Match Review 2023.1.5 Leeds United vs West Ham United

失った勝利

前節好調ニューカッスルを前に必死の守備が身を結び勝点1を手にいれたリーズ。
今節は昨シーズンとは打って変わって開幕来不調が続くウェストハムをホームに迎えてのゲーム。
下位からの勝点3奪取が何よりも期待されたところだが、結果は2−2の2戦連続ドロー。
正直に言ってしまえば、リーズサイドから見るとこの試合は勝点2を失った、と言っても差し支えのない試合だった。
後述するが、先制点及び勝ち越し点の取られ方があまりにも残念だからだ。
一方のハマーズにとっては今後の残留争いに基調となるであろう勝点1。
5連敗で迎えたこの試合で、勝点1を拾えたことは相当大きかっただろう。

怪我と移籍交渉の難航に苦しむハマーズ

昨シーズンのウェストハムの成功は、何よりもモイーズ監督が標榜する堅守速攻型のサッカーがハマったことにある。
ライス、ソーチェクの汗をかくことを厭わない守備的に強い中盤に、センターバックにはドーソンとズマもしくはディオップと体を張れるフィジカルに強い選手がいた。
そこで守ったボールを、フォルナルス、昨シーズンブレークしたボーウェンのスピードあるサイドが運んでいく。
最前線ではマイケル・アントニオがそのフィジカルの強さを存分に発揮してボールを守って後続の上がりを待つ時間を作ることができていた。

しかし、今シーズンはその安定の方程式が崩れている。
最前線はサッスオーロから加入したスカマッカの起用でさらなる飛躍を担ったが、最前線で幅広く張ってフィジカルで勝負するアントニオに比較すると、スカマッカは中盤まで降りてきてボールに触るタイプのため、ボールの保持ポイントが低くなってしまっている。

スカマッカとアントニオのヒートマップ比較

FWでのボールの収まりの不安定さをアントニオの交代投入で改善を図るが、それ以前に今シーズンリーグ18試合の内14試合で先制点を与えてしまっている守備の崩壊が大きい。

一つはボールの跳ね返しの部分で大きな役割を担っていたDFラインの中核ドーソンが開幕から7試合、今シーズン計10試合使えていない事。
ディオップをフルハムに放出してレンヌから獲得したアグエルドが怪我で全く機能できないこと。
ズマも怪我がちで稼働率が良いとは言えず、そのセンターバックの惨状を右サイドバックのジョンソンや左サイドバックのクレスウェルで埋めてみたり、PSGから獲得したケーラーを左サイドバックで使ってみたりと、とにかくDFラインのラインアップが安定しない。
これにより守備はガタガタの状況が続いてしまっている。

この守備状況をなんとか改善しようとこの冬の移籍市場で懸命にセンターバックの補強を目指しているようだが、残留争いに巻き込まれたプレミアリーグのチームに加入する選手は限られる。
選択肢を考えると、CLで既に敗戦しているチームでかつプレミアリーグよりもプレー及び給与水準が落ち、なおかつビッグクラブと競合しない、というかなりの難易度になってくる。

12月にサンパウロから若いルイゾンを獲得したものの、20歳のブラジル人がいきなりプレミアで救世主となることも難しい。
ドーソンが復帰から万全になりつつある今、あと1枚確実に稼働でき、かつロングボール配球が可能なセンターバックを獲得できれば、なんとかなる可能性は高い。

相変わらずな右サイドバックの問題

ハマーズの項目で全く戦術的なことに触れなかったが、それは冒頭にも述べたようにリーズの失点があまりにも酷かったためだ。
まず1失点目は、ボールが落ち着かない状況で右サイドバックのエイリングが前に比重をかけたことで、案の定裏をスカマッカに綺麗に取られて、そこから楽にセンタリング。
ストライクがボーウェンを引っ掛けてしまいPK。

毎度毎度当Blogでも述べているが、この右サイドがエイリングであろうが、クリステンセンであろうが、同じように簡単に裏を取られることがあまりにも多すぎる。
無論これは両選手のポジショニングの悪さに起因するものだが、もう少し言えば最前線でボールが落ち着かないために、前にかけた比重を後ろに戻さねばならない状況になっている、とも言える。

最前線の観点で言えば、ロドリゴはシュートとボールの持ち方は上手いが、ボールを収めるという意味ではバンフォードに劣る。
バンフォードの懐の深さがあれば、右サイドバックが上がろうとするところを前線で時間を作れるし、下がるにしても1秒か2秒の時間はつくってくれる。
しかしながら、ロドリゴは頑張っているが、その懐の深さがない。
アーロンソンは前を向いてなんぼの選手なので、ワンタッチで相手のプレスを剥がせればいいが、相手に研究されて2枚でプレッシャーをかけられて満足にボールを持てなくなっている。

前節の際にも言ったが、右サイドを右サイドバックとウィングの2枚で作っていくのであれば、少なくともDFライン(ストライク・クーパー・コッホ)はもっと右サイドにスライドしてそのリスクをマネージしなければならない。
もっと言えば、エイリングの裏を取られた際にコッホがフォルナルスについて行ってしまい、そのポジションを離れてしまったこともこのシーンの不味さに繋がっている。
この右サイドの課題は縦のパスのみならず、逆サイドのサイドチェンジでピンチに陥ることもしばしばにも関わらず、18試合を紹介して尚修正されないのは大きな問題であり、勝点を積み上げられない要因だと思われる。

2失点目は言わずもがな。
不用意なワンタッチのバックパスを掻っ攫われての失点。
誰にもミスはあるし、ミスの無いフットボールはあり得ない。
アーロンソンはここから多くを学んだと思うが、この失点の仕方もがっかり感が大きく、ハマーズの力量でやられたとは思えない。

美しさを取り戻しつつある攻撃陣

悲観的なことばかり言っても仕方ないので攻撃に目を移せば、試合を重ねるごとにニョントが良くなっている。
先制点のシーンでもスローインからロドリゴが繋げたボールを右サイドで受けて中央のスペースに運びながら、サマーヴィルの上がりを待ってパス。
サマーヴィルが縦にドリブルして作った時間で裏のスペースに出てワンタッチでゴールを陥れた。
起点はスローインだったが、しっかりとスローインの際にボールが入るロドリゴに寄って行ってボールを受け、瞬時に空いたバイタルを使って攻撃を構成しつつも、DFラインの裏を取る動きは19歳の選手とは思えない動きとしか言いようがない。

ロドリゴの同点ゴールも美しかった。

これも起点はスローインだが、アダムスが中央のプレッシャーの少ない状況でボール持って時間を作る間にハリソンがバイタルのスペースに移動。
ボールを受けたハリソンは前を向きながらワンタッチで相手を交わして、ツータッチ目で斜めにペナルティエリアに入るロドリゴの足元にパス。
ワンタッチで縦の関係になった相手センターバックの間を抜けたロドリゴはツータッチ目で左足を一閃。

1点目も2点目も、こういったワンタッチ、ツータッチで相手のDFの間を抜ける攻撃ができるようになってくれば、攻撃面は心配なくなる。
攻撃陣は若手を中心に美しい攻撃が出来る素地があることがこの試合でも分かったので、今後の試合ではこの練度を高めて行って欲しい。

ありがとうクリヒ

この試合を最後に、プレミア昇格からこの日までチームを支えてくれたマテウシュ・クリヒがリーズを退団した。
2017年にオランダのトウェンテから加入したものの、半ば使い物にならないと再びオランダのユトレヒトにローン移籍させられ、イングランドでのキャリアに暗雲もあっただろう。
しかし、2018年にビエルサが就任すると、その運動量とデュエルで瞬く間にチームの中心となった。
それから昇格。
プレミアの力量には足りなかったかもしれないが、それでも交代で入ると変わらぬ運動量と暑苦しいまでの熱量と、そして前に前にと向けるパスで局面を変えるために尽力してくれた。

語り始めるとキリがない。
ただ、世界のリーズサポーター、特に我々日本人にはクリヒの献身性は心に響くものがあった。
パブロ・エルナンデス、カルヴィン・フィリップスと共に、リーズ再復活の道筋を作ってくれたレジェンドの一人であることは間違いない。

これからはMLSのDCユナイテッドへと旅立つ。
MLSはApple TVで観れるようになるそうで(MLS Passが幾らになるかは分からないが)、間違いなくMLSでもチームの中心としてファンの心を掴むであろうクリヒの活躍を見続けていきたい。

本当にありがとう。クリヒ。
Dziękuję bardzo, Klich.

Match Review 2023.1.1 Newcastle United vs Leeds United

袂を分つ双子の兄弟

新年明けましておめでとうございます。
また最近当ブログも頑張って記事投稿をするようになりましたが、今年はきちんと定常的に、自分の身丈にあった無理のない形で投稿をしていきたいと思います。

さて、本題ですが、天皇杯の決勝が元日に行われなくなって2年。
サッカーファンの元日はプレミアリーグが担うようになってきました(多分)。
故あって国立競技場で12月31日の日中を過ごし、1日14キロも歩いて疲労困憊の状況で迎えた新年最初のサッカー観戦は、楽しみにしていたニューカッスルvsリーズ。

異論はあるでしょうが、個人的にはこの2チームはなんとも言えない味わいを持った「双子」のようなチームだと感じていました。
歴史的にも長きに渡りイングランドサッカーの中心であり、共に相手チームが戦うのを嫌がるほどの熱いホームサポーターとスタジアムがあり、それでもプレミアリーグでは残留ラインから中位のシーズンが続く。
そんな状況でも決してサポーターは離れる事なく、我がチームへの声援をやめない。
リーズが長期の間2部にいたことを別とさせてもらうならば、歴史的に見ても非常に似た背景を持つ両チーム。

その双子のようなチームも、2021年にニューカッスルがサウジアラビア系ファンドのPIFに買収されて以来、袂を分かち始めました。

的確な補強が身を結ぶニューカッスル

これまでの移籍市場においては、いわゆるビッグマネーを背景としたオーナーが誕生すると、いきなりとんでもない大目玉の選手獲得が期待されてきました。
しかし、ニューカッスルの場合は豊富な資金を戦略的に使って補強に向けた打ち手を打っていると言えます。
PIF買収以降の加入選手は以下の通りです(Transfermarktより)

移籍金については、当該選手の当時の市場価値を遥かに上回る金額を支払っているのは確かですが、その一方でどういったチームを構成していきたいのかが的確にわかります。
2021/22シーズンは、ゲームを作り上げるための中盤にビッグクラブも注目していたブルーノ・ギマランイスを移籍金で圧倒して獲得。
同時にアトレティコ・マドリーで絶対的な存在となっていたキーラン・トリッピアーを当時の移籍金約19億円+ボーナスと格安の移籍金で獲得。
その他の選手についても語り出すと項目に終わりがないが、獲得した選手それぞれからもこれはチームとしてどのようなチームを作り上げていくのか、それにあたって短期/中期/長期でどのような選手獲得をしていくのかが非常に明確に分かります。

この狙いと結果の連動に関しては、非常に興味深いので別で記事を書くことにしたいと思うが、この2年弱で大きく変わったのがポゼッションが20/21→21/22→22/23の19節終了時点まで38.84%→41.85%→50.15%(各90分平均/プレミアリーグのみ)と大きく向上しています。

またこの試合においては、後述のLeedsの項でも触れるがパス数が405本と全シーズンのプレミアリーグ自チーム平均309.11を100近く超えています。
このことからも新生ニューカッスルが狙うサッカーは明らかなもので、この冬も含めてよりパス志向のサッカーに取り組んでいくことになると思われます。
マンチェスターシティを凌駕する金満チームでありながら、シティ同様に世界トップクラスかつ自チームのコンセプトに合う選手を獲得していきながらどうチームを組み立てるのか、が非常に楽しみなチームであり、それに十分応えてくれる試合内容でした。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方のリーズはといえば、前節マンチェスターシティ戦から大きな改善があったというわけでもなかったというのが印象でした。
相手がニューカッスルということもあり、シティに比べればこの力はまだ落ちる部分もあるため、最後の最後の場面でなんとか耐え凌ぐことができていました。
それがこの0−0という結果、つまりは勝点1に繋がったわけですが、全体的に左右のサイドバックが上がった裏を中長距離のパスで取られてピンチになる場面が多数あり、この観点は昨シーズン終盤の残留争い時点から改善された印象がありません。

もちろん自身がポゼッションしている際にラインを高く設定して、相手ゴールに迫力を持って迫っていくサッカーは、可能性を感じることが多く観ていても楽しいと感じています。
しかし、相手ゴール前まで迫っても、シュート数は8本で枠内が1本、そこに至るまでの相手ゴールに迫るまでのProgressive Passの成功率は64%と、ここ数試合大きく改善していません。
またこの試合では全96回のボールロストにおいて、中盤でのロストが約半数の43回と、せっかく守備陣が奮闘して守り切ってもそのボールを繋ぎきれていないことがはっきりと分かります。

実際にプレーの中でも、中盤での繋ぎの場面でボールをつなげることができず、前半でフォーショーをロカに交代させて中盤でのパス向上を目指しました。
そして、この交代によって中盤での失地回復の兆しが見えたことは、ニューカッスルに攻撃を受ける際に許すパス数を示す数値のPPDAが改善していることもこの交代によって示されています。

このことからも、中盤でロカ、アダムスのどちらかが欠けても、中盤のバランスが崩れてしまうことは前節、今節で改めて痛感することになったリーズの課題でしょう。

Newcastle vs LeedsにおけるLeedsのPPDA推移

飛車角落ちの状況をどう補うのか

前節のレビューでは、DFラインと中盤に課題と述べました。
DFラインについては、この冬の移籍市場でザルツブルグからクリステンセンやアーロンソンに次いでマキシミリアン・ウーバーを獲得しました。
これにより左サイドで奮闘していたストライクが本来のセンターバック、場合によっては中盤の底を担う余地ができましたので、コッホとストライクというセンターバックコンビの計算が立つようになりました。
またウーバーはセンターバックとしてもプレーができる選手ですので、コッホとウーバーのドイツ語圏のセンターバックコンビでストライクを左サイドバックにすることで、右サイドバックのクリステンセンが持つ前への力を活かすために、攻撃時はストライク-ウーバー-コッホでの3バックにすることも、先述したサイドバックの裏を取られることへのリスク回避策にもなります。
さらにはこの場合、中盤のアダムスやロカを必要以上にDFラインに近い場所でプレーさせなくて良い、というメリットにもつながります。

その一方で、アダムスとロカいずれかの飛車角落ちの状況になった場合の備えについてはまだまだリスクが高いと思います。
この冬の移籍市場のニュースも、攻撃的な選手かサイドバックの名前が相変わらず多く、中盤の選手で噂があるのはスイスのルツェルンの若手アルドン・ヤシャリ程度であるのが少々不安です。
そのヤシャリはスコットランドのセルティックも興味を惹いているという報道もありますし、クリヒの移籍も変わらず噂されているため、中盤での繋ぎが出来て汗もかける選手の補強はこの冬必達の目標と言っていいでしょう。

もう少し攻撃で可能性のある場面が増えてくれれば、課題を覆い尽くすポジティブな材料も出せるかと思いますが、この2節で見た飛車角落ちの現状が改善されなければ、昨シーズン最後のようなアップダウンの激しいサポーター感情に巻き込まれるのではないかと、かなり心配になってしまった年末年始の2試合でした。

Match Review 2022.12.28 Leeds United vs Manchester City FC

対照的なチームによる対照的なゲーム

ワールドカップ明けのリーズ初戦。
ワールドカップにアメリカ代表以外に選手を派遣していないチームは、スペインでのキャンプも含めてチーム練度の向上に当ててきたが、この期間の親善試合3試合を通してDFラインの裏にボールを出されると完全に守備が後手に回る弱点が改善できていないことが如実となった。

一方多くの選手をワールドカップに派遣したシティは各々の選手の疲労が心配されたが、エースであるハーランドは休養十分。

チーム事情も好対照なら、プレーするサッカーも好対照。
ボールを繋ぎながらも縦に早いサッカーもできる万能型のシティに対して、ハイライン・ハイプレスでリスクを取りながら相手ゴールに迫るリーズ。

90分を通して対照的な試合となった。

幅も縦ものシティ

リーズファンであることを差し引いても、シティのサッカーは観ていて楽しい。
楽しいというよりも開いた口が塞がらない、と言った方が正しいかもしれない。

ワールドカップを優勝したアルゼンチンがそうだったように、ピッチの幅をワンタッチ・ツータッチでしっかりと使いながら、相手が食いついてラインが上がったところを中長距離のパスでしっかりDFラインの裏を狙って相手ゴールに迫る。
シティはこの精度が異様に高い。
DF各々の足元の上手さはもとより、デ・ブライネ、マフレズ、ギュンドアンといった中盤の選手がしっかりとDFが持ったボールに合わせて、それを引き出しながら次に繋げる効果的なポジションを採ってくるので、食い付けば食い付くほど相手チームは手玉に取られるようにシティのペースに嵌ってしまう。

この状況を如実に表しているデータが以下のPPDAです。
PPDA(PassesAllowed per Defensive Action)を説明しておくと、ピッチ全体の攻撃側の60%内で攻撃側のチームが出したパス数を、ディフェンス側のアクション(デュエル勝利、インターセプト、スライディングタックル、ファール)で割った数値になります。
例えば、相手ゴールから60%のエリア内で攻撃側が404本のパスを出し、それに対して守備側が23回の守備的アクションを成功させているとするなら、404÷23=17.565…となります。
この数値が低ければ低いほど守備側のプレスがハマっているということになりますし、高ければ高いほどプレスが効いていないということになります。
説明が長くなりましたが、PPDAの意味を理解した上で以下のデータを見て頂くと、どれだけシティがリーズを蹂躙していたかということがわかるかと思います。

Leeds vs Man CityにおけるLeedsのPPDA推移

試合開始15分までの39.3も相当ですが、16分から30分までの83はもはやLeedsが何もできていないことを示しています。
この試合でシティが出したパスは680本なので、4分の1がこの時間帯にあったとして170本のパスを出したとしてもリーズのディフェンスアクションが決まったのは2回程度ということになります。
もはや大人と子供のサッカーをプレミアリーグというトップレベルで展開できること自体が次元が違うと言えます。
前半終了間際に得点するまでのPPDAの推移を見ても、試合全体が均衡していたとはいえ、得点は必然の結果と言っても良かったのでしょう。
逆にシティ側からのPPDAをこの項の最後に掲載しておくと、ポゼッション率以前にシティが試合を支配していたこと、及び失点した理由がよく分かるかと思います。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方リーズはこの試合で多くの課題を再び突きつけられると共に、嬉しい悩みにも直面したと言えるでしょう。

大きな課題点としてはやはりDFラインです。
この試合の2失点目はキャプテンであるクーパーの不用意なパスミスからでした。
筆者自身も、クーパーは代えの効かない唯一無二のチームキャプテンであることは認めていますし、彼自身のプライベートでの活動も正に人格者と言えるものです。
しかしながら、フットボールということに目を移して考えると明らかにプレミアリーグレベルにない、ということは確かです。
個人の批判はなるべく避けたいのですが、リーズが直面している大きな課題は二つの課題が同居していると思います。

一つ目はクーパーを外すことによるピッチ内外の影響。
二つ目はクーパーの代わりになるはずのジョレンテが怪我がちであること。

一つ目については、カルヴィン・フィリップスが残っていれば大きな問題にもならなかったでしょう。
しかし、フィリップスが移籍してしまった今、キャプテンとしてチームを引っ張れる人材がいないこと、及びキャプテンをベンチに置くことによる本人及びチームの影響を考慮すると、マーシュ自身も実は頭が痛いのではないかと思います。
何より選手本人もその事実に気付いているようにも思えます。
このポイントをこの試合でのキャプテン交代から変えることが出来るのか、は今後の注目ポイントでしょう。

二つ目のポイントは、一つ目の課題が片付いたとしても肝心のジョレンテが加入以降怪我がちであるため、結局クーパーを外せない、という結果に帰結してしまう点です。
マーシュに限らず、前任のビエルサもDFラインからしっかりビルドアップする、または中長距離の配球をすることを目指してきており、それにあたってジョレンテの足元の技術は非常に重要になっています。
しかしながら調子が上がると怪我、の繰り返しで計算が立たないことを考えると、どこまでジョレンテを引っ張れるのかが分かりません。

次なる課題点は中盤です。
この試合ではワールドカップ前の退場裁定によりアダムスが出場できませんでした。
そのためグリーンウッドを入れて4-3-3の並びでスタートしましたが、やはりプレスのスイッチを入れるアダムスがいないことで、先にシティの項で示したようなPPDAの恐るべき低下を招きました。
後半にフォーショーやクリヒを投入したことで(シティが2点先制して受けに回ったのもありますが)、PPDAの改善にはなりましたが、アダムスがいない際にどのような形で同じようなプレスのスイッチを入れるのか、を検討する必要があります。
この試合でプレミアリーグデビューを飾ったギャビが、中断期間の親善試合も含めてデュエルの強さを見せていますので、どうギャビを育てながらアダムスの後継としていくのか、を考える機会に直面しているようにも思えます。

嬉しい悩みの前線

課題は多いものの、前線のタレントは非常に楽しみになってきました。
中断前に活躍を続けたサマーヴィル、この試合でオフェンシブ・デュエルでの勝利を度々見せてチャンスを作ったニョント、そしてセットプレーからもチャンスを演出できるグリーンウッド。
何よりディフェンシブサードまで下がっての守備も厭わずに最前線の相手DFが一番嫌なところに飛び込めるゲルハルト。

ロドリゴ、アーロンソン、ジャック・ハリソンといった選手に負けないタレントが今シーズンはどんどん出てきています。
その他にもシニステラやU21のジョセフやパーキンスといった下からの突き上げも強い状況です。

開幕からその実力を発揮したアーロンソンが、対策を敷かれて少々期待された活躍を出来なくなっている状況ですが、若手をどうスタートから起用していくのか、をマーシュ監督にも検討してほしいと思います。

この試合でも中断前に良いパフォーマンスを見せていたサマーヴィルを出すことはありませんでした(流れ的に中盤を強固にしないといけないのはありましたが)。
誰の目から見ても若手が良いパフォーマンスを見せているだけに、思い切れるのかどうか、がマーシュには問われているかもしれません。

最後に、冬の移籍市場での噂が絶えません。
クリヒ、ハリソン、果ては大黒柱のメリエまで。
プレミア復帰後に冬の獲得に関する噂は多かったですが、結果的に誰も射止めることはできませんでした。
そう考えるとこの冬の加入はかなり期待薄になるため、現有戦力をキープしながらどう若手を上手くはめられるのか、がこの冬のリーズの課題になると思います。

次節は好調ニューカッスル戦。
胸の熱くなる試合を期待しましょう。

Match Review 2022.2.18 川崎フロンターレ vs FC東京

2022年シーズン開幕。

監督、コーチ陣のみならずフロントも変わり、今シーズンのFC東京がどんなサッカーを見せてくれるのか。
昨シーズンまではポゼッションを放棄したカウンターサッカーをやっていたFC東京が、”ポジショナルプレー”、一言で言うなら”常に良い位置を取る”サッカーで”ボールを愛する”サッカー、と言う真逆のサッカーを志向していくことが果たしてできるのか。

恐らく多くのFC東京ファンの方々がそんな心配を胸に、リーグチャンピオンとの開幕戦となるこの試合を観たと思います。

僕自身と同様に、その多くのFC東京ファンの方は「川崎相手だし、今シーズンの方向性が感じられればいいかな」と思っていたのではないでしょうか。
いやはや。そんな思いを抱いていた自分が恥ずかしくなるほどの胸躍る試合でした。
試合終了後に等々力に集まったFC東京サポーターを煽ったアルベル監督の姿に、こんな甘い考えで観戦した自分を恥じたほどでした。

11秒間で8本のパスを繋げた試合序盤のメッセージ

試合が進むにつれ、FC東京のポゼッションの高さに目を見張りました。
試合開始後15分は、監督、選手が語ったようにバタバタとして、ボールを扱う精度も川崎との間には雲泥の差があるように思えました。
しかし、今シーズンのFC東京は面白いかもしれないぞ!そう僕が目を見張るシーンは試合開始早々にやってきました。

そのシーンは、両軍ボールが落ち着かず主導権争いが口火を切った前半1分36秒に、エンリケ・トレヴィザンが川崎レアンドロ・ダミアンへの楔のパスをカットしたところから始まります。
ここからボールは、青木→小川→青木→安部→永井→青木→安部と繋がり、1分47秒にディエゴ・オリヴェイラへの楔のパスがカットされる形で一連の流れが終わります。
各選手が三角形を構成して、ワンタッチでボールを繋ぎ、11秒の中で8本のパスが交わされました。
このプレーに、昨シーズンまでとこれは本当に違うぞ!という端緒を見た気がしました。
これまでチームのリリースや各種報道で言われてきた今シーズンのFC東京のスタイルというものは、本当なんだ、選手もこういうサッカーをやろうとしているんだ、というメッセージが画面を通して伝わってくるようでした。

試合開始直後だっただけに、このシーンでどれだけの人が心動かされたかはわかりませんが、DAZN加入者の方は是非見直してもらいたいと思います。
90分を通して試合を支配したFC東京でしたが、ディエゴにこそボールは通りませんでしたが、僕はこのプレーがこれから磨かれて行くであろうチームの方向性を如実に表した美しいプレーとして印象に残りました。

カウンターアタック0というメッセージ

ここでデータを幾つか提示してみます。
データ元はプロも活用しているwyscout.comから抜き出します。

チーム全体及び選手個々のパフォーマンスを、General、Attacking、Defending、Passingの大項目から見ることができるのがWyscoutの大きな特徴ですが、試合後にデータを眺めていて目を引いたのがAttacking項目配下の”Counter Attack 0″という数値です。

カウンターアタックと言えば、前任長谷川監督指揮下でのFC東京の代名詞と言っても良い戦術でした。
新チーム始動から1ヶ月程度、開幕戦ということを考えれば、ビハインドな状況などでは慣れ親しんだ戦術に選手が頼ってしまうこともあるでしょうし、更には選手個々にもその感覚を捨てきれないだろう、と思っていました。
ゆえに、カウンターアタックが0というのは、個人的には軽く頭を殴られたような衝撃でもありました。

 

 

Wyscouticデータ一部Screen Shot

一応ここでWyscoutが定義するCounteattackを記しておくと
A transition of the possession from the opponent team, where the team is transitioning quickly from defensive to attacking phase, trying to catch the opponent out of their defensive shape.
と記載があります。
つまりは、ボールのポゼッションが相手チームから移り、相手チームディフェンスの体制が整わない間に素早く攻撃に転じること、ということです。
98分間を通して、FC東京はこういった攻撃がなかったということをこのデータは表しています。

これが何を意味するのか、はもはや説明する必要もないと思いますが、いかに2022のFC東京が相手からボールを奪っても、慌てて相手DFの裏側に蹴り出すような非効率な攻撃をするよりも、しっかりと繋いで自分達が動いて良いポジションを取りながら(ポジショナル)、ボールを繋いで攻撃をして行くのか、ということを意味するほかありません。

ちなみに、過去はどうだったかというと、2021シーズンはカウンター0が7試合あり、3勝3敗1引分でした。
相手のある話ですので、カウンター0で抜き出しても結果が変わってくるのは当たり前ですが、ポゼッションやポジショナルアタッキング(ボールを握って攻撃した回数とシュート数)といったデータと並べてみると、この試合でFC東京が表現したものがいかにこれまでと違った質のものだったのか、が分かると思います。

 

 

2021~2022シーズンのカウンターアタック0のチームデータ抜粋(Wyscoutデータを元に筆者作成)

平準化という課題

その他、この試合で語りたいことは多くありますが、色々なメディアやファンBlogで多く論じられている通り、人を魅了する試合だったことは間違いないと思います。
注目の超高校級スター松木のデビュー戦とその新人とは思えないプレーぶり、また新戦力新戦力スウォビィク、木本、エンリケのシュアなプレーぶりなども含めて、Jリーグファンの正月でもある開幕戦に相応しいものが見れた夜であったと思います。

一方で、果たしてこの試合でできたことが、メンバーが変わっても質を落とさずにできるのか、という課題にチームはこれから直面して行くと思います。

この試合、コロナの影響もあるのでしょう、何人かのスタメンクラスの選手が不在でした。
そのため急遽出場した選手もいたかと思いますが、この試合が今シーズンの基準になります。
アルベル監督が言うように、まだまだ道半ば、20%の出来だということであれば今後よりこの質が向上して行くことは間違いないでしょう。
一方で昨シーズンまでも多く感じたことですが、控え選手が入ると同じことができない、選手交代策の意図が見えにくいといった、チーム全体を平準化するという部分が極めて不足していました。
この点をアルベル監督がどうレベルの高い平準化ができるのかが大きな鍵になるかと思います。

この記事をこうして書いている間にも、コロナによりチームが1週間活動を停止すると言うニュースが入ってきました。
変異をし続けるこのウィルスとは、我々はこの先も長く付き合っていかなくてはならないのでしょう。
そうした場合に、コロナにより機会を得る選手、失う選手が出てくることもまだまだ続くと思います。
その時に、チームの高い水準を維持する平準化ができるのかどうかが問われてくると思います。

川崎フロンターレは少ないチャンスを活かして勝利しました。
確かに試合はFC東京が主導権を握っていましたが、交代で入った選手がしっかりと仕事をし得点に絡んだと言う意味では、やはりフロンターレはチャンピオンとして高い次元でチームの水準を維持出来ているとも言えます。

魅力的なサッカーをし、多くの人々の注目を集めた開幕戦。
首都東京のチームとして、さらに多くの人々から注目されるためにも、この試合のフロンターレのように、誰が出ても結果が伴う試合をして勝利しなくてはならないでしょう。
そのためにも、松木ばかりが注目されますが、同年代の若手選手にはもっと奮起してもらわなければなりません。

アルベルサッカーの熟成と共に、チーム全体の底上げを実感できる。
そんな2022シーズンになってくれること、そしてチーム内罹患者の皆さんが早期に回復することを祈っていきたいと思います。

Match Review 2021.5.15 柏レイソル vs FC東京

5連敗、という結果を受けた瞬間から思い出すのは、15年前の2006年のこと。
8月26日の清水エスパルス戦から10月15日のサンフレッチェ広島戦までの8連敗のことです。

当時既に千葉県に住まいを移していましたので、9月30日味スタでのアルビレックス戦に敗れ6連敗となった試合後の帰路の腹立たしさに任せて、帰宅した瞬間に持っていた荷物を廊下の壁に打ちつけました。

その時妻に「負けて悔しいのは分かるけど、選手の方がもっと悔しいんだから、あんたが怒ったってどうにもならないわよ!」と怒られたのを今でも覚えています。

以来、応援しているチームが連敗しても、良い部分を探してそこをチームが気づいてくれることを信じていこう、そんなふうに考え方を変えました。
その結果が多くの方に目を通して頂いた”FC東京の窮状を考えてみる”と”FC東京の窮状を考えてみる2~補強策の成否について”であったりします。

応援している、愛しているチームの連敗というのはファン・サポーターにとっては辛いものです。
しかし、そこを自分なりに理屈を持って納得し、信じることで突破してくれた時の喜びは一入と言えます。

15年前の闇を抜けた時は、77分から84分でガンバ大阪から3点を奪った3-2の勝利だったことを考えると、FC東京というチームは派手に突破口を見出すチームだな、などと独りごちながらベランダで飲んだスーパードライと赤ワインは至極の味でした。

上記を見ていただくと、橋本の数値を上回る結果を青木が出していることが分かります。
「いやいや、そう言っても橋本は海外の厳しい環境でやってるでしょ」というご意見もあるかと思いますが、橋本自身がロシアに行ってから各スタッツが大きく下がっていることはなく、むしろキャリア全体の数値を採用しているので、割合の少ないロシアの数値は全体に比して誤差程度です。

このダイアグラムから読み取れるのは、橋本と青木の数値は非常に似通っており、シルバは彼ら二人に比べると守備的MFに必須なデュエル能力で彼ら二人の後塵を拝すということが分かります。

では守備的なスタッツを比較するとどうでしょうか。

 

札幌戦のレビューを書かないとな、と思っているうちに時間は過ぎていき、業務やコーチ業で疲弊してあっという間にフロンターレ戦当日を迎えました。
と同時に札幌戦のレビューは放棄する、という安易な選択肢を選んだわけですが、「別にレビュー書いて給料もらっているわけでもなし。」と思っているわけではなく、単に1日が48時間あったらいいよね、ぐらいに思っているワーカホリックです。

さて、あらゆるところで触れられていることですので今更言及する必要もないのですが、FC東京が勝てなかった理由はその過程が全てであり、川崎の勝因はその誤ったFC東京の過程を見逃すことなく楽に自分達のペースを維持できたことでしょう。
そのくらいFC東京のプロセスは酷かったです。
「結果良ければプロセスが悪くてもOK」であったのはシーズン序盤によく言われる言葉ですが、シーズン中盤に突入するこの時期にあのプロセスでは先が思いやられる、というのが正直な感想です。
一方で自分を宥めているのはその「シーズン序盤」という言葉です。
まだ9節。今シーズンは残り29試合あるわけです。
4分の1が終わったこのタイミングを序盤とするのか中盤とするのか、これによって見え方は大きく変わってくると思います。

柏 - スターティングメンバー選出に失敗

後半20分の間にFC東京はよく失点をしなかった、と言えるほどに柏レイソルの重圧は非常に厚いものでした。
逆を言えば、後半のプレーを本来は試合開始後から展開したかったのかと思いますが、公式戦4試合でうまく結果が出ていなかった上に、その内の3試合が横浜FC、ベガルタ仙台、アヴィスパ福岡とレイソルから見れば「格下」とも言えるチームに対してクリーンシートを喫しているということが焦りにも繋がったスタメンだったように思います。

上記の試合を振り返ってみても、ポゼッションでは相手を圧倒しながらも決め手にかけて結果に繋がらなかった、という事から考えると新加入選手を一気に使ってチームバランスを崩すリスクをこの試合で取る必要があるのだろうか、というのがスターティングメンバーを見た時に感じました。

具体的にはエメルソン・サントス、ドッジ、アンジェロッティという3選手が加入後初先発しました。

エメルソン、ドッジは非常に良いパフォーマンスを局面局面で見せていましたが、殊更エメルソンについてはここで先発させるというのは総体的難易度をあげてしまったのではないかな、と振り返ると思います。
特にレイソルが志向している3-4-3のフォーメーションは、全体をコンパクトにして攻守の切り替えを早くするサッカーを目指したものになります。
すなはち、DFラインの上下動は3人のDFが細かくコミュニケーションを取るだけでなく、時には阿吽の呼吸で「ここは下がるべきだな」「ここはあげておこう」というバランスを保つ必要がある戦術とも言えます。

個の対応で強さを所々見せていたエメルソンではありますが、このラインコントロールの部分で他選手との呼吸が合っていたとは言えず、DFラインがバタバタとしているうちにFC東京のDFライン裏を狙う動きで失点を重ねてしまいました。
3失点してからは、GKのキムがDFラインの裏をケアする動きが多くなり、なんとか全体的なバランスを保ちましたが、このキムの動きがなければあと2点ぐらいは失っていたかと思います。

思うに、レイソルの場合はここ数試合の状況がそんなに悪いわけでもないにも関わらず、結果が出ていないことに囚われてチームの背骨となるセンターバックからトップまでを全て変えてしまったことが敗因のように思えます。
後半20分間見せたように、圧倒的なポゼッションとスペースを突く動きはできているので、まずはDFラインは日本人選手で構成しながら、ドッジの運動量を活かしていくと、そして江坂を始めとする中盤より前の選手とアンジェロッティティのタイミングを合わせていけば上手くハマる日が早晩に来るように思います。
エメルソン・サントスが良い選手なのはこの試合のディエゴ・オリベイラへの対応やデュエルでよく分かりましたので、焦らず少しずつ新戦力をフィットさせながら勝ち点を積み上げることを目指した方が良いように思います。

FC東京もそうですが、昨シーズンのカップ戦決勝を共に戦ったチーム、双方共に年明けまで戦った疲労をようやく乗り越え、新戦力のマッチに入れるフェーズだけに、焦らなければ結果はついてくるように思います。

東京 - 外からの目がもたらした勝利

FC東京を救った選手の筆頭は間違いなく高萩でしょう。
ハイプレスで襲い掛かるレイソルのプレッシャーをいなすように、ワンタッチでシンプルにボールを動かしながら、効果的にピッチの幅を取る動きを繰り返し、レイソルDFラインの裏を狙うパスを繰り出すなどここ数試合で見られない「繋ぎを担う」動きをFC東京のピッチ内で展開してくれました。

スタッツだけを眺めると特段良い数値ではないのですが、このスタッツに表れないピッチを動き回る姿勢というのがこれまでの東京に不足していたものを与えてくれたと言えます。

 

高萩Heat Map

FC東京を救った選手の筆頭は間違いなく高萩でしょう。
ハイプレスで襲い掛かるレイソルのプレッシャーをいなすように、ワンタッチでシンプルにボールを動かしながら、効果的にピッチの幅を取る動きを繰り返し、レイソルDFラインの裏を狙うパスを繰り出すなどここ数試合で見られない「繋ぎを担う」動きをFC東京のピッチ内で展開してくれました。

スタッツだけを眺めると特段良い数値ではないのですが、このスタッツに表れないピッチを動き回る姿勢というのがこれまでの東京に不足していたものを与えてくれたと言えます。

図=ヒートマップ

本人も試合後のインタビューで語っている通り、

“勝つことができていない中でリーグ戦の出場機会が少なかったので外から客観的にチームの試合を見ていた”

という外からチームが苦しい状況を見て、自分ならどう動くのか、ということを考えそれを実践できるというベテランらしい動きがこの試合の好結果に結びついたと言えます。

その上にこれまでに指摘されていたDFラインが下がる、という課題に関しても意識を高く持ち、常にDFの選手に声をかけていました。

後半反則でレイソルにFKを与えたシーンでも、

「おい!下がるな。さがるなよ!」

とDFの選手にかけた声がマイクに拾われていましたし、試合の最中でも首を振ってはDFに対して、前に前に、と手で示すシーンが何度も見られました。

外からサッカーを見たベテラン選手が窮状にあるチームを救う、というのはよく聞くストーリーでもありますが、代表、海外チームなどで経験を積んだベテランがこのタイミングで目に見えない形でチームを救ってくれたことは非常に価値が高いと思います。

この高萩の姿を受けて他の選手がどう振る舞うのか。

ピッチにいた選手は刺激を受けた部分も多いのではないか、と思います。

フィットし始めた中盤の底

前回投稿で橋本の後継としての青木獲得は間違いでない、ということを述べました。

この試合でも青木はその力量を見事に示していたと思います。

Wyscoutのスタッツ的にはチーム全体で150/269(勝率55.76%)のデュエルの内、約15%に及ぶ23回のデュエルで15回の勝率をあげています(ちなみに守備時のデュエルだけなら13回で77%の勝率)
チーム全体で言えば、高萩が38回(勝率34%)、安部28回(同50%)、アダイウトン24回(38%)に次ぐデュエル回数を考えると、その勝率の高さも出色です。

ボールリカバリーも森重(19)、渡辺(11)、小川(10)に次いで8と中盤の底としては十分な数字を示している事からも、目立たないところでしっかりと守備面で貢献してくれていることがわかります。
いよいよ東京の中盤の底を任せるに相応しい結果を出し始めています。
運動量豊富な安部とダブルボランチを組む形でのこの試合でしたが、相互に補い合うことで押されている時間帯もきっちりと守備面で安定をもたらしていました。

5連敗という闇の中にありましたが、あの惨敗であった鹿島でもデュエル勝率80%というパフォーマンスを出していた事からも、青木を中盤の底に固定する流れができたようです。

印象的に地味(失礼)な選手ではありますが、目立たずともきちんと結果を出す縁の下の力持ち、という意味でも貴重な選手がようやく本領発揮となったようです。

これから安定したパフォーマンスを出してくれることでしょう。

勝って兜の・・・

 

前半20分までの3得点で終わらずに4点目を取り、尚且つクリーンシートで終えられたというのは選手にとっても非常に自信になる勝利だったのではないかと思います。

ただ、気になるポイントがなかったわけではありません。

攻撃面では左サイド偏重になってしまっていたために、右サイドの田川、内田が守備的なプレーになってしまっていた点が非常に気になります。
全体的なバランスを取る、という意味では左偏重な分右は下がってバランスを取る、というのはわからないでもないですが、逆を言えば左を抑えられた時に右からどうやって崩していくのか、というアイディアが見られなかった点が今後の課題になるのではないかと思います。

終盤に中盤でボールを奪った内田がそのままゴール前に上がりシュートまで繋げたしシーンがありましたが、あのシーン自体は右サイドで崩したのではないため、この勝利を今後につなげる意味でも右からの攻撃の形成をどうするのかは注意していかなければならないポイントかと思います。

ちなみに追記するとすれば、22分に内田がパスをカットされた直後に自陣に向けて走り出す動きを見せた点も気になったポイントです。

3点を奪って優勢な状況ではありましたが、あの場面は内田がボールホルダーに対してプレッシャーをかけるべきだったと思います。

田川が内田に代わって右サイドバックのポジションに入っていた事からも、内田がプレッシャーをかけにいくというイメージを持たないと、右サイドだけが下がり気味になって相手の攻撃の起点にされてしまいます。

本職右サイドバックではないのでその点では仕方がないかな、という思いはあれども、攻撃的にプレッシャーを掛けにいけていた全体感の中では違和感のあった瞬間だったと思います。

全体的には柏ボールになるとDFからFWまでの3ラインが形成され、10人のピッチプレーヤーが一つの画面に収まるコンパクトさが見られたことは非常に良かったと思います。

一方でボールを奪われた瞬間は、まだまだ前線の選手がプレスを掛けに行く一方で、全体が下がり気味になってしまい全体が間延びしてしまうシーンが散見されました。

レイソルが試合を支配した20分間もそのような状況の繰り返しでしたので、奪われた瞬間にFWがプレスに入るのか、それとも1枚行かせてボールを追わせながら他は引くのか、など決め事をしていかないと上位チームと当たった時にそのポイントを容易に使われてしまうかと思います。

厳しい言い方をしてしまえば、レイソルの出来が良いとは言えなかった中でその弱点をついて早々に試合を決めたことは大きな評価ポイントですが、一方で戦術的には粗さが見られた試合でもありました。

この勝ちに甘んじることなく、更なる選手間コミュニケーションを重ねてチームとして上昇気流に乗ってもらえるように願っています。

FC東京の窮状を考えてみる2 ~補強策の成否について

前回投稿ポストFC東京の窮状を考えてみるがこんな大っぴらに宣伝もしてないBlogにも関わらず700を超えるページビューを頂きました。
そんな中、以下のようにTwitterにて@matsu さんよりご感想とご質問を頂きました。
@matsuさんのご了承を頂いた上で引用致します。

非常に多くの東京サポーターが感じている室屋、橋本の穴埋め、という問題について問われています。
他チームが良い補強をしている(ように見える)ということもあり、このようなご質問を頂いたと思いますが、このポイントを考察してみる貴重な機会になるとも思いましたので、僕なりにご回答というか、考えを述べさせて頂ければと思い予定外の第2弾投稿です。
※マリノスやフロンターレの補強戦略については長くなるので今回は省きます。

 

2020年夏を振り返る

まず、大前提として、日本代表までになった実力を持つ選手の穴埋めをすることは至難の業である、ということを我々も冷静に捉えないといけないと思います。
この手の大きな穴埋めを行うに当たっては、大きくは3つの対策があると思います。

  1. 相応の力量を持つであろう外国人選手を補強する
    • ただし、この場合は当該選手が日本やJリーグに馴染めるか、というリスクがある
  2. 相応の力量を持つ日本人選手を補強する
    • この場合は候補選手が他チームの主力であるため、簡単に交渉が進まない可能性が高い
  3.  いわゆる”下位互換”型の選手を獲得し、使いながらチーム力を相応のレベルまで上げていく
    • この場合、多くのケースでは即戦力新人補強が主体
      • 新人選手の獲得またはアカデミーからの昇格で賄う
    • ただ、サテライトリーグの終了やFC東京のJ3参加が終了してしまったことからも、若い選手をJ1の試合使いながら育てなければならないという難しさがある

この観点で考えると、橋本や室屋がJリーグシーズン途中での移籍であったことから考えると、上記1と2の補強というのは難しかったと思います。
またその背景には受け取る移籍金が相応でなかったことからも、適当な補強資金を投入することができなかったこともあり、補強を先送りして置かなければならなかった台所事情があったかと思います。
加えて予期しなかったコロナ禍であったことからも、取りうる策は3の一択であったと思います。

しかも先述の通りシーズン中であることからも現有戦力で賄うしかありません。
室屋の穴は、左サイドバックとして試合に出ていた中村穂高が主力となり、左の小川と共にサイドバックを構成しました。
そのバックアッパーとして中村拓海が左右を適宜担当する形式でなんとか事なきを得られたシーズンであったといえます。

橋本の穴が難しかったと言えます。
ここは後述をしますが、当時の戦力では若い品田や荒削りなシルバを使いながら育てるしかありませんでした。
ただし、この二人では勝負がかかったポイントで不安があったため、森重のアンカー起用という、ある意味で最終ラインの強度を下げるというリスクを取る奇策で乗り切りました。
この背景には森重の代役で起用したオマリが出色の出来を見せた、ということもありました。
こうしてみると、非常に幸運とも言える要素があったと今振り返ると思えます。

2021年本当に穴埋めはできていないのか

冒頭に頂いたコメントの中にもあったように、「橋本、室屋の穴埋めができていない」ということはネット上でも多く見られる意見です。
ではそう感じるのは何故でしょうか?
恐らくこう質問させていただくと、「チームのスカウティングが悪い」「他チームで控えにしかならない選手しか取れない強化部」などなどのご意見が出てくることと思います。

ここで冷静に考えてみようと思います。
補強した選手が退団した選手と相応の実力を持っている選手のようだ、ということが客観的に示されたとしたら、どんな風に思考が変わるでしょうか。
選手の評価というのは見ている我々ファンの印象で変わります。
では冷静に選手を評価する尺度があったら、さらにその印象も変わるのではないでしょうか。
そのために現在は多くのスカウティングツールがプロ向けに開発・提供されており、大半のプロチームはそれらを複数使用して選手を客観的に分析し、必要な補強策を検討しています。
プロが使うスカウトツールにどんなものがあるのか、は以下の記事を読んでいたくのが良いかと思います。

サッカー界もマッチングアプリの時代に? 名将ビエルサ率いるリーズが明かす移籍市場でのデジタル戦略とは (Number Web)

そこで今回は上記にも記載されているWyscoutのWriter Editionから選手の統計データを使って比較を行いました。

ちなみに、個人の趣味でやっている限りですので、係る費用も持ち出しです。
なので全てのサービスは契約できませんので、あくまでもWyscoutで限定して提供されるデータを使用している点はご了承ください(宝くじでも当たれば契約できるサービスは全て契約したい・・・)。

橋本の代わりは青木、が正しい

ではWyscoutのデータを使って橋本、青木、そして橋本退団後にアンカーポジションで起用されていたシルバを比較してみましょう。

とはいえ各選手のキャリアや出場試合レベルもまちまちのため、出来る限り均等に数値を比較できるように、プレーの正確性を示すプレーの成功率で比較をしましょう。

以下はプレーアクションを起こした結果の成功率を示すTotal Action、枠内シュート率、パス、ロングパス、クロス、ドリブルの成功率、デュエル及び空中戦の勝率、自陣でのボールロスト率、相手人内でのボール回収率といった一般的指標をレーダーチャートにしたものです。

Figure 1

上記を見ていただくと、橋本の数値を上回る結果を青木が出していることが分かります。
「いやいや、そう言っても橋本は海外の厳しい環境でやってるでしょ」というご意見もあるかと思いますが、橋本自身がロシアに行ってから各スタッツが大きく下がっていることはなく、むしろキャリア全体の数値を採用しているので、割合の少ないロシアの数値は全体に比して誤差程度です。

このダイアグラムから読み取れるのは、橋本と青木の数値は非常に似通っており、シルバは彼ら二人に比べると守備的MFに必須なデュエル能力で彼ら二人の後塵を拝すということが分かります。

では守備的なスタッツを比較するとどうでしょうか。

 

Figure 2

空中戦とボールロスト、リカバリーは先述の項目と同様ですが、ここでは守備時のデュエル勝率とスライディングタックル成功率を加えています。
ここでもやはり青木の出している結果は橋本と大きく変わりません。

Figure 3

最後にパスのスタッツ比較です。
橋本と青木で顕著に違うのは、ロングパスの成功率とペナルティエリアへのパス成功率です。

ここの選手が置かれている状況は様々ですが、抜けた穴を埋めるには同様の特性を持った選手を補強したい、と考えた時にはその選手同士の何らかのデータを比較し検討することが必要です。
ゲームのようにそれぞれの選手のスタミナやスピードが同じ基準で数値化されたものがない以上、パスなどの正確性から獲得を検討しているのは先に挙げた記事からもわかるかと思いますし、そのプロが使っているデータを利用して客観的に比較した結果がここまでのものです。

つまりは、選手個人の能力を推測するデータから判断すると、橋本の穴は青木で十分に埋められたことが分かります。

ただ難しいのは、データを取得するチーム=条件が全く異質なのでその変数を数値化できない限り正確な判断はできないでしょう。
けれども、それが出来たらどのチームも獲得移籍には失敗しません。
つまりは、その数値化できない変数があるからこそ、同様のスタッツを持ち、同様のプレーが期待できる選手が期待通りのプレーをできない、のはチーム戦術や起用法、チームに馴染めているか、などの要素によるものとも言えるでしょう。

言うなれば、この吉と出るか凶と出るか、が移籍の面白いところでもあります。

じゃあ室屋の穴はどうなのか

では全く同様の比較を、室屋、中村穂、中村拓でも行ってみました。
このケースではGeneral StatsとDefensive Statsのみを用いています。

Figure 4
Figure 5

どんな印象でしょうか。
僕個人は、サンプル数が少ない、という前提はありながらも、中村拓はよくやっているじゃないか、という印象を強く持ちました。
「拓海の守備は心許ない」という印象を多くの方がお持ちと思いますが、デュエルでは室屋と同等、守備面でのデュエルでは室屋を上回る数値であることからも、視覚で見る印象というのがどれだけデータと乖離があるのかがよくわかると思います。

ここでも青木の項目と同様に、数値化できない経験値やプレー環境というものはありながらも、穴埋めは十分にできるだけの能力を持った選手がいてくれることは分かるかと思います。

FC東京の補強策は的確

前項で見たように、データ(各々の選手の環境因子は勘案していないが)を比較してみると、橋本の穴は青木、室屋の穴は二人の中村でうめられている、つまりはFC東京の補強策は的確である、というのが僕の結論です。

ではなぜ彼らがいた時と同じような印象を持った試合が見られないのでしょうか?
ここが重要なポイントだと思います。
データに写らない部分から考えると以下のように思います。

    • 中村帆の怪我、中村拓の経験不足と体力面の問題
      • ハードな環境の連続に耐えうるフィジカルを有していない
    • 青木のコンディション?チームへの馴染み度合い?

 原因は外からでは分かりませんが、外野言えることは「我慢して使って馴染ませる」ということがシーズン開幕後から必要だったのではないか、ということです。
推測されるものは以下の通りです。

  • せっかく青木を補強したが「慣れていない」ということで森重アンカー策に拘泥してしまった。
    • 攻撃面では森重の展開力が活きる場面が多かったが、アジリティが不足する分を周囲がカバーせざるを得ず、DFラインにギャップが生じてしまうことがあった。
  • 結果全体がアンバランスになり、失点が重なったことでDFラインが下がり全体が間延びする結果に
  • 室屋の穴は中村帆の成長で埋まったとところに、不運にも彼の怪我となってしまった。
  • 中村拓を起用したものの、フロンターレ戦での失点に繋がるミスがあり、以来一番手としての選択肢から外れてしまった。
    • 若い選手を起用すれば、経験不足からミスはつきもの。確かにフロンターレ戦でのミスは反撃の狼煙を上げたチームに水を刺した格好になった。
  • 結果、本職ではない選手起用も含めて右サイドの守備が固定されずさらに不安定な状態に陥っている。

確かに、中村拓は幾つか決定的なミスを犯してしまったのは確かです。
でもミスをしない選手はいません。
データから見ても、室屋や穂高とは違う特徴を持っており、経験値の割には高いレートを出しています。
ミスをしたからといってメンバーから外してしまっては、選手が持っている良さを失って「ミスをしないためのプレー」に終始してしまい、結局成長のスピードを止めることになってしまうかもしれません。
チーム全体が上手く行っていれば、DFラインおよび中盤で中村拓を助けてあげよう、という機運も生まれやすいかもしれませんが、悪い状況ではそういった選手同士の「前向きな」フォローへの意識は低下するものです。

チーム全体を見れば、フロンターレ戦の敗戦までは良くはないものの、悪い流れではなかっただけに、同じメンバーでもう一度組み直せばよかったとというのが僕の思いです。
しかしながら「負けたからいじろう」と起用する選手を変えてしまったことで、「下手を打つと出してもらえない」という意識を選手に与えてしまった可能性も否定できません。

苦しい日程の中で、選手に疲労が出ることは考慮の上でしょう。
しかしながら若くフィジカル面もまだ十分ではないながらも、変えの効かない存在となってしまった中村拓をミスという結果で変えてしまった事からチーム全体のバランスが崩れたと思います。

せっかく良い選手、的確な補強を行ったとしても、一つの悪手で局面は大きく変わってしまい、それを挽回しようとするが故にさらに悪手を重ねる。
ビジネスでも良くある営業最悪の局面だったり、ボードゲームや将棋、果てはギャンブルまでこのようなことは起こり得ます。
選手の問題、というよりも前回も述べた通り、ベンチの問題が大きいと考えます。

どう仕切り直すのか

ここからどう立て直すのが良いのでしょうか。
現状ではウヴィニのコンディションが想像以上に良いこともあり、次節からは3-5-2でスタートする可能性が高いかもしれません。

しかし、チームとして(比較的)成熟度が高い(であろう)4-3-3で再び仕切り直すというのも一つの選択肢であると思います。
要は見失った時こそ基本に立ち返ろうよ、という事です。
今季のFC東京の基本は、あくまでも4-3-3で縦に速いサッカーをする、ということではなかったでしょうか。

基本に立ち返りながらも、ここまで見てきたように、アンカーに適任の青木、右サイドバックには中村拓を起用することで肚を決めて、今できる本来あるべき姿に向かってチーム全体で動くべきでしょう。

その上でインサイドハーフにはボールを動かせる三田と運動量でDFのカバーまで出来る安部を。
運動量とアジリティに優れる三田や阿部が中村拓を守備面で助けてあげることもできると思います。

前線はトップにディエゴ。
その近くでトップ下〜サイドまでを動くレアンドロか田川を置き、ウィングは個で局面を打開できる推進力アダイウトン。

永井は怪我の影響か少々鋭さを書いている感じもあるため、スーパーサブとして起用する方が良いでしょうし、東は一度外から試合を見せた方が良いと思います。
プレーを見ていると、どうも客観的に現在の問題を認識できていないように思えます。
元来サッカー観は鋭いものを持っていますし、それが故に気の利いたスペースを埋めたりというプレーができる選手です。

ここで「センターバックは質が高いのでとにかくゴール前に鍵をかけよう」と安易に3-5-2にして「負けないサッカー」を選択すると、ここまでやってきたことを全て否定することになりかねません。

開幕からここまでの中で、この5連敗で新たなチーム作りに失敗してしまっただけに、立て直しは少なくとも残っている土台を活かして、もう一度開幕からやり直すつもりで戦うべきだと思います。

FC東京の窮状を考えてみる

様々に指摘されている事項がなぜ修正できないの?

川崎戦のレビューを最後になかなかサイト更新をできない状況にいましたが、試合については全て観ています。
このリーグ5連敗もしっかりと自分の目で確認をしていますし、各種媒体でどのようにその敗戦が評されているのかも可能な限り目を通しています。

いつもは試合のレビューですが、今回はリーグ5連敗の背景にどんなことがあるのか、を自分なりに、4種とはいえどもコーチ陣を従え監督をしている身も踏まえて考えてみました。

今回の考察は「どうして各種媒体=外から見ている人間が一様に指摘しているポイントをチームが修正できないのか」という僕に内在する疑問に端を発っしたものです。
また、チームの選手起用などについて思う部分は除しています。
6連敗したら怒りに任せてぶちまけるかも・・・。
そんなことにならないように祈ってます。

縦長なチームバランス

各種媒体やファンの評価として言われている連敗の要因は「全体の陣形が縦に長い」ということです。
この点は僕自身も感じる部分です。
とはいえ、縦長になるとどんなデメリットがあるのか、について論じられたものを目にしたことがないので、自身の整理の意味も含めてまとめてみます。

縦に長い、というのは一般的にはDFからFWまでの距離が長いということです。
これによって、守備時にMFとDFが形成する4-4の2ラインでボールを絡め取ったとしてもトップまでの距離がないため、ボールホルダーはどうしてもボールの出しどころを探してしまうことになります。
その間に相手のカウンタープレスが開始され、苦し紛れなパスになり再び自陣でボールを奪われる結果となってしまい、どうしても相手陣内に押し込めない結果となります。
こういった問題はどんなカテゴリーのチームでも起こるものです。

ではこの解決はどうすべきかのでしょうか。
答えとしては非常にシンプルで、前線(FW)と守備陣(最終ライン)の距離を40m前後(いわゆるコンパクトな陣形)でプレー出来るようにトレーニングをすることです(ただでさえ長いのがさらに長くなるので、トレーニングメソッドについてはここでは言及しません)。

ただし、この場合いわゆる「ファストブレイク」と称されたカウンターを繰り出すには、前線の選手が走る距離がこれまでに以上に長くなり、相手DFが深いポジショニングを取っている場合は数的優位を築けないというリスクが立ちはだかりますが、長中距離のパスに比べると短距離のパスの方が成功率が高いことを考えれば、カウンターができない理由にはなりません。

縦長が修正できないのはなぜか

修正ポイントを指摘することは非常に簡単なのですが、実際にその修正を施すためには、意外と骨が折れるものです。
なぜならば縦長になってしまう理由には、それぞれの選手の意識が介在するからです。
では、その選手の意識を考えてみます。

守備面においては以下のような負の連鎖が起こっていると思います。

  • 守備が硬い、という印象のFC東京が失点を重ねているがために、守備陣は失点をしないこと、が第一義になっている
  • それが故にラインを上げることよりもしっかりとリトリートしてペナルティエリア前で最終ラインを形成することが最初の意識になる
  • 失点をしないことが優先されるだけに、ゴール前を強固にすることに意識が行っているため、相手サイドのボールに対してのチャレンジがサイドバックまたはサイドハーフでの対応となっており、DF陣全体がボールサイドにスライドして守備ができていない
  • 全体がスライドして守備をしていないため、いわゆる「ボールの逆サイドを捨てる守備」ができず、守備の横の幅も自ずと長くなってしまう
  • 守備幅も広がることで、ピッチ中央部からサイドにあるボール自体に意識が行ってしまい、センタリングに対するペナルティエリア内の相手選手マークが甘くなりズレて失点機会に繋がる
  • せっかくボールを奪ってもトップへのロングパスが通せずにセカンドボールも相手に吸収されてしまい、シュートまでに繋がらないので、ショートパスを繋ぐ意識が高くなり、さらにラインを押し上げられなくなる

守備陣が失点をしないように、しないように、と意識をすればするほどこのような負の連鎖が生じて全体のバランスが崩れることはよくみられます。
負けが込んでいるチームでは尚更です。

では、最前線であるFWや中盤の意識はどうなのでしょうか。

  • 「ファストブレイク」の要である最前線からのプレスは実践しなければならない
  • しかし、先述の通り守備陣のラインを上げる意識が希薄になっているがために、最前線がプレスをしてパスコースを限定しても相手中盤選手がフリーでボールを受けやすい状況となっている=いわゆるFWとMFでのプレスに連動性がなくなっている
  • 連動すべき中盤の選手も守備意識を持つメンバーと、FWのプレスに追従するメンバーとが存在してしまうため、どうしても中盤にスペースが出来てしまう。
  • そのため、相手選手が最前線のプレスを掻い潜るだけの余裕があるため、ポゼッションを求めないFC東京のサッカーとしては、さらにポゼッションが低下して苦しい状況に陥る

といったことが起こってしまいます。
つまりは、個々のポジションにおいて個々に割り当てられているタスクをしっかりとこなしてはいるものの、それぞれの意識差によって全体として連動できないという事態陥ります。
この事態によって、それぞれのポジションでは「余計なタスク」が増えることになります。

  • サイドバックの場合
    •  守備から攻撃までの長い距離を走り、攻守にサポートをすることがタスク
    • 非コンパクトが故に最前線までの距離が長くなれば、必然的に走る距離は長くなる
    • その長い距離をスプリントする、ということは体力的な消耗が激しくなる
    • その上後方からのロングパスが相手守備陣に引っかかると、前に出ては戻る、という動きが増えてしまう
  • FWの場合
    • も守備陣がボールを奪った瞬間に動き出しを行い、攻撃の起点を作ることがタスクになっている
    • ロングパスが届かなければ、距離的に一番近いFWの選手がプレスバックしに戻らなければならない
    • そのため、本来のポジションから離れることを強制され、ボールを奪えた時にパサーからすると「会いたい時にあなたはいない」状態に
  • 中盤の場合
    • 守→攻への展開と前への推進力 がタスク
    • 最前線と最後尾のギャップが広がると、そのギャップを埋める中盤の運動量も飛躍的に増加する
    • 間延びしているために自分達も適切なポジションを取れずセカンドボールを拾えないがために、ボールを奪うことに必定以上の体力を使ってしまう。
    • 守備に追われるために精神的にも守備面のタスクが占められてしまい、ボール奪取しても過度に攻撃への意識が働き無理なパスをトライしてしまう

こんな感じで各々のタスクに不要なタスクが付加されてしまい、本質的なタスクをこなすよりも目の前のタスクをこなすことに懸命になり過ぎてしまう、という状況に陥っているように捉えています。

現状では解決できないのでは?

と、ここまでみてきたように、メディアやファンが見ても明らかな縦長な状況についての解決策は何か、というと、それを修正するように選手の思考を解きほぐして、戦術トレーニングを積み重ねるしかありません。

ただ、それがこの5連敗の中で全く改善されない、むしろ酷くなっているということから考えると、「そういうトレーニングをしていない」というのが現実的な想像なんだと思います。
なぜできないのでしょうか?
恐らく、原因であるポイントを指摘し、トレーニングに落とし込めるコーチングスタッフの不足に行き着くかと思います。

なぜそういう考えに至るのか、というと、監督の特性というかキャラクターに起因する部分があると思います。
世界各国、色んなカテゴリーで監督という人はいますが、大別すると根元は以下の2パターンになるかと思います。

  • 自身で戦術に基づいたトレーニングを仕切り、選手の動きにも細かく注文をつけるタイプ
    • 過去のFC東京の監督で言えば大熊、城福、フィッカデンティ
  • 大まかに目指すサッカーとコンセプトを定義し、具体的なトレーニングはコーチングスタッフに(ある程度)任せるタイプ
    • 過去の監督では原、ガーロ、ポポヴィッチ(ポポヴィッチは両者の特性を持ち合わせているタイプかもしれませんが)

前者は選手とも直接的にコミュニケーションを取るタイプで、良いプレー、悪いプレーも選手に直接伝えるタイプです。
つまりは選手との距離感は割と近いタイプでしょう。

後者は選手との間に一定の距離を置いて、コーチングスタッフを通して自分の考えをを伝えてもらうタイプと言えます。

僕自身のイメージとしてですが、長谷川監督が後者のタイプと捉えると、必要になるのは選手と監督の間を取り持つコーチングスタッフだと思います。

カップ戦を勝った2020シーズンは安間、長澤コーチの両コーチがその役目を担っていたと思われます。
特にFC東京での経歴が長く、選手からの尊敬を集めていた長澤コーチは、練習後も選手と語り合う姿が見えたりと、選手に対してのアドバイザーとしての役目を担っていたように思います。
悪いプレーや失敗があればその原因を選手に説明し、居残りでトレーニングに付き合うなどのケアを行なうことで、選手個々の意識とプレーレベルをチームに必要なレベルに上げることに大きく貢献したと思います。

そういった、いわゆる「監督との間の緩衝材」となるコーチがいなくなった2021は、恐らく、恐らくですが、選手が監督に対して直接意見を言い難い環境になっているのではないかと思わざるを得ません。

そう考えると今チームに必要な要素は

  • 選手のコンディションや意見について、上司である監督にしっかりと状況を報告し、対策を進言できるだけのサッカー観を持っている
      • いわゆる上司である監督の視点を持って実直に討議ができる軍師タイプ(原監督にとっての倉又コーチ)

 この軍師的存在がいない、というのは、試合と並行してYoutubeでキャストされている青赤Parkからも感じるところです。
当該プログラムでは羽生、石川の両氏もチームがうまくいっていない原因を直接的に言及しています。
フロントスタッフでもありますが、選手経験値も高い二人が言及しているにも関わらず、その指摘ポイントが数試合にわたって改善されていない、ということは監督までその意見が届いていないのでは?と思わざるを思えません。
よしんば届いていたにしても、長谷川監督自身が抱え込んでしまう形になり、結果的に判断を下すに際して孤立してしまっているのではないかとも言えます(いわゆる「管理職の孤独」という問題)

こう考えると、必要なことは監督交代という短絡的な対処ではなく、選手と監督の間にある見えない溝を解消する策だけでチームが立て直せるようにも思います。

もっと細かいことを言えば、5人となったブラジル人選手と日本人選手の関係性についても同様にパイプ役が不在なのでは、と思います。

解決に向けた想い〜監督交代よりも

ここまで述べてきたように、とにかく選手に対して問題を落とし込んで伝えられ、のかつ選手の声を拾えるコーチの採用または登用が必要になると思います。
現状のスタッフからすると、佐藤由紀彦コーチがその担い手なのかもしれませんが、イメージ含みで適任と思う方を想起すると、選手からも尊敬を集めてており、実績も兼ね備え、率直に意見を言える主将タイプかと思います。

そう考えると、適任は羽生氏でしょう。
忖度なく率直に意見を言う性格、オシムに鍛えられた戦術眼、代表での経験値は個々の選手に対しても、長谷川監督に対しても十分に説得力があります。

次点を挙げるなら、中村忠U18監督です。
長谷川監督とは6つ離れてはいるが東京というチームでの長きに渡る指導経験、及び自身の手で育てた選手も多いことからトップチーム選手の兄貴分になれると思います。加えて、DF出身でもあるので守備面での改善を的確に捉えて上申できる可能性もあるでしょう。

現状での監督交代のリスクを考えると、長谷川監督で乗り切るしかない
通常のシーズンであれば、監督交代という策に対して切れるカードはいくつもあるかもしれません。
しかし、コロナ禍のシーズン途中という状況を踏まえると、国内指導者に目を向けるしかないのが現状です。
その背景を考えると、現状の在野の指導者で長谷川監督以上の経歴を持った指導者はいません。
頼りのカードとして使ってきた大熊氏もFC東京から離れて久しいですし、過去の経緯を考えると再び戻ってくれる可能性は低いと思います。
現状を変えるカードは戦術変更もありますが、まずはチームの状況を変えられて、かつ失われているピースを埋められるカードを切ることでしょう。

また、プレー面を含めて批判を全身で受けることが多いですが、主将である東が今この状況でこそ主将としてどう振る舞えるのか、も試されているタイミングでもあります。
気づいていること、わかっていること、に対してFC東京というチーム全体が取り組んでいけるのか、が問われています。

とはいえ、今我々ファン・サポーターができることはこの球場から一日も早く脱してくれることしかありません。
やまない雨はない。
そう信じて諦めずに頑張りましょう。

Match Review 2021.4.11 FC東京 vs 川崎フロンターレ

過程が示した結果

札幌戦のレビューを書かないとな、と思っているうちに時間は過ぎていき、業務やコーチ業で疲弊してあっという間にフロンターレ戦当日を迎えました。
と同時に札幌戦のレビューは放棄する、という安易な選択肢を選んだわけですが、「別にレビュー書いて給料もらっているわけでもなし。」と思っているわけではなく、単に1日が48時間あったらいいよね、ぐらいに思っているワーカホリックです。

さて、あらゆるところで触れられていることですので今更言及する必要もないのですが、FC東京が勝てなかった理由はその過程が全てであり、川崎の勝因はその誤ったFC東京の過程を見逃すことなく楽に自分達のペースを維持できたことでしょう。
そのくらいFC東京のプロセスは酷かったです。
「結果良ければプロセスが悪くてもOK」であったのはシーズン序盤によく言われる言葉ですが、シーズン中盤に突入するこの時期にあのプロセスでは先が思いやられる、というのが正直な感想です。
一方で自分を宥めているのはその「シーズン序盤」という言葉です。
まだ9節。今シーズンは残り29試合あるわけです。
4分の1が終わったこのタイミングを序盤とするのか中盤とするのか、これによって見え方は大きく変わってくると思います。

川崎 - 当たり前のことを当たり前に

フロンターレのポゼッションを観ていると、前夜に観たマンチェスターシティーのボール回しを彷彿とさせるな、と思いました。
いみじくもその試合は(僕が応援する)リーズ・ユナイテッドとの試合であり、試合内容もボールを持って相手の隙を狙っていくシティと、とにかく耐えて一旦マイボールにするとポゼッションをよりも前に進むことを選択するリーズ、とこのJリーグの試合を予習したかのような内容でした。
さらに言えば、その試合の解説は中村憲剛氏でしたが、氏が注目していたのはシティの動きであり、ペップ・グアルディオラの一挙手一投足でした。
このことからも、川崎の元選手としてもシティのサッカーというのは強く意識しているということがよく分かりましたし、解説の端々からフロンターレが参考としているであろうポイントがよく分かりました。

「いやいや、流石にシティに比べたらやり方も全然違うでしょ。」
という意見が大半を占めるかもしれませんが、まあ落ち着きなさいな、と。
両者に共通するのはインサイドキックを主体とした近距離の早いパス、ボールを浮かせない正確なトラップ、2タッチ目でのパスとそのスピード、その受け手の動き、この当たり前のことを当たり前にやっていること、そしてその連続性が大きな共通項です。
小難しい5レーン理論やら、カウンタープレスやらという言葉を使う以前の部分が高い次元で実現されていることが両者の共通点です。
(だからってシティに川崎が勝てるとは言ってませんよ。個の力量が大きく違うことはいうまでもありません。)

これは風間前監督がとにかく拘った部分であり、その後を受けた鬼木監督もその部分を決して緩めることなく続けているため、他チームに比べてもパススピードとそれを受けるトラップのミスでのボールロストが極めて少ないのでしょう。
そのため相手チームは川崎がボールを保持するとしっかりブロックを作ってミスが起こるのを待つのか、激しくプレスを賭けに行くことを選択するしかありません。
すでにこの時点で川崎の術中に嵌ってしまっているわけですから、川崎が主導権を握り続ける試合になってしまうことは仕方のないことです。

そしてもう一つ川崎とシティの共通点は、ボールを失った時のトランジションスピードの速さです。
失った瞬間から周囲の選手まで含めてボールを奪うことに意識がいっていることが観ていても分かります。
その際、後方との間に距離・スペースが出来てしまう事も両者の共通点で、観ている側からすればそのスペースを使えば反撃のチャンスと思いがちですが、ボールホルダーからすればプレッシャーが速過ぎてそのスペースを使うまでの判断に至れません。
川崎とシティ、両チームはその弱点を補う意味でも奪われたその瞬間を非常に大切にしているのだと思います。

逆を言えば、ここが川崎を攻略する唯一のポイントと言えるでしょう。
相手チームはボールを奪い、川崎にプレッシャーをかけられる状況であっても、しっかりとボールを動かすことが必要になってきます。
ボールホルダーに対してしっかりと2つ以上のパスコースを作る、それがダメならボールホルダーがプレッシャーを1枚剥がして素早く縦パスに移行する。
高いレベルでの守備者のポジティブ・トランジションが必要となりますが、高い次元で完成された川崎の戦術を破る第一歩でしょう。

東京 - 曖昧さがもたらした失点の山

前述した数少ない川崎の弱点を突く、という意味ではFC東京は決して対応できていなかったわけではありません。
19分のディエゴ・オリヴェイラのバックヘッド、1点目、2点目、全てにおいて起点となっていたのはフロンターレからボールを奪った後に出来たFWとMFの間のスペースです。
ここからスペースに動いた前線の選手にパスを出したことで、ゴール前にボールを入れることができました。
なので、この日のFC東京は決してフロンターレの攻略法を実践できていなかったわけではありません。
問題はフロンターレに最もボールを持たせてはいけない、ピッチを縦に三分割した際の中央部でのミスに尽きます。
1失点目は安易な縦パスを洗濯したことでボールを失い、シンプルに繋がれたもの。
2失点目も同様で、受け手が攻守の切り替えについていけていない=チームとしての統率が取れていない状態でのパスミス。
3失点目は言わずもがなで、自陣ボール前での繋ぎのボールを相手が狙っているにも関わらずトラップをピッチ中央に向けて行い奪われました。
4失点目は疲労が出始めるタイミングで全員がボールウォッチャーになってしまっていたことなので、上記の3失点とは意を異にします。

これらの失点は全て「ミス」です。自滅と言っても過言はないでしょう。
こういったミスが生じることは無論選手個々の問題もあるでしょう。
しかし、それ以上に選手が変わるとこれまでの試合で出来ていたことが出来なくなる、という課題が見えます。
これを言い換えると、チーム全体で「FC東京のサッカー」というものが共有認識になっていない、という異に繋がると思います。
これまでの試合では、森重がアンカーポジションに入ることで、ビルドアップの際には森重を経由して幅を取ったり、状況に応じてバックパスからサイドを変えるパスを選択したりと、確実なビルドアップを行いながら、効果的に長いボールを入れて相手DFラインを押し下げるシーンが見られました。
しかし、森重がセンターバックに入ったこの試合では、そのビルドアップのポイントが最終ラインに入ってしまっているため、青木を使うのか安部を使うのかが不明確でした。
その一方でDFラインの選手はこれまでの流れで一列前にいるべき森重を探しますので、パスミスをしたり苦し紛れなロングパスを出しては川崎にボールを渡してしまっていました。
後半3-5-2にしてワイドに選手が広がることでボールの出し先が見つかったので、「3-5-2の方が良い」という声がネット上でも多く見られますが、僕自身は3-5-2は結果論でしかないと思います。
4-4-2でも4-1-2-3であっても、先にあげた川崎の弱点を突くことは出来ますし、システム的には川崎が採用する4-3-3に対して3-5-2は5バック的に臨まないと噛み合いません。
大事なことは青木と安部を起用したこの日の布陣において、中盤のビルドアップを誰が担うのか、もしくは中盤を廃して高い位置に一気ボールを送る、何がトランジションの時点での狙いだったのかが不明確であったことでしょう。

非常に曖昧な状態で試合に入ってしまったが故に、前半20分という早い段階で選手にもスタジアムにも敗色が浮き出てしまったとも言えると思います。

たらればを言えるなら、どうしてセンターバックにオマリじゃなかったのか。
首位チームを追い込むために必要だったのが森重アンカーではなかったのか・・・。

外からダイアゴナルに・・・

札幌戦のレビューを考えていた際に、ディエゴ神の他に非常に印象的だった得点機としてピックアップしようと思っていたのが、21分の中村拓のクロスをアダイウトンがヘディングシュートしたシーンでした。
これまではクロスを入れる際にどうしても田川とディエゴの2枚、もしくは2列目からペナルティに入ってくる選手の3枚という、点と直線的な動きに合わせる動きが多かった印象です。
しかしこのシーンでは一番遠いところからダイアゴナル(斜め)にゴール前に入ってきたアダイウトンが合わせて得点機を作りました。

川崎戦でも2得点はボールから遠いサイドのアダイウトン、内田が斜めにゴール前に入ってきてのものでした。
斜めに入る、というのはパスする側からしても面でパスを出すポイントを探すことが出来ます。
縦に入ってくるとどうしても点を探す必要がある異に比べるとパサーにとっても非常に優しい動きになります。
一方で守備側からするとボールと選手という2点を監視したいのに面で守る必要性が出てしまうので、ダイアゴナルに入られるのは非常に厄介です。

イメージがつかない方は、机の上でスーパーボールでもビー玉でも(そんなもん令和の時代に家にあるか知りませんが)右手の指先におき、左手の指をボールに対して縦に動かすピンポイントで弾くのと、遠いところから斜めに入ってくる左手の指に向かって弾くのと、どちらが合わせやすいのかを試していただくと印象が大きく違うと思います。

攻撃においてはこれまでもディエゴや田川がダイアゴナルに入ることでゴールを決めたシーンがありました。
この形にワイドの選手であるアダイウトンや内田が加わったことは、FC東京の得点機を増やす意味でもあります。
この試合で連発したミスはミスとして受け止めざるを得ません。
中村拓に関しては、反撃の狼煙をあげたチームを奈落の底に落とすようなミスをしてしまったのは確かです。
ただ、怪我人続出の中で中村拓には経験を積み「強く」なってもらう必要があります。
それこそがチームとしての基盤であり、底上げに繋がります。
個人的には次の試合、中村拓を外すようなことがあれば長谷川監督を見る目が変わるでしょう。
このレビューでも、長谷川監督を批判するような言葉が増えてしまうかもしれません・・・。

まだ序盤、と考えれば、中村拓はまだまだここからではないでしょうか。
岡崎も同様です。

Match Review 2021.4.3 名古屋グランパス vs FC東京

相似か相同か

3月下旬から4月初旬にかけてのプライベートな忙しさが久々に帰ってきました。
仕事が年度末(弊社は4月末)なのもそうですが、チームの解団式そして新たな選手の体験練習と、コーチ陣も新しい環境に向けた高揚感と寂寥感に浸る時期でもあります。
そんな状況でもあるので結果試合のチェックは4月4日(日)深夜近くになってしまいました。

言い訳はさておき、非常に締まった良い内容のゲームだったと思います。
0-0という結果であるからこそ「良い内容」という言葉でもありますが、双方共にいんてんしてぃ(強度)が高く集中力も最後まで途切れることのない試合でした。

この両チームの試合を見るにあたっては、どうあってもマッシモ・フィッカデンティ名古屋監督の存在を無視することはできないでしょう。
すでにFC東京を離れてから5年が経とうとしていますが、FC東京の礎を築いた監督と言っても差し支えはないでしょう。
「攻撃」というキーワードを中心にしてきたFC東京において、「守備」に重きを置いた戦術をすり込んだ、という意味ではフィッカデンティと共にした2年間はチームにとってもサポーターにとっても大事な時間であったと思います。
一方で名古屋にとっても、トヨタ自動車の資金力を背景にして強力な補強作を繰り返しながらもなかなか結果が出なかった近年において、しっかりと守備から組み立てるサッカーによって優勝を争うまでに古豪を復活させた手腕は確かなもので、この試合を迎えるまでは6連勝という期待の持てるシーズン序盤となっています。

「高い位置から相手にプレッシャーをかけ速い攻撃を繰り広げる。」という似た形でがっぷり四つに組んだ試合。
これは相似なのか、それとも相同なのか。
双方が今展開するサッカーの起源がフィッカデンティという一人の指揮官によるものなのか、それともこの5年で辿った別々の道によるものなのか。
そんなことを考えると、酒が止まらない夜となりました。

名古屋 - 手数の少なさをどう補うのか

今シーズン名古屋の試合は開幕の福岡、4節の神戸との2試合を観て、この試合が3試合目でした。
守備に関しては彼の愛弟子とも言える丸山と米本を中心として、しっかりと整備をされた、いわゆる「背骨の通った」チームであるというのが強い印象です。
チームというのはGK〜センターバック〜センターハーフ〜フォワード、1本の筋がしっかりとしている必要がある、というのがフィッカデンティの哲学であると考えています。
僕自身も何がしかのチームを構成する際も、この「背筋」をどうやって通すのかを重視することもあり、フィッカデンティのチーム作りというのは非常に興味深く観ています。
チームバランスという意味では、川崎に対抗し得るチームだと思っています。

蛇足ですが、この「背筋」がチームに通っているのかどうか、というポイントを考えて色々なチームw見てみると、わかることが多くあります。
バルセロナ、マンチェスター・シティ、バイエルン、PSG、ユベントスなど、チャンピオンズリーグなど世界を席巻するチームは必ずと言っていいほど、この背筋がしっかりとしています。
直近ではポルトがユベントスに勝利をしましたが、やはりDFからFWまでしっかりと筋が通ったチーム作りがなされています。
ボランチが大事、と言われる現代サッカーですが、GK、CB、CH、FWに強力かつ献身性の高い選手が揃っており、縦の連動が成されているチームは簡単に負けない、というのが印象です。

で、名古屋の話に戻ります。
CB、CH(ボランチ)は代表クラスの強力な選手を並べていますので、人間で言えば言わば腰から下の足元がしっかりしていると言えます。
3試合観てきて、名古屋にとってはあとは背中から首、頭に繋がるポイントをどう定めるのか、ではないかと思います。

一例を挙げれば、この試合でもマテウスの献身性は非常に高かったと思います。
ピッチの場所にこだわらずに、左右、真ん中と激しく動き回り守備も厭いません。
しかし、このマテウスの動きというのは、人間の体で言えば肩や腕の動きとも言えます。
そのための頸椎、つまりは頭や肩をつなぐ重要な骨になる選手はいったい誰なのか。
ここが判然としないのが名古屋、という印象です。
本来であればシャビエルがその役割であると思いますが、ここを抑えられてしまうとこの試合のようにマテウスという強力な腕力も発揮できずに終わってしまいます。
そのためにも「頭」の役割にもなる強力なFW、過去を振り返っても仕方がないですがジョーのような相手DFにとって脅威になり得る選手がいた方が良いように思います。

恐らくは名古屋フロントとしては柿谷にその役目を担って欲しいのかもしれません。
が、柿谷は純粋な9番というよりは8番タイプの選手です。
高いテクニックで相手を釣り出したり、スペースに飛び出てゴールを取るタイプの選手で、年間で20点取れるようなタイプではありません。
どちらかといえば左右のワイドに置いて自由にシャビエル、マテウスとポジションを入れ替えさせた方が効果を発揮する「腕」のタイプです。
そのため、マテウスが動き回りボールを保持しても、最後の局面での「なんか1枚足りないぞ」という間を拭い切れませんでした。

ここまで長々と訳のわからない生物学的サッカー論を打(ぶ)ってきましたが、名古屋はもう1枚「頭」ができれば手数の少なさが解消されるのではないかと思います。
この試合でもフィッカデンティは縦への速さや個で仕掛けられる選手を入れて局面を変えようとしましたが、最終的には力量としては少々不足する山崎に「頭」としての役割を担うより仕方がなくなった感があります。

ランゲラック〜丸山/中谷〜米本/稲垣〜シャビエルと強固な背筋を持つだけに、川崎に対抗するには一番手になり得るだけの戦力を持ったチームです。
柿谷をどう使うのか、どう手数を増やすのか。
夏場の補強次第ではありますが、そのタイミングまで攻撃面をどうやって担保していくのか。
このポイントが名古屋にとっては課題になりそうに思います。

東京 - 縦横斜め

背筋が通る、ということいえばFC東京のシーズン序盤はなかなかその背筋が見えなかったと言えます。
その要因としてはこれまでのレビューでも触れてきたように、3月いっぱいぐらいを目処に選手の見極めを行いローテーションを多用してきたから、というのもあるでしょう。
その過程でようやくこの試合でFC東京の一本筋が見えたと言っても良いでしょう。

児玉ー渡辺ー森重ーディエゴというラインが出来上がり、それぞれが調子を上げてくることで守備から攻撃への流れや力強さが垣間見えた試合だったと思います。

序盤のチャンスではディエゴとアダイウトンの縦のワンツーからディエゴがペナルティに侵入し、最後には田川のシュートまで行きつきました。
27分にも小川を起点にディエゴを経由して1タッチ、2タッチでの早いパス回しから小川のシュートに至っています。
36分の三田がシュートしたシーンは、肉体で言えば肩から腕とも言えるアダイウトン、田川、三田でシュートまで持っていっています。

得点には至りませんでしたが、このような2列目の選手まで連動してシュートまで繋がる動きをどれだけ増やせるのかがこれからのFC東京の課題と言えるでしょう。
例えて言えば、上記に挙げた前半3度の頭、肩、腕が連携したシュートチャンスまでに至る動きが倍出てくれば自ずとゴールに繋がるのではないかと思います。
個人的には観ていて最も面白かった45分間がこの名古屋線の前半でした。

縦の一本筋が出来上がってきたFC東京ですが、後は両腕、両足とも言えるサイドやインサイドハーフの構成をどうしていくのか、が悩ましいところです。
ボールを持った時の推進力、という意味ではここまで出色の出来を見せている三田は当確でしょう。
日本代表入りで奮起が見られる小川も同様です。
三田とのバランスでいえばスペースを埋めてリスクマネージメントに長ける東も重要なピースですが、本来彼に求められる前に向かうという点ではまだまだ本領が発揮されておらず、謹慎明けの安部という手もあるかもしれません。
両ワイドについてはレアンドロの状況が気になりますし、頭角を表しつつあった渡邊凌の長期離脱も痛いところです。
肩の状況が気になる永井も長い時間使えるのかが疑問、と考えると好調の田川を軸に起用機会も多くフィジカル的にも充足しているアダイウトンで両翼をになっていく、ことでしばらくメンバー起用がなされると思います。
サイドバックが中村帆の怪我で少々不安が残りますが、その点は中村拓が軸になり得ますので、新たな選手起用も含めたチームの底上げを行っていくものと思われます。

いずれにしても、ほぼ固まったメンバーの中で変化をつけられるような選手起用がどうできるのか、は変わらず今後の注目点になると思います。
この試合前半45分はこれまでの試合の中でも最も迫力のある攻撃を見せた一方で、後半は交代選手を送り込むまでは手詰まり感が出てしまったのは明らかです。
永井やレアンドロは然り、内田など若い力まで含めた交代選手が、後半の流れを変えるピースとしてどう一本筋、幹の枝葉となり花を咲かせるのかが非常に重要な要素になってきます。
次節からはこの交代策にも注目をして見ていくと面白いかと思います。

新守護神誕生なるか

2選手のプロトコル違反に関してはサポーターの間でも色々な意見があるでしょうし、僕自身も思うところはありますがここでは控えておきます。
いずれにせよ、その謹慎期間にGKに関しては児玉がポジションを得て非常に良いプレーを見せているのは事実です。
昨シーズンは林の牙城もあり仙台戦1試合の出場に留まりましたが、そのパフォーマンスも決して良いと言えるものではなかったので、今回も個人的には心配をしていました。
しかし、カップ戦、リーグ戦2試合ずつ計4試合で3つのクリーンシートはGKとして十分な結果を出しています。
これまでローテーションによりチームが定まらなかったことを割り引いたとしても、ライバルである波多野が5試合クリーンシートなし、という結果と比較しても今後もしばらくは児玉がゴールマウスを守ることになると思います。

この日も何気ないプレーでしたが、40分のCKからマテウスがシュートを狙ったシーンでも安易に飛び出さずしっかりとボールの軌道を見極めて弾き出したシーンや、70分のクロスへの対応でもボールが蹴られるまでしっかりとステップを踏んで準備して反応した点など、準備を怠らない姿勢が見て取れました。
試合中も非常に細かくポジションを修正していることからも、ゲームの展開を読んでそれに応じたポジションを取ることを意識していることが分かります。

僕自身はGKについては指導においても門外漢なので細かいところは分かりませんが、それでもこういった児玉が見せる小さいことの積み重ねがクリーンシートに繋がっているということは感じ取れます。
今週の札幌、川崎との2試合でどういった結果を出すのか、によって林が帰ってくる場所もない、という状況にも繋がるかもしれません。

プロトコル違反というきっかけではありましたが、代役がしっかりと主役級の活躍をしていることはチームにとって本当に心強い状況です。
今週の2試合、注目ポイントは児玉といっても良いかもしれません。

たった1つしかないポジション。今週の出来如何では新守護神誕生と言える瞬間に出会えるかもしれません。

Match Review 2021.3.21 FC東京 vs ベガルタ仙台

模索の続く両チーム

春の嵐の影響で朝から激しい頭痛に襲われました。
薬を飲み布団に横たわるだけの日曜日。
眠りに落ちて目が覚めたら16:11。「ああ、試合は終わってしまったな。」と思いながら再び眠りに落ちて、試合の結果を確認するよりも前にFC東京の2選手が内規を破って会食に参加したという残念なニュースを知りました。
これについては特に論じるつもりもありませんが、ただただ残念でした。

そして改めて22日の終業後にDAZNで観戦。
ベストメンバーを模索しながら2勝2敗1引分のFC東京、同様にメンバーを変えながら初勝利を求める1分3敗の仙台。
違う立場で各々のあり方を模索するこの試合、結果は分かりながらもどんな違いが出るのか、楽しみに90分間を観ました。

仙台 - 手をつけるべきは切り替えの意識か

手倉森監督が復帰した仙台。
3連敗と非常に厳しい状況でこの試合を迎え、「もう一度開幕を迎えるんだ」とコメントした通りなんとか巻き返しをしたい、という意識は見えました。序盤の失点を避けるために非常にコンパクトな陣形を保ったことがこの意識を表していたと思いますし、局地的に非常に強度の高い守備をすることからもその意識は手倉森さんらしいサッカーだな、と感じるものでした。

ただ、仙台の試合は開幕戦の広島戦しか観ていないのですが、どうにも守備から攻撃への切り替えの意識が統一されていないように感じられてしかたありません。
この試合でもDFラインでFC東京のボールを奪うシーンがあったとしても、守備と中盤の間に距離があるシーンが多く見られましたし、逆に攻撃から守備に転換する際も、中盤2枚が前線に取り残されてしまい、DFラインとの間のスペースをFC東京にいいように使われてしまっていました。
60分に真瀬がシュート打ったシーンのように、ボールを握れている際は全体がコンパクトになっていて、3人目の動きも多いので非常にダイナミックな攻撃を展開できますが、カウンターに対しての備えと自分達のカウンターチャンスでの切り替えの意識がツーテンポぐらい遅い感じがします。
特にこの試合のように3-4-2-1というか5-4-1のような3センターバック方式を採用する場合は、切り替えのタイミングで中盤だけでなく最終ラインもしっかりと上がって行かないと、どうしても引きこもり方の守備にならざるを得ず、バイタルを自由にさせてしまいます。

65分にDFでビルドアップしているシーンが非常に分かりやすいのですが、東京がボールを奪ってカウンターを仕掛けたところを上手く奪いましたが、DFラインでボールを回している時に戻ってきている中盤は1枚だけです。
結局その中盤1枚へのパスコースを防がれて苦し紛れにロングパスを出して、再び東京にカウンターを与えてしまったのは、全体の切り替えの意識とハードワークがまだまだ浸透していない証ではないかとも思えてしまいます。

仙台も選手を入れ替えながらなんとか自分達のサッカーを形作ろうと模索していると思います。
先にも述べたように、自分達のボールになった時の攻撃の形はやりたい事が見えるサッカーですので、後は攻守の切り替えのところでテンションが上がってコンパクトな陣形を保ち続けられるようになれば初勝利は遠くないように思えます。

東京 - 田川の意識の変化

今日は珍しく一人の選手にフォーカスして見たいと思います。

先制された直後の26分に田川が決めたゴールの形は先にハイライトで観ていました。
アタッキングサードでボールを持ったらゴールに対して最短コースを進む。
右サイドから中にカットインする形でドリブルしてからの見事なゴールでした。

このシーンの残像が残っている状態で試合を観てみると、これまでの試合とは違った田川の意識の変化に気づきます。

そのきっかけは5分の段階でも観ることができます。
このシーンは渡辺が中盤で奪ったボールをドリブルしファールをもらいました。
得点シーンでは森重とのワンツーで相手中盤の裏に飛び出すと、5分と同様にゴール前に入っていき左足を一閃しました。

この二つのシーンを踏まえると、FC東京に不足していた動きを田川が意識していることがよく分かります。
これまでの5試合では田川に限らずFC東京の選手はボールを受けると縦に縦にの意識が非常に強く、それがために相手DFが中心を固めてしまってクロスを入れられない、というシーンが続出していました。
しかし、この田川の動きというのは非常にDFからすると厄介で、斜め(ダイアゴナル)に入ってこられると、一発で取りに行って中にカットインされる可能性もありますし、左利きの田川が相手と考えると、DFから見ると奥の足でボールを持たれていますので、出した足が田川の右足に引っかかる可能性が高いので容易にはボールを取りにいけません。
プレスバックする中盤の選手にとっては、田川の後ろからボールを取りに行く形になりますので、これもまた簡単に足を出してFKを与えるわけにはいきません。
得点シーンにおいては5分のプレーが呼び水となっていることもあり、仙台のDFからすると対処を迷って田川に時間を与えてしまったことは悔やんでも悔やみきれないでしょう。

得点シーン直後の30分には、ディエゴ・オリベイラにボールが入った瞬間に、田川が追い越して真っ直ぐペナルティに入っていくことで、仙台DFはラインを下げざるを得ず、その隙に右サイドを上がった中村帆にボールが渡りチャンスを迎えました。
試合直後に田川が見せた動きが仙台DFに強い印象を与え、その後の同点弾はもちろんのこと、東京が得た数々のチャンスにおいてしっかりと効いていました。

このような田川の動きは、センターに入ったディエゴが仙台センターバックの間にポジショニングを取ることで仙台のDFと駆け引きをしてくれることで出来るギャップを突く、という新たな攻撃の形にも繋がります。
あまり目立たないプレーでしたが、40分に田川がバイタルでボールを受けてDFラインの裏に飛び出た三田にパスを出したシーンも、真ん中でディエゴが存在感を示しているがために田川が少しポジションを落としたところでプレーできるがために観られたシーンでした。

ディエゴと田川。お互いが付かず離れず、守備陣にとっては非常に嫌な距離感で質の違ったプレーをすることで、仙台守備陣を撹乱した良い連携が観られたことはこの試合での大きな収穫だったと思います。
レアンドロの状態が分かりませんが、田川はこの試合でポジションをしっかりと掴んだと思います。

東京はほぼメンバーが固まったか

よもやよもやのチーム・プロトコル違反で2選手が出場できなかったこの試合が怪我の功名となるか、ここまでの試合の中で最も良いサッカーを展開していたと思います。
前節のレビュー最後で、森重アンカーだと中盤は安部が当確としましたが、この試合で見られた三田と東のコンビが望外によかったと思います。
ボールを運ぶ事ができる三田の相手はボールを奪う力のある安部、と思いましたが、三田が動いて出来るスペースのマネージメントを東がきちんとこなしていましたし、その分そのスペースで東がボールを受けると、効果的に深い位置でボールを収めていました。
このコンビネーションに森重が絡むことで、仙台の攻撃を早い段階で潰せていたとおもいます。

攻撃陣も非常に良い形になってきたと思います。
この試合では田川、ディエゴが決めましたが、途中出場渡邊凌もいきな絶好機を迎えましたし、非常に良い動き出しとどのスペースに入るべきか、が良く見える選手だということを改めて示しました。
繰り返しとなりますが、レアンドロの状況がわからないこともありますが、ディエゴを真ん中に両ワイドを田川と渡邊凌でも面白いと思いますし、その交代でアダイウトン、永井というオプションもありでしょう。
ただ、渡邊凌の怪我はちょっと心配です・・・。

守備面ではセットプレーの守備が、と思いますが、そこは割と簡単に修正が効くポイントなので今回は言及せずにおきましょう。

双方模索が続くチーム同士の戦いでしたが、仙台はもう少し時間がかかりそうな印象を受けました。
一方の東京は恐らくはもうスタメン含めてゲームプランの基礎が出来たように感じます。

いずれにせよ、リーグ戦としては1週間以上時間が開く名古屋戦がそのお披露目であろう、という僕の考えは変えずにおきたいと思います。