレーの推移を想像して見ましょう。

ルーカス・リマのHeat Map推移(2016〜2022まで2年毎)

推移を見ると、中盤の底をプレーするという印象に比べて、インサイドの位置でプレーしていることが多いことが分かります。
そして、歳を重ねる毎にそのポジショニングにおいてのボールタッチ数は少なくなっていると同時に、プレーエリアも狭くなってしまっていることが分かります。
一方で、キャリアを通していわゆるアタッキングサードでのプレーを好む(または求められてきた)選手であるということは事実です。

短くはない間リマを見てきた人間からすると、プレーエリアとボールタッチの濃淡は決して悪いことではなく、違う要因にもつながっていると思います。
ですので、次の項ではパス数と、Jリーグでは必須とされるディフェンシブな項目について見ていきたいと思います。

プレーの中身は?

ではまず、一般的なスタッツの推移から見ていきましょう。
もちろん2年毎ですし、その時々のチーム戦術における役割にも関連するので一概にスタッツだけでは選手の能力を判断できないことは前置きさせてください。

ルーカス・リマの90分平均Generalスタッツ(抜粋)

ゴール、アシスト数とも年々に減じています。
ただ、90分平均でいると枠内シュート数は1以上をキープしていますので、シュートは上手いことが分かります。
またパス成功率についても4期間平均でも79.55と80%近くをキープしていますので、アタッキングサードでかなりの確率で正確なパスを出せることは変わりがありません。
デュエル数とリカバリー率は年々減っていますが、勝率とリカバリー数は大きな変化がありませんので、守備もそれなりにすることが分かります。

それでは次に期待される攻撃的なスタッツを見ていきましょう。

ルーカス・リマ90分平均攻撃スタッツ推移

ここで見て取れるのは、ドリブルはあまりしないこと、ペナルティエリア内に入ってボールを触ることにプレーが変わっていることが分かります。
先に見た枠内シュート数が1本以上を維持し続けていること、アタッキングサードでのプレーが多いことを考えると、ペナルティエリアの奥に入るよりは、いわゆるペナ角と言われるペナルティエリアの角でボールを受けて、あわよくばゴールを狙うタイプの選手ということが読み解けます。

ではこの項目の最後にパスのスタッツを見ていきましょう。


ルーカス・リマ90分平均パススタッツ推移

パスに関するスタッツを見ていくと、2018年以降はスルーパスを狙うというよりはチャンスと見た時にだけ出していることが分かります。
また、ペナルティエリア内へのパス数がキャリアを重ねる毎に増えていることからも、効率的に相手ゴールを陥れるためにどうペナルティエリア内にパスを出すのか、をトライしていることが分かります。
ただ、逆の見方をするのであれば、このポイントは「打開できないからペナにパス出しておくか」というようにも見えてしまうことは確かです。

スタッツ的にも難しいですが、まとめていきたいと思います。

Jリーグでの適応は難しいのではないか

さて、ここまで見てきたことで、ルーカス・リマが今柏レイソルに、またはヴィッセル神戸に来たことをイメージしてみたい。
リマのプレーフィールドを考えると、恐らくは我々にとってのJリーグでの物差しはアンドレス・イニエスタと言っても良いかもしれない。
ただ、残念なことに、ここでイニエスタのスタッツを出すと話が長くなるので割愛するが、Jリーグに限って見てもイニエスタのスタッツは全てがリマを上回っている。
そして、イニエスタが2022シーズンだけを見ても左サイドを中心にボールタッチ数が多いことを考えても、イニエスタの後釜としての存在感をリマが出せるようには思えない。

アンドレス・イニエスタの2022シーズンヒートマップ

確かにルーカス・リマは過去に欧州も注目し、ブラジル代表で14試合を経験した大物ではある。
が、ここまでスタッツを見てきた中で、今の彼がどうかというと、Jリーグという特性、つまりはアジリティとデュエルを重視する環境、そしてそこを切り抜けるだけの日本人との違いを見せるには十分な選手とは思えない。

何度も言うように、短くはない時間、ルーカス・リマという選手に注目してきた自分からしても、今32歳というキャリアの終盤に差し掛かった選手が、ブラジルだけの経験でこの島国の地を踏んでも、結果を残せるようには思えない。

日本語で言うなら「ご縁」という言葉があるが、国の経済事情とクラブ間の思惑を背景にして、これまで欧州というご縁に恵まれなかったルーカス・リマがこの地に足を下ろすなら僕は注目して見たい。
が、今の日本は、Jリーグは右肩下がりの選手が簡単に成果を出せるリーグでもないことは確かだと思う。
僕にとってはご縁がなかった選手になるのではないか、と予測するが、この予測が違ったものであれば嬉しいという気持ちがあることも確かだ。

これは代表経験者であろうが、2部しか経験してない選手であろうが、皆に言えることだけど。

Transfer Talk – Pedro Henrique Perottiを知ってみよう〜後編

FC東京への移籍の噂がある選手をチェック

前回の投稿では、プロも注目するというサッカーゲームFootball Manager 2023のデータを使ってPerottiのプレースタイルを能力面から想定してみました。

今回投稿では実際にプロのスカウトも利用しているWyscoutを使用して、これまでのプレースタッツを用いてプレースタイルの想定をしていきたいと思います。

Football ManagerはJリーグのデータを有していないため、FC東京の選手との比較ができませんでしたが、WyscoutはJリーグのスタッツも取得していますので、FC東京の現有選手との比較も見ていきたいと思います。

ヒートマップから見る役割

Perottiが現在所属しているシェペコエンセの基本戦術は4−2−3−1です
時に4−3−3も使用していますが、基本的には4-2-3-1の配置で進められることが多く、Perottiはその1トップでプレーすることが中心になっています。
時に左ウィングでのプレーすることもあるようですが、センターフォワードとしてワントップをプレーすることがほとんどなのは、別のスタッツサイトでもあるTransfermarktでご覧いただくとよくわかると思います。

それでは、2022シーズンのPerottiのヒートマップを見てみましょう。

2022シーズンのPerottiのプレイングヒートマップ

ワントップ、と言ってもボックス近くに張ってボールを待つだけのタイプではないことがこのヒートマップからも分かります。
ピッチの幅を広く移動してボールを受けるタイプの選手であることが想像できます。
(センターサークルでのプレーが高くなっているのは、シャペコエンセが失点が多くキックオフすることが多いためこのようになっていますので、この点は無視して良いと思います。)

では、2022シーズンのFC東京で4-3-3のワントップを担っていたディエゴ・オリヴェイラのヒートマップと比較してみましょう。

2022シーズンのディエゴ・オリヴェイラのプレイングヒートマップ

比較してみると、ディエゴの方がより広範にピッチを動いているのに比べて、ペロッティはボックス内、サイドに流れてのプレーが多いことがわかります。
このことから、運動量でディエゴのように勝負するより決まった場所に張って攻撃の起点になるようなプレーが多いことがわかります。

そのため、前回投稿の能力値からも想定できるようにポストタイプの選手として、ピッチワイドにボールを受ける役割が期待されることが想定できます。

スタッツから見る役割

それでは、Perottiのブラジル2部セリエBリーグ戦でのスタッツをみていきたいと思います。
2022シーズン、PerottiのセリエB出場は26試合1,827分です。
この時間内のプレーを90分平均にしたものが以下に示すスタッツとなっています。
一般的なスタッツ(General)、攻撃に関連するもの(Attacking)、パスに関連するもの(Passing)の順に上から並べています。

Perotti 2022ブラジルSerie Bでの90分平均スタッツ

このスタッツを見る中でも比較対象がないと想定が難しいので、ここでも同じスタッツを2022年のJ1リーグに絞ってディエゴのものを表記したいと思います。

ディエゴ・オリヴェイラ2022J1での90分平均スタッツ

両者のそれぞれの項目を比べてみましょう。
総体的にみると、いかにディエゴが多くの仕事をこなしているのか、ということがよく分かります。

最上段のGeneralの項目で見ると、90分あたりのパス数(Passes)クロス数(Crosses)はほぼ倍です。
しかし、空中戦数(Aerial Duels)は倍以上の数をPerottiがこなしています(勝率はほぼ同じ)。

中段のAttacking項目を見るとシュート数と枠内シュート率(Shots / on target)はPerottiが上回っています。
また、ペネルティエリア内でのタッチ数(Touches in penalty area)数、オフサイド数の比較から、ディエゴよりも相手ペナルティ内に侵入したり、相手DFの裏を狙う動きが多いことが見て取れます。

最後に下段のPassingの項目を見ると先に述べたようにディエゴの仕事量の多さがよく分かります。
Passes、Through passes、Passes to penalty area、Received passes、Forward passesと、あらゆる項目でディエゴがPerottiを上回っています。
このことはディエゴがいかにユーティリティなプレーヤーかということを表すと共に、ディエゴに多くの仕事を任せすぎていたことも同時に表しています。

話がディエゴが主語の流れになってしまいましたが、4−3−3という戦術の特性を考えると、ワントップがこれだけ多くの役割を担うことは本来狙うべきサッカーになっていないことを示してしまっています。
その意味では、Received Passesに対してBack Passesの比率が高い(73.9%)というポストの役割を厭わないPerottiの方が、ワントップとして適任であり、このことはよりディエゴを本来の役割で活用できることを示していると思います。

フェリッピではダメなのか

ここまでディエゴ・オリヴェイラとの比較で見てきましたが、では2022年シーズン後半からFC東京に加入したルイス・フェリッピ選手と比較をした場合、フェリッピではダメなのか、ということを最後に考察したいと思います。

フェリッピの場合、1,000分以上の試合出場を果たしたのがスポルティングでの2019/2020シーズンまで遡らないといけないことから、単純にスタッツで比較することが正しいのかどうかという疑問点が残ります。
それを除してあくまでもFC東京でプレーした12試合451分というスタッツに限ってみると、以下の通りになります。

フェリッピ2022J1での90分平均スタッツ

プレー時間の差異を考えてみても、先に示したPerottiのスタッツと大きく変わるポイントがない、というのがご覧いただけるかと思います。
つまりは、フェリッピに求めた仕事をPelottiもこなせる、ということがスタッツ的にもみてとることが出来ますし、逆を言えば2022シーズン少ない時間でフェリッピがこなした仕事をペロッティはシーズン通してやってきた、ともいえます。

各々の選手が活躍したフィールドの差異を数値的に表せないために、この比較に意味を持たせることは非常に難しいのですが、あくまでも直近の数値比較にJリーグファンという考えを加えると「Jリーグというサッカーを理解したであろうフェリッピが、獲得候補と同じ数値を出しているならフェリッピでいいのではないか?」という疑念も湧いてきます。
もちろん、巷間に噂される2億円超というフェリッピの獲得オプション行使をするのであれば、新たな選手をレンタルで獲得することのほうが財務的なインパクトが少ないとも言えます。
さらには、新外国人選手が日本という国、さらにはこの治らないコロナ禍に馴れる時間を考えると、フェリッピの買取検討を夏まで伸ばすことはできなくはないのではないか、という思いが頭を擡げるとも言えます。

もちろん、24歳と29歳、左利きと右利き、スタッツでの違い以上に違うポイントも多い上に、性格上の違いなどもあるためにどちらの選手が良いとか悪いとかは一概に言うことはできません。

しかし、ここまでみてきた中では、Perottiに期待される役割は

  • 高いフィジカルを活かして全線での起点となる
  • ディエゴの負担を軽減する
  • ゴール前での高い枠内シュート
といったポイントを期待されているように思います。
本日現在、まだレアンドロの去就が明らかになっていませんが、極めて個人的な意見を言うならば、Perottiが左サイドもできると言うことを考えると、レアンドロの去就如何ではフェリッピも残しての前線ハイタワーもオプションに入れながらの比較検討でもいいのではないかと思います。
フェリッピの足元の柔らかさとフィジカルの強さはJリーグでは驚異になりますし、Perottiの枠内シュート数の高さ、起点となれるであろう力量も魅力的です。
前線に二つの起点がある、というのは相手DFにとっても試合終盤に非常に厄介になる可能性も高いですし、これまでにそんなサッカーを見たことがない、という興味も含めて。
ただ、これでPerottiがFC東京に来なかったら、この分析は他サポーターさんの参考にして頂ければと思います・・・。

Transfer Talk – Pedro Henrique Perottiを知ってみよう〜前編

FC東京への移籍の噂がある選手をチェック

相変わらずの全然管理されてないブログ。
なんとかしないとなんとかしないと、で10ヶ月。あー。
とはいえ、なんとかする気はあるので時間を見つけて積極的に何か更新したいと思います。

今回は2022年12月28日現在FC東京加入の噂となっているPedro Henrique Perotti選手に関して、これまでのStatsなどを使って考察したいと思います。

本人について知る前に思い出すべきこと

Perotti選手本人について考察する前に、彼が所属するChapecoense(シャペコエンセ)について思い出しておくべきことがあります。
ご記憶の方も多いかと思いますが、2016年11月28日に発生したラミア航空2933便墜落事故です。
詳細は上記リンクWikipedia 他に譲りますが、当時このニュースを聞いた際にいったい何が起こったのか、(一応)航空ファンでもある僕はあちこちのニュースサイトを掘っくり返して、この事故の背景にあった人為的なミスに憤ったのを今でも覚えています。
この燃料不足の件は、事故後かなり早い段階で現地報道では問われていましたが、公式な見解が出たのは上記リンクの通り2018年4月までの時間を要しました。
この事故で主力の大半を失い2部降格もやむなしと言われたシャペコエンセは、1年後の16/17には1部リーグ9位、17/18シーズンは14位、18/19シーズンは19位で2部(セリエB)降格、19/20シーズンは2部で首位となり1シーズンで1部返り咲き。
現在は再びセリエBとなっていますが、元来磐石とは言えない財政基盤をローン移籍や選手の売買で乗り越え、悲劇の後もブラジル国内で確かなチームとして活動しています。
そしてこのPerottiは、正に悲劇の直後の16/17シーズン1月に、シャペコエンセU20からトップチームに昇格し、以来ポルトガル2部のCDナシオナルへのローン移籍を含めたシーズンをシャペコエンセで過ごしています。
いわば、シャペコエンセでは「我がチームの希望」としてファンから愛されていたであろうことは想像に難くありません。

プレースタイルを想像してみる - Football Manager 2023編

そんなシャペコの星(であろう)Perottiとはどんな選手なんでしょうか。
能力を数値化する、というのは世界数多あるリーグで基準を設けることは容易にはできませんし、主観が入ります。
Youtubeの動画も代理人事務所が売りに出したい良いシーンを編集しているに過ぎませんので、弱みを観てとることはできません。
そんな時に、極めて客観性が高く、能力値を数値化しているのがゲームのFootball Managerシリーズです。
数値化の詳細は明らかにされていませんが、プロも舌を巻くほどに若手選手までしっかりと押さえており、尚且つその能力を数値化していることを考えると、これを使って想起するのがまずは容易かと思います。

各数値の満点は20点です。
この満点から見ていくと、概ね60%ぐらいの数値を叩き出している「平均よりちょっと上」の選手と言えます。
ただ、この数値が良いのか悪いのか、Perotti選手の数値ではイメージができにくいので、先のW杯でも活躍した堂安選手の数値も載せておきます。

堂安選手のプレースタイル、W杯でのプレーぶりを思い返すと、なんとなくPerottiのプレースタイルが想像できるのではないでしょうか。

堂安選手がテクニック(First TouchとTechnique)及び俊敏性(Agility)で勝負するのに比べて、Perottiはその点が欠けています。
しかし大きく遅れをとっているわけでもありません。
例えば、堂安選手のFirst Touchが15に対してPerottiは12、前者のTechniqueが16に対して後者は12。
こう見ていくと、フィジカルの強さ(Heading,Jumping Reach)と共に決定力(Finishing)を持ち合わせた、典型的なポストタイプの選手または前線で体を張ってボールを守る選手と想像することができます。

本日のところはゲームではあれど、プロも注目するデータの数値化を実践しているFootball Manager2023 の能力値を見てどんな選手なのか、を想像してみました。
明日は実際のシャペコエンセでのスタッツを使って、今回見てきたプレースタイルの裏付けを見ていきたいと思います。

ロシアのウクライナ侵攻とサッカー

「政治とスポーツは別」ということ

2022年2月24日(日本時間)に、ロシアがウクライナに侵攻したことは誰しもが知ることかと思います。
最初に申し上げておくと、一般市民を巻き込むこの蛮行は許されるものではありません。
国際政治学的に見ると、プーチンの人格を分析すると、などは偉い先生方にお任せすべきことであって、一般市民としては、とにかくこの侵略戦争が早期に解決し、一日も早くウクライナ市民が元通り(に近い)生活に戻れることを望みます。

その一方で、ネット上ではロシアをスポーツ界から弾き出すべき、という声が散見されます。
ネット上と言っても、特に酷いのはヤ○ーコメントな訳ですが。
そんなの相手にする必要はない、という気が自分でもしつつ、根幹的なことが理解されてないなという思いがあり、この投稿をしてみようと思います。

「スポーツと政治は別」
というのはある種使い古された言葉ではありますが、このような有事の事態であるからこそ、この言葉を改めてしっかりと見つめ直す時でもあろうと思います。
当サイトでの投稿ですので、サッカーの観点で見ていきたいと思います。

大きな勘違いから助長されているロシア制裁論

まず、今回のロシアによるウクライナ侵攻において、サッカー界として最も注目を集めたニュースは、2022年5月28日にサンクトペテルブルグで開催を予定されていたチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦を、フランスのパリ・サンドニに変更するという、UEFAの発表です。
このニュースにおいて最初に言っておかなければならないのは、このシンプルなリリースが決定的なミスリーディングを招いていると言わざるを得ません。
なぜ変更する必要があるのかを明記せず、要旨としては以下の通りです。

  1. サンクトペテルブルグからパリに変更します。
  2. このような難しい状況で受けていれてくれたフランス政府に感謝します

  3. ロシアとウクライナのチームが行うUEFA管理の試合については中立地で行います
  4. 必要な判断ができるように今後も状況を注視していきます

 

これだけ見ると行間の読み方次第では「ロシアが侵攻したからCLの会場も変更した」と取られかねません。
後述しますが、UEFA、更にはその管理団体となるFIFAは、政治的なことを理由に会場を変更したわけではありません。
残り3ヶ月を切った世界的なイベントに対して、サンクトペテルブルグの会場及び関連施設の安全を確保しないといけませんし、その準備は一朝一夕でなされるものではありません。

試合会場の安全性の確保、およびコンディショニング、選手・スタッフの宿泊先の確保など、その準備は1年以上前からなされているわけです。
そのような状況下において、今後の情勢の見通しが立たない段階であらゆるアセスメントを行い、決断をしないと、決勝戦そのものが行えるかどうかも不透明になってしまいます。
ですから、「現状で正しく状況判断をするためにも、このタイミングで選手・スタッフの安全性を担保するために会場を変更する」という理由を明記する必要があり、それをこのリリースにおいて広く知らしめなくてはならなかったという点を指摘しなくてはなりません。

FIFA Statutesに明記された政治とサッカー分離の原則

ではなぜ先述の通りに理解をすべきなのでしょうか。
それは先にも述べたUEFAの管理母体でもあるFIFAの”FIFA Statutes”訳すれば”FIFAの法令”に明記されているからです。

まず本資料の第4項(PDF13ページ)には以下のように記されています。

  1. Discrimination of any kind against a country, private person or group of people on account of race, skin colour, ethnic, national or social origin, gender, disability, language, religion, political opinion or any other opinion, wealth, birth or any other status, sexual orientation or any other reason is strictly prohibited and punishable by suspension or expulsion. 
  2. FIFA remains neutral in matters of politics and religion. Exceptions may be made with regard to matters affected by FIFA’s statutory objectives.
 
1.については、いかなる国、個人、人種、肌の色などにおける区別・差別はしない、と明記しています。

2.についてがさらに重要なポイントで、「FIFAは政治的、地域的な事柄について中立であり続けます」と明記してあります。
すなはち、今回の事象に照らし合わせるのであれば、「FIFAはロシアがウクライナを侵攻したからといってその中立性を崩しません。ただし、このFIFAの法令を破るようなことがあれば、それは別です。」ということになります。
更には15項(PDF19ページ)において、メンバー国に対しても政治とは分離した主幹組織の組成を規定しています。
(a)〜(k)までの項目がありますが、今回の事象に関連するのは(a)〜(c)となるので、ここではそれを転載します。

  • (a) to be neutral in matters of politics and religion; 
  • (b) to prohibit all forms of discrimination; 
  • (c) to be independent and avoid any form of political interference;
 
順に見ていくと(a)政治的・地域的な事柄から中立であること (b)全ての差別を禁じていること (c)いかなる政治的な影響を受けずに独立していること ということになります。
つまりは、ロシアのサッカー主幹組織であるロシアサッカー連合(RFU)が、この憲章に明確に反しているということが立証されない限りFIFAおよびUEFAからロシア=RFUを除名する、つまりは国際大会から除名することはできません。
これを「戦争はその差別に含まれる」などと言い出すと、戦時下の国は全て除名または資格停止となり、FIFAが本来敷いている「政治的・地域的な事柄については中立である」という自らの組織定義を否定することになります。
よしんばロシアを資格停止にしたとするならば、それは理事会において極めて政治的な信条によった恣意的な判断が行われたと言わざるを得ません。
このような「法令」を掲げてきた以上、FIFAはロシアを除外または資格停止にすることができないわけです。
この点に関しては、過去にクウェート侵攻をしたイラクにも同様のことが言えます。
当時イラクはサッカーの大会から除名はされていません。
今回ロシアを除名する、という運びになれば、時を遡ってイラクはどうなんだ、イランはどうなんだ、フォークランド紛争のアルゼンチンはどうなんだということになります。

上記から考えると、ロシアを国際的なサッカーシーンから締め出せ、というのはFIFAが掲げるサッカー本来のあり方から逸脱する意見であり、よもやそれが行われたとするならば、それは国際サッカーのあり方を根底から覆すこととなってしまいます。

制裁の目はなし

そうは言っても、人としてやはり今回の蛮行は許し難いものです。
FIFA、UEFAがロシアをサッカーシーンから締め出せないなら、何が起これば締め出せるのか。

結論を言えば、先に示したFIFA StatutesにRFUが明確に違反していること、つまりはRFUにロシア政府が介入し意思決定を行うこと、またはロシアという国じたいが国連制裁を受けるしかありません。

過去を見てみると、ここでは内戦下にあったユーゴスラビアがEURO 92’への出場ができませんでした。
(ここでは当該の内戦については細かく触れません。ご興味のある方はお調べください。)
この際は、内紛が続くユーゴスラビアに対して、国連がスポーツも含めたあらゆる禁止事項を含んだ制裁を課したため、ユーゴスラビア代表は活動を許されず、スウェーデンに渡航することも叶いませんでした。

いやいや、これは流石に政治的な事柄にFIFAが縛られているではないか、という思いも私自身でさえもします。
ただ、このケースの場合は国連という政治的・地域的な括りというよりも、国内間問題を検討する組織体の中で合議の上決定した、ということにFIFAも従わざるを得なかった、ということになります。
ここでサッカーだけは例外、ということが起きていたとするならば、それこそFIFAの権力が各国代表の判断を超えるほど影響力が大きくなりすぎた、ということにもなってしまいます。

では実際に国連制裁がロシアに下って、国際サッカーシーンから締め出されることがあるのか、というとそれは現実的ではないでしょう。
国連安全保障理事会の常任理事国にロシアがいる限り、ロシアは否決権を行使しますので、国連内で孤立する印象こそつけられるでしょうが、実態として国連としての強い制裁は現実にはならないでしょう。
実際に、ロシアの否決により日本時間2022年2月25日にはロシア非難決議案が否決されています。

つまりは、サッカーファンとしては、それが納得し難いものだとしても、ロシアを国際サッカーシーンから消すということは出来ません。

欧米サッカー弱体化への始まりの可能性

ここまで述べてきたように、スポーツシーンにおいてはロシアを締め出すというのは、公正なことではありませんし、公正さを脇に置いてなんとか実行しようとしても不可能なわけです。

ただ今回の侵攻が、サッカーファンとしては本義ではありませんが、結果的にはロシアサッカーの弱体化の起点になるように思います。
親善試合や代表ウィークのAマッチを設定するのは各国主幹組織の自由です。
マッチメイキングができそうな国に打診をし、合意することができるなら試合をすることができます。
逆の意味で言うと、今回の侵攻を非難する各主幹組織からすると、自国の代表がロシアと試合をしても良いことがないと判断すれば、ロシアとの試合をセットする必要がありません。
サポーターが暴れる可能性がある、政治的なメッセージがピッチ内外で掲げられるなど、安全で安心な試合を行えないことを理由に、ロシアとのマッチメイクは避けることができます。
これは先のFIFA Statutesにおける中立性ではく、開催する試合の安全性を担保しなければならない主幹組織に与えられた権限です。
然るに、中長期的に見て、特に欧米各国・NATO加盟国やその連合国は、政治的に中立でありたいという暗黙の理由からロシアとのマッチメイクはしなくなるのでしょう。
例え中立地で試合をしたとしても、自国内サッカーファンからの批難は避けられません。

同様に、今回の侵攻が一個人に与えた印象も強烈だったでしょう。
ロシア国内で活動する非ロシア人選手が「不安定で先行きも不透明で自分の安全に関わる」という理由で退団することもあるかもしれません。
海外指導者も同様にロシア行きを拒むでしょうし、各国の育成ノウハウも共有されなくなってしまうかもしれません。
プレーする、指導する現場はあくまでも一個人ですから、サッカーという側面では各個人はその信条に従って行動するようになるでしょう。
レベルの高い選手がリーグに入って来なくなれば、国際試合で十分に戦える選手は、自国内のみで育成しなければならなくなります。
ロシアの育成メソドロジーがそこまで成熟していれば問題ありませんが、国際的に活躍する若手も少ない現状を見ると、さらなる後退は余儀なくされるでしょう。

一方で、各国リーグでロシア企業のスポンサードを受けているチームも同様でしょう。
実際に日本時間2022年2月25日には、マンチェスター・ユナイテッドが日本円で12億円相当の、ロシア航空会社アエロフロートとのスポンサー契約を破棄することを発表しています。
また、2007年からロシア企業ガスプロムのロゴをユニフォーム胸スポンサーとしているドイツ2部シャルケも、表記を無くしたユニフォームでプレーすることを表明しています。

ロシア企業のロゴを胸につけて躍動する選手をサポーターは見たくもないでしょうから、反対運動が巻き起こることになるでしょう。
となると、そのチームは新たに莫大な資金を注ぎ込んでくれるスポンサーを探さなくてはなりません。
しかし、コロナ禍で多かれ少なかれ痛手を被っている企業が多い中で、そのような新スポンサーを見つけることも難儀でしょう。
結果トップチームも青息吐息になり、ユースチームなどへの投資が絞られてしまうこともあるでしょう。

つまり、今回の侵攻は、ロシアのサッカーシーンを苦しませるだけではなく、欧州サッカーをも引っくり返すことになってもおかしくない事態であると想像するのはするのは難くありません。

僕が応援するチェルシーも、誰もが知るようにロシア人オーナーのチームです。
各国の経済制裁により、アヴラモビッチ氏の企業の資金凍結などとなれば、チェルシーも一緒に叩き落とされることにになります。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は決して許されるものではありません。
また、オリンピックを始めとするスポーツ大会の開催には政治との関係は不可欠でもあります。
その一方で、プレーヤー・ファースト、どのような政治状況下にあっても選手がプレーをする機会を政治的な要因により取り上げることはないとするFIFA Statutesを僕は支持します。
サッカーは、スポーツは、政治的背景を除することはできなくても、与えられたフィールドの上で、共通のルールの下で互いが鎬をけずる場であるべきなのだから。