Match Review 2023.1.5 Leeds United vs West Ham United

失った勝利

前節好調ニューカッスルを前に必死の守備が身を結び勝点1を手にいれたリーズ。
今節は昨シーズンとは打って変わって開幕来不調が続くウェストハムをホームに迎えてのゲーム。
下位からの勝点3奪取が何よりも期待されたところだが、結果は2−2の2戦連続ドロー。
正直に言ってしまえば、リーズサイドから見るとこの試合は勝点2を失った、と言っても差し支えのない試合だった。
後述するが、先制点及び勝ち越し点の取られ方があまりにも残念だからだ。
一方のハマーズにとっては今後の残留争いに基調となるであろう勝点1。
5連敗で迎えたこの試合で、勝点1を拾えたことは相当大きかっただろう。

怪我と移籍交渉の難航に苦しむハマーズ

昨シーズンのウェストハムの成功は、何よりもモイーズ監督が標榜する堅守速攻型のサッカーがハマったことにある。
ライス、ソーチェクの汗をかくことを厭わない守備的に強い中盤に、センターバックにはドーソンとズマもしくはディオップと体を張れるフィジカルに強い選手がいた。
そこで守ったボールを、フォルナルス、昨シーズンブレークしたボーウェンのスピードあるサイドが運んでいく。
最前線ではマイケル・アントニオがそのフィジカルの強さを存分に発揮してボールを守って後続の上がりを待つ時間を作ることができていた。

しかし、今シーズンはその安定の方程式が崩れている。
最前線はサッスオーロから加入したスカマッカの起用でさらなる飛躍を担ったが、最前線で幅広く張ってフィジカルで勝負するアントニオに比較すると、スカマッカは中盤まで降りてきてボールに触るタイプのため、ボールの保持ポイントが低くなってしまっている。

スカマッカとアントニオのヒートマップ比較

FWでのボールの収まりの不安定さをアントニオの交代投入で改善を図るが、それ以前に今シーズンリーグ18試合の内14試合で先制点を与えてしまっている守備の崩壊が大きい。

一つはボールの跳ね返しの部分で大きな役割を担っていたDFラインの中核ドーソンが開幕から7試合、今シーズン計10試合使えていない事。
ディオップをフルハムに放出してレンヌから獲得したアグエルドが怪我で全く機能できないこと。
ズマも怪我がちで稼働率が良いとは言えず、そのセンターバックの惨状を右サイドバックのジョンソンや左サイドバックのクレスウェルで埋めてみたり、PSGから獲得したケーラーを左サイドバックで使ってみたりと、とにかくDFラインのラインアップが安定しない。
これにより守備はガタガタの状況が続いてしまっている。

この守備状況をなんとか改善しようとこの冬の移籍市場で懸命にセンターバックの補強を目指しているようだが、残留争いに巻き込まれたプレミアリーグのチームに加入する選手は限られる。
選択肢を考えると、CLで既に敗戦しているチームでかつプレミアリーグよりもプレー及び給与水準が落ち、なおかつビッグクラブと競合しない、というかなりの難易度になってくる。

12月にサンパウロから若いルイゾンを獲得したものの、20歳のブラジル人がいきなりプレミアで救世主となることも難しい。
ドーソンが復帰から万全になりつつある今、あと1枚確実に稼働でき、かつロングボール配球が可能なセンターバックを獲得できれば、なんとかなる可能性は高い。

相変わらずな右サイドバックの問題

ハマーズの項目で全く戦術的なことに触れなかったが、それは冒頭にも述べたようにリーズの失点があまりにも酷かったためだ。
まず1失点目は、ボールが落ち着かない状況で右サイドバックのエイリングが前に比重をかけたことで、案の定裏をスカマッカに綺麗に取られて、そこから楽にセンタリング。
ストライクがボーウェンを引っ掛けてしまいPK。

毎度毎度当Blogでも述べているが、この右サイドがエイリングであろうが、クリステンセンであろうが、同じように簡単に裏を取られることがあまりにも多すぎる。
無論これは両選手のポジショニングの悪さに起因するものだが、もう少し言えば最前線でボールが落ち着かないために、前にかけた比重を後ろに戻さねばならない状況になっている、とも言える。

最前線の観点で言えば、ロドリゴはシュートとボールの持ち方は上手いが、ボールを収めるという意味ではバンフォードに劣る。
バンフォードの懐の深さがあれば、右サイドバックが上がろうとするところを前線で時間を作れるし、下がるにしても1秒か2秒の時間はつくってくれる。
しかしながら、ロドリゴは頑張っているが、その懐の深さがない。
アーロンソンは前を向いてなんぼの選手なので、ワンタッチで相手のプレスを剥がせればいいが、相手に研究されて2枚でプレッシャーをかけられて満足にボールを持てなくなっている。

前節の際にも言ったが、右サイドを右サイドバックとウィングの2枚で作っていくのであれば、少なくともDFライン(ストライク・クーパー・コッホ)はもっと右サイドにスライドしてそのリスクをマネージしなければならない。
もっと言えば、エイリングの裏を取られた際にコッホがフォルナルスについて行ってしまい、そのポジションを離れてしまったこともこのシーンの不味さに繋がっている。
この右サイドの課題は縦のパスのみならず、逆サイドのサイドチェンジでピンチに陥ることもしばしばにも関わらず、18試合を紹介して尚修正されないのは大きな問題であり、勝点を積み上げられない要因だと思われる。

2失点目は言わずもがな。
不用意なワンタッチのバックパスを掻っ攫われての失点。
誰にもミスはあるし、ミスの無いフットボールはあり得ない。
アーロンソンはここから多くを学んだと思うが、この失点の仕方もがっかり感が大きく、ハマーズの力量でやられたとは思えない。

美しさを取り戻しつつある攻撃陣

悲観的なことばかり言っても仕方ないので攻撃に目を移せば、試合を重ねるごとにニョントが良くなっている。
先制点のシーンでもスローインからロドリゴが繋げたボールを右サイドで受けて中央のスペースに運びながら、サマーヴィルの上がりを待ってパス。
サマーヴィルが縦にドリブルして作った時間で裏のスペースに出てワンタッチでゴールを陥れた。
起点はスローインだったが、しっかりとスローインの際にボールが入るロドリゴに寄って行ってボールを受け、瞬時に空いたバイタルを使って攻撃を構成しつつも、DFラインの裏を取る動きは19歳の選手とは思えない動きとしか言いようがない。

ロドリゴの同点ゴールも美しかった。

これも起点はスローインだが、アダムスが中央のプレッシャーの少ない状況でボール持って時間を作る間にハリソンがバイタルのスペースに移動。
ボールを受けたハリソンは前を向きながらワンタッチで相手を交わして、ツータッチ目で斜めにペナルティエリアに入るロドリゴの足元にパス。
ワンタッチで縦の関係になった相手センターバックの間を抜けたロドリゴはツータッチ目で左足を一閃。

1点目も2点目も、こういったワンタッチ、ツータッチで相手のDFの間を抜ける攻撃ができるようになってくれば、攻撃面は心配なくなる。
攻撃陣は若手を中心に美しい攻撃が出来る素地があることがこの試合でも分かったので、今後の試合ではこの練度を高めて行って欲しい。

ありがとうクリヒ

この試合を最後に、プレミア昇格からこの日までチームを支えてくれたマテウシュ・クリヒがリーズを退団した。
2017年にオランダのトウェンテから加入したものの、半ば使い物にならないと再びオランダのユトレヒトにローン移籍させられ、イングランドでのキャリアに暗雲もあっただろう。
しかし、2018年にビエルサが就任すると、その運動量とデュエルで瞬く間にチームの中心となった。
それから昇格。
プレミアの力量には足りなかったかもしれないが、それでも交代で入ると変わらぬ運動量と暑苦しいまでの熱量と、そして前に前にと向けるパスで局面を変えるために尽力してくれた。

語り始めるとキリがない。
ただ、世界のリーズサポーター、特に我々日本人にはクリヒの献身性は心に響くものがあった。
パブロ・エルナンデス、カルヴィン・フィリップスと共に、リーズ再復活の道筋を作ってくれたレジェンドの一人であることは間違いない。

これからはMLSのDCユナイテッドへと旅立つ。
MLSはApple TVで観れるようになるそうで(MLS Passが幾らになるかは分からないが)、間違いなくMLSでもチームの中心としてファンの心を掴むであろうクリヒの活躍を見続けていきたい。

本当にありがとう。クリヒ。
Dziękuję bardzo, Klich.

Match Review 2023.1.1 Newcastle United vs Leeds United

袂を分つ双子の兄弟

新年明けましておめでとうございます。
また最近当ブログも頑張って記事投稿をするようになりましたが、今年はきちんと定常的に、自分の身丈にあった無理のない形で投稿をしていきたいと思います。

さて、本題ですが、天皇杯の決勝が元日に行われなくなって2年。
サッカーファンの元日はプレミアリーグが担うようになってきました(多分)。
故あって国立競技場で12月31日の日中を過ごし、1日14キロも歩いて疲労困憊の状況で迎えた新年最初のサッカー観戦は、楽しみにしていたニューカッスルvsリーズ。

異論はあるでしょうが、個人的にはこの2チームはなんとも言えない味わいを持った「双子」のようなチームだと感じていました。
歴史的にも長きに渡りイングランドサッカーの中心であり、共に相手チームが戦うのを嫌がるほどの熱いホームサポーターとスタジアムがあり、それでもプレミアリーグでは残留ラインから中位のシーズンが続く。
そんな状況でも決してサポーターは離れる事なく、我がチームへの声援をやめない。
リーズが長期の間2部にいたことを別とさせてもらうならば、歴史的に見ても非常に似た背景を持つ両チーム。

その双子のようなチームも、2021年にニューカッスルがサウジアラビア系ファンドのPIFに買収されて以来、袂を分かち始めました。

的確な補強が身を結ぶニューカッスル

これまでの移籍市場においては、いわゆるビッグマネーを背景としたオーナーが誕生すると、いきなりとんでもない大目玉の選手獲得が期待されてきました。
しかし、ニューカッスルの場合は豊富な資金を戦略的に使って補強に向けた打ち手を打っていると言えます。
PIF買収以降の加入選手は以下の通りです(Transfermarktより)

移籍金については、当該選手の当時の市場価値を遥かに上回る金額を支払っているのは確かですが、その一方でどういったチームを構成していきたいのかが的確にわかります。
2021/22シーズンは、ゲームを作り上げるための中盤にビッグクラブも注目していたブルーノ・ギマランイスを移籍金で圧倒して獲得。
同時にアトレティコ・マドリーで絶対的な存在となっていたキーラン・トリッピアーを当時の移籍金約19億円+ボーナスと格安の移籍金で獲得。
その他の選手についても語り出すと項目に終わりがないが、獲得した選手それぞれからもこれはチームとしてどのようなチームを作り上げていくのか、それにあたって短期/中期/長期でどのような選手獲得をしていくのかが非常に明確に分かります。

この狙いと結果の連動に関しては、非常に興味深いので別で記事を書くことにしたいと思うが、この2年弱で大きく変わったのがポゼッションが20/21→21/22→22/23の19節終了時点まで38.84%→41.85%→50.15%(各90分平均/プレミアリーグのみ)と大きく向上しています。

またこの試合においては、後述のLeedsの項でも触れるがパス数が405本と全シーズンのプレミアリーグ自チーム平均309.11を100近く超えています。
このことからも新生ニューカッスルが狙うサッカーは明らかなもので、この冬も含めてよりパス志向のサッカーに取り組んでいくことになると思われます。
マンチェスターシティを凌駕する金満チームでありながら、シティ同様に世界トップクラスかつ自チームのコンセプトに合う選手を獲得していきながらどうチームを組み立てるのか、が非常に楽しみなチームであり、それに十分応えてくれる試合内容でした。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方のリーズはといえば、前節マンチェスターシティ戦から大きな改善があったというわけでもなかったというのが印象でした。
相手がニューカッスルということもあり、シティに比べればこの力はまだ落ちる部分もあるため、最後の最後の場面でなんとか耐え凌ぐことができていました。
それがこの0−0という結果、つまりは勝点1に繋がったわけですが、全体的に左右のサイドバックが上がった裏を中長距離のパスで取られてピンチになる場面が多数あり、この観点は昨シーズン終盤の残留争い時点から改善された印象がありません。

もちろん自身がポゼッションしている際にラインを高く設定して、相手ゴールに迫力を持って迫っていくサッカーは、可能性を感じることが多く観ていても楽しいと感じています。
しかし、相手ゴール前まで迫っても、シュート数は8本で枠内が1本、そこに至るまでの相手ゴールに迫るまでのProgressive Passの成功率は64%と、ここ数試合大きく改善していません。
またこの試合では全96回のボールロストにおいて、中盤でのロストが約半数の43回と、せっかく守備陣が奮闘して守り切ってもそのボールを繋ぎきれていないことがはっきりと分かります。

実際にプレーの中でも、中盤での繋ぎの場面でボールをつなげることができず、前半でフォーショーをロカに交代させて中盤でのパス向上を目指しました。
そして、この交代によって中盤での失地回復の兆しが見えたことは、ニューカッスルに攻撃を受ける際に許すパス数を示す数値のPPDAが改善していることもこの交代によって示されています。

このことからも、中盤でロカ、アダムスのどちらかが欠けても、中盤のバランスが崩れてしまうことは前節、今節で改めて痛感することになったリーズの課題でしょう。

Newcastle vs LeedsにおけるLeedsのPPDA推移

飛車角落ちの状況をどう補うのか

前節のレビューでは、DFラインと中盤に課題と述べました。
DFラインについては、この冬の移籍市場でザルツブルグからクリステンセンやアーロンソンに次いでマキシミリアン・ウーバーを獲得しました。
これにより左サイドで奮闘していたストライクが本来のセンターバック、場合によっては中盤の底を担う余地ができましたので、コッホとストライクというセンターバックコンビの計算が立つようになりました。
またウーバーはセンターバックとしてもプレーができる選手ですので、コッホとウーバーのドイツ語圏のセンターバックコンビでストライクを左サイドバックにすることで、右サイドバックのクリステンセンが持つ前への力を活かすために、攻撃時はストライク-ウーバー-コッホでの3バックにすることも、先述したサイドバックの裏を取られることへのリスク回避策にもなります。
さらにはこの場合、中盤のアダムスやロカを必要以上にDFラインに近い場所でプレーさせなくて良い、というメリットにもつながります。

その一方で、アダムスとロカいずれかの飛車角落ちの状況になった場合の備えについてはまだまだリスクが高いと思います。
この冬の移籍市場のニュースも、攻撃的な選手かサイドバックの名前が相変わらず多く、中盤の選手で噂があるのはスイスのルツェルンの若手アルドン・ヤシャリ程度であるのが少々不安です。
そのヤシャリはスコットランドのセルティックも興味を惹いているという報道もありますし、クリヒの移籍も変わらず噂されているため、中盤での繋ぎが出来て汗もかける選手の補強はこの冬必達の目標と言っていいでしょう。

もう少し攻撃で可能性のある場面が増えてくれれば、課題を覆い尽くすポジティブな材料も出せるかと思いますが、この2節で見た飛車角落ちの現状が改善されなければ、昨シーズン最後のようなアップダウンの激しいサポーター感情に巻き込まれるのではないかと、かなり心配になってしまった年末年始の2試合でした。