Match Review 2023.1.5 Leeds United vs West Ham United

失った勝利

前節好調ニューカッスルを前に必死の守備が身を結び勝点1を手にいれたリーズ。
今節は昨シーズンとは打って変わって開幕来不調が続くウェストハムをホームに迎えてのゲーム。
下位からの勝点3奪取が何よりも期待されたところだが、結果は2−2の2戦連続ドロー。
正直に言ってしまえば、リーズサイドから見るとこの試合は勝点2を失った、と言っても差し支えのない試合だった。
後述するが、先制点及び勝ち越し点の取られ方があまりにも残念だからだ。
一方のハマーズにとっては今後の残留争いに基調となるであろう勝点1。
5連敗で迎えたこの試合で、勝点1を拾えたことは相当大きかっただろう。

怪我と移籍交渉の難航に苦しむハマーズ

昨シーズンのウェストハムの成功は、何よりもモイーズ監督が標榜する堅守速攻型のサッカーがハマったことにある。
ライス、ソーチェクの汗をかくことを厭わない守備的に強い中盤に、センターバックにはドーソンとズマもしくはディオップと体を張れるフィジカルに強い選手がいた。
そこで守ったボールを、フォルナルス、昨シーズンブレークしたボーウェンのスピードあるサイドが運んでいく。
最前線ではマイケル・アントニオがそのフィジカルの強さを存分に発揮してボールを守って後続の上がりを待つ時間を作ることができていた。

しかし、今シーズンはその安定の方程式が崩れている。
最前線はサッスオーロから加入したスカマッカの起用でさらなる飛躍を担ったが、最前線で幅広く張ってフィジカルで勝負するアントニオに比較すると、スカマッカは中盤まで降りてきてボールに触るタイプのため、ボールの保持ポイントが低くなってしまっている。

スカマッカとアントニオのヒートマップ比較

FWでのボールの収まりの不安定さをアントニオの交代投入で改善を図るが、それ以前に今シーズンリーグ18試合の内14試合で先制点を与えてしまっている守備の崩壊が大きい。

一つはボールの跳ね返しの部分で大きな役割を担っていたDFラインの中核ドーソンが開幕から7試合、今シーズン計10試合使えていない事。
ディオップをフルハムに放出してレンヌから獲得したアグエルドが怪我で全く機能できないこと。
ズマも怪我がちで稼働率が良いとは言えず、そのセンターバックの惨状を右サイドバックのジョンソンや左サイドバックのクレスウェルで埋めてみたり、PSGから獲得したケーラーを左サイドバックで使ってみたりと、とにかくDFラインのラインアップが安定しない。
これにより守備はガタガタの状況が続いてしまっている。

この守備状況をなんとか改善しようとこの冬の移籍市場で懸命にセンターバックの補強を目指しているようだが、残留争いに巻き込まれたプレミアリーグのチームに加入する選手は限られる。
選択肢を考えると、CLで既に敗戦しているチームでかつプレミアリーグよりもプレー及び給与水準が落ち、なおかつビッグクラブと競合しない、というかなりの難易度になってくる。

12月にサンパウロから若いルイゾンを獲得したものの、20歳のブラジル人がいきなりプレミアで救世主となることも難しい。
ドーソンが復帰から万全になりつつある今、あと1枚確実に稼働でき、かつロングボール配球が可能なセンターバックを獲得できれば、なんとかなる可能性は高い。

相変わらずな右サイドバックの問題

ハマーズの項目で全く戦術的なことに触れなかったが、それは冒頭にも述べたようにリーズの失点があまりにも酷かったためだ。
まず1失点目は、ボールが落ち着かない状況で右サイドバックのエイリングが前に比重をかけたことで、案の定裏をスカマッカに綺麗に取られて、そこから楽にセンタリング。
ストライクがボーウェンを引っ掛けてしまいPK。

毎度毎度当Blogでも述べているが、この右サイドがエイリングであろうが、クリステンセンであろうが、同じように簡単に裏を取られることがあまりにも多すぎる。
無論これは両選手のポジショニングの悪さに起因するものだが、もう少し言えば最前線でボールが落ち着かないために、前にかけた比重を後ろに戻さねばならない状況になっている、とも言える。

最前線の観点で言えば、ロドリゴはシュートとボールの持ち方は上手いが、ボールを収めるという意味ではバンフォードに劣る。
バンフォードの懐の深さがあれば、右サイドバックが上がろうとするところを前線で時間を作れるし、下がるにしても1秒か2秒の時間はつくってくれる。
しかしながら、ロドリゴは頑張っているが、その懐の深さがない。
アーロンソンは前を向いてなんぼの選手なので、ワンタッチで相手のプレスを剥がせればいいが、相手に研究されて2枚でプレッシャーをかけられて満足にボールを持てなくなっている。

前節の際にも言ったが、右サイドを右サイドバックとウィングの2枚で作っていくのであれば、少なくともDFライン(ストライク・クーパー・コッホ)はもっと右サイドにスライドしてそのリスクをマネージしなければならない。
もっと言えば、エイリングの裏を取られた際にコッホがフォルナルスについて行ってしまい、そのポジションを離れてしまったこともこのシーンの不味さに繋がっている。
この右サイドの課題は縦のパスのみならず、逆サイドのサイドチェンジでピンチに陥ることもしばしばにも関わらず、18試合を紹介して尚修正されないのは大きな問題であり、勝点を積み上げられない要因だと思われる。

2失点目は言わずもがな。
不用意なワンタッチのバックパスを掻っ攫われての失点。
誰にもミスはあるし、ミスの無いフットボールはあり得ない。
アーロンソンはここから多くを学んだと思うが、この失点の仕方もがっかり感が大きく、ハマーズの力量でやられたとは思えない。

美しさを取り戻しつつある攻撃陣

悲観的なことばかり言っても仕方ないので攻撃に目を移せば、試合を重ねるごとにニョントが良くなっている。
先制点のシーンでもスローインからロドリゴが繋げたボールを右サイドで受けて中央のスペースに運びながら、サマーヴィルの上がりを待ってパス。
サマーヴィルが縦にドリブルして作った時間で裏のスペースに出てワンタッチでゴールを陥れた。
起点はスローインだったが、しっかりとスローインの際にボールが入るロドリゴに寄って行ってボールを受け、瞬時に空いたバイタルを使って攻撃を構成しつつも、DFラインの裏を取る動きは19歳の選手とは思えない動きとしか言いようがない。

ロドリゴの同点ゴールも美しかった。

これも起点はスローインだが、アダムスが中央のプレッシャーの少ない状況でボール持って時間を作る間にハリソンがバイタルのスペースに移動。
ボールを受けたハリソンは前を向きながらワンタッチで相手を交わして、ツータッチ目で斜めにペナルティエリアに入るロドリゴの足元にパス。
ワンタッチで縦の関係になった相手センターバックの間を抜けたロドリゴはツータッチ目で左足を一閃。

1点目も2点目も、こういったワンタッチ、ツータッチで相手のDFの間を抜ける攻撃ができるようになってくれば、攻撃面は心配なくなる。
攻撃陣は若手を中心に美しい攻撃が出来る素地があることがこの試合でも分かったので、今後の試合ではこの練度を高めて行って欲しい。

ありがとうクリヒ

この試合を最後に、プレミア昇格からこの日までチームを支えてくれたマテウシュ・クリヒがリーズを退団した。
2017年にオランダのトウェンテから加入したものの、半ば使い物にならないと再びオランダのユトレヒトにローン移籍させられ、イングランドでのキャリアに暗雲もあっただろう。
しかし、2018年にビエルサが就任すると、その運動量とデュエルで瞬く間にチームの中心となった。
それから昇格。
プレミアの力量には足りなかったかもしれないが、それでも交代で入ると変わらぬ運動量と暑苦しいまでの熱量と、そして前に前にと向けるパスで局面を変えるために尽力してくれた。

語り始めるとキリがない。
ただ、世界のリーズサポーター、特に我々日本人にはクリヒの献身性は心に響くものがあった。
パブロ・エルナンデス、カルヴィン・フィリップスと共に、リーズ再復活の道筋を作ってくれたレジェンドの一人であることは間違いない。

これからはMLSのDCユナイテッドへと旅立つ。
MLSはApple TVで観れるようになるそうで(MLS Passが幾らになるかは分からないが)、間違いなくMLSでもチームの中心としてファンの心を掴むであろうクリヒの活躍を見続けていきたい。

本当にありがとう。クリヒ。
Dziękuję bardzo, Klich.

Transfer Talk – 永遠の逸材 Lucas Lima

2014年から見続けた自称「リマウォッチャー」が思うこと

FC東京ファンが柏レイソルもしくはヴィッセル神戸と噂がある選手を語るな、と言われてしまうかも知れませんが、2014年からルーカス・リマという選手を注目して追いかけてきた身としては、今回の移籍の噂はサッカーファンとして奮い立つもの以外の何者でもありません。
そもそも僕とルーカス・リマという選手の出会いは2014年まで遡ります。
当時Football Managerというゲームに出会った僕は、当時のゲーム内のラツィオをどう立て直すかに必死でした。
そんな中でゲーム内で探し求めて出会ったのがリマでした。
以来、ルーカス・リマを現実でも追い続けてきました。

そのため今回投稿でも、実際にプロのスカウトも利用しているWyscoutを使用して、これまでのルーカス・リマのプレースタッツを用いてプレースタイルの想定をしていきたいと思います。

ルーカス・リマを巡る背景

少しだけ小難しい話から始めさせて頂きたい。
ルーカス・リマが生まれた年は1990年。そして彼の名が欧州マスコミの記事に乗り始めたのが2014年頃、つまりリマが24歳の頃からになります。
2014年は、リマ自身がインテルナシオナルからサントスに移籍したタイミングに当たります。
それまでインテルナシオナルの下部組織で育ちながらもトップチームでは出場機会が限られていたため、ローン移籍したスポルチ・レシフェで当確を表したことで、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったサントスのスカウトの目に止まり加入を果たしました。

当時既にリマは24歳。
24歳という年齢は移籍市場においては決して若くはなく、高額の移籍金を求めるなら圧倒的なパフォーマンスを試合で見せることができなければ「それなり」の扱いしかされないというのは、昨今のマーケットを見ていればご理解いただけるかと思います。
そん中で、当時のサントスの中心選手だったガンソ(2012年当時23歳でサンパウロ移籍)とネイマール(2013年当時21歳でバルセロナ移籍)というチームの中核を失ったままのサントスにとっては、インテルナシオナルでは主力として見られておらず、スポルチで躍動したリマは格好のターゲットでした。
同時に、ここから小難しい話になるのですが、当時のブラジル経済は以下のグラフの通り、下降の一途を辿っていました。
かつてBRICsと言われて世界恰好の投資市場と言われたブラジルですが、不安定な政権運営によりその投資マネーすら撤退してしまっていました。
その煽りは当たり前のようにサッカークラブも襲い、サントスも自前で育てた選手をとにかく可能な限り高値で売り抜けることで、チームの運営を賄うような状態でした。

ブラジルの経済成長率の推移

この状況が、リマの置かれた状況を難しくしてしまいました。
ガンソの後釜、ネイマールを輩出したサントスが見立てた逸材。
そして何よりもブラジル経済の大幅な後退による移籍金の下落。
ヨーロッパのチームは24歳という年齢ではあるものの即戦力としては計算できないリマを安く買い叩こうとし、サントスは必死でインテルナシオナルから買い取った逸材を高値で売り抜けようとする。
そんな鬩ぎ合いにリマは巻き込まれてしまった時代でした。

絶えぬ噂と現実のギャップ

もう少しだけリマの経歴背景の話をさせてください。
その後2015年あたりから、欧州への移籍の噂は絶えませんでした。
2015年にはエージェントがレアル・マドリードへの移籍を認めるという報が流れ、2016年には中国チームが高額の移籍金と年俸でオファーしたのを断ったとの報が流れ、果てはバルサが興味を惹いていたが本人はオファーを受けていないとの報まで

結局のところ、先に示したブラジル経済の後退による高額の移籍金を欲するサントスと、欲しいとは思えどもそこまで高額の移籍金を支払うほどまでの年齢と実力ではないという欧州チームの駆け引きが毎年のように成されたことで、リマ本人が欲してた欧州でプレーしたいという意思(先の中国チームオファーのリンク参照)が成就しなかったと言えます。

その後もクリスタルパレス、トリノなど、移籍の噂は絶えませんでした。
恐らくはサントスの思惑と、選手自身が望む環境、そして欧州チームの思惑、3つの要素がうまく噛み合わなかったのでしょう。
この噂と現実のギャップが彼をブラジルという土地に閉じ込めてしまっていたのではないか、というのがリマウォッチャーを自負する私の見立ててです。

ポジショニングとプレーの推移は?

前置きが異様に長くなりまして申し訳ありません。そのくらいルーカス・リマを追っていたと思って頂ければ・・・。

では本題に。ルーカス・リマとはどんな選手なのでしょうか。
スタッツを使って見ていきたいと思います。

攻撃的MF、ウイング、中盤の底も出来る、色々な憶測が飛んでいますが、スタッツから見ればどこでも出来てしまう、というのが正解です。
以下はWyscoutが示すリマのキャリア全般(Wyscoutが数字を取り始めた2015年から)でのヒートマップです。

ルーカス・リマのキャリアヒートマップ

では、年代別に分けて見ていきたいと思います。
所属チームの違いはありますが、2022年から2年おきに遡って、2022→2020→2018→2016と4年のヒートマップを以下に示して、プレーの推移を想像して見ましょう。

ルーカス・リマのHeat Map推移(2016〜2022まで2年毎)

推移を見ると、中盤の底をプレーするという印象に比べて、インサイドの位置でプレーしていることが多いことが分かります。
そして、歳を重ねる毎にそのポジショニングにおいてのボールタッチ数は少なくなっていると同時に、プレーエリアも狭くなってしまっていることが分かります。
一方で、キャリアを通していわゆるアタッキングサードでのプレーを好む(または求められてきた)選手であるということは事実です。

短くはない間リマを見てきた人間からすると、プレーエリアとボールタッチの濃淡は決して悪いことではなく、違う要因にもつながっていると思います。
ですので、次の項ではパス数と、Jリーグでは必須とされるディフェンシブな項目について見ていきたいと思います。

プレーの中身は?

ではまず、一般的なスタッツの推移から見ていきましょう。
もちろん2年毎ですし、その時々のチーム戦術における役割にも関連するので一概にスタッツだけでは選手の能力を判断できないことは前置きさせてください。

ルーカス・リマの90分平均Generalスタッツ(抜粋)

ゴール、アシスト数とも年々に減じています。
ただ、90分平均でいると枠内シュート数は1以上をキープしていますので、シュートは上手いことが分かります。
またパス成功率についても4期間平均でも79.55と80%近くをキープしていますので、アタッキングサードでかなりの確率で正確なパスを出せることは変わりがありません。
デュエル数とリカバリー率は年々減っていますが、勝率とリカバリー数は大きな変化がありませんので、守備もそれなりにすることが分かります。

それでは次に期待される攻撃的なスタッツを見ていきましょう。

ルーカス・リマ90分平均攻撃スタッツ推移

ここで見て取れるのは、ドリブルはあまりしないこと、ペナルティエリア内に入ってボールを触ることにプレーが変わっていることが分かります。
先に見た枠内シュート数が1本以上を維持し続けていること、アタッキングサードでのプレーが多いことを考えると、ペナルティエリアの奥に入るよりは、いわゆるペナ角と言われるペナルティエリアの角でボールを受けて、あわよくばゴールを狙うタイプの選手ということが読み解けます。

ではこの項目の最後にパスのスタッツを見ていきましょう。


ルーカス・リマ90分平均パススタッツ推移

パスに関するスタッツを見ていくと、2018年以降はスルーパスを狙うというよりはチャンスと見た時にだけ出していることが分かります。
また、ペナルティエリア内へのパス数がキャリアを重ねる毎に増えていることからも、効率的に相手ゴールを陥れるためにどうペナルティエリア内にパスを出すのか、をトライしていることが分かります。
ただ、逆の見方をするのであれば、このポイントは「打開できないからペナにパス出しておくか」というようにも見えてしまうことは確かです。

スタッツ的にも難しいですが、まとめていきたいと思います。

Jリーグでの適応は難しいのではないか

さて、ここまで見てきたことで、ルーカス・リマが今柏レイソルに、またはヴィッセル神戸に来たことをイメージしてみたい。
リマのプレーフィールドを考えると、恐らくは我々にとってのJリーグでの物差しはアンドレス・イニエスタと言っても良いかもしれない。
ただ、残念なことに、ここでイニエスタのスタッツを出すと話が長くなるので割愛するが、Jリーグに限って見てもイニエスタのスタッツは全てがリマを上回っている。
そして、イニエスタが2022シーズンだけを見ても左サイドを中心にボールタッチ数が多いことを考えても、イニエスタの後釜としての存在感をリマが出せるようには思えない。

アンドレス・イニエスタの2022シーズンヒートマップ

確かにルーカス・リマは過去に欧州も注目し、ブラジル代表で14試合を経験した大物ではある。
が、ここまでスタッツを見てきた中で、今の彼がどうかというと、Jリーグという特性、つまりはアジリティとデュエルを重視する環境、そしてそこを切り抜けるだけの日本人との違いを見せるには十分な選手とは思えない。

何度も言うように、短くはない時間、ルーカス・リマという選手に注目してきた自分からしても、今32歳というキャリアの終盤に差し掛かった選手が、ブラジルだけの経験でこの島国の地を踏んでも、結果を残せるようには思えない。

日本語で言うなら「ご縁」という言葉があるが、国の経済事情とクラブ間の思惑を背景にして、これまで欧州というご縁に恵まれなかったルーカス・リマがこの地に足を下ろすなら僕は注目して見たい。
が、今の日本は、Jリーグは右肩下がりの選手が簡単に成果を出せるリーグでもないことは確かだと思う。
僕にとってはご縁がなかった選手になるのではないか、と予測するが、この予測が違ったものであれば嬉しいという気持ちがあることも確かだ。

これは代表経験者であろうが、2部しか経験してない選手であろうが、皆に言えることだけど。

Match Review 2023.1.1 Newcastle United vs Leeds United

袂を分つ双子の兄弟

新年明けましておめでとうございます。
また最近当ブログも頑張って記事投稿をするようになりましたが、今年はきちんと定常的に、自分の身丈にあった無理のない形で投稿をしていきたいと思います。

さて、本題ですが、天皇杯の決勝が元日に行われなくなって2年。
サッカーファンの元日はプレミアリーグが担うようになってきました(多分)。
故あって国立競技場で12月31日の日中を過ごし、1日14キロも歩いて疲労困憊の状況で迎えた新年最初のサッカー観戦は、楽しみにしていたニューカッスルvsリーズ。

異論はあるでしょうが、個人的にはこの2チームはなんとも言えない味わいを持った「双子」のようなチームだと感じていました。
歴史的にも長きに渡りイングランドサッカーの中心であり、共に相手チームが戦うのを嫌がるほどの熱いホームサポーターとスタジアムがあり、それでもプレミアリーグでは残留ラインから中位のシーズンが続く。
そんな状況でも決してサポーターは離れる事なく、我がチームへの声援をやめない。
リーズが長期の間2部にいたことを別とさせてもらうならば、歴史的に見ても非常に似た背景を持つ両チーム。

その双子のようなチームも、2021年にニューカッスルがサウジアラビア系ファンドのPIFに買収されて以来、袂を分かち始めました。

的確な補強が身を結ぶニューカッスル

これまでの移籍市場においては、いわゆるビッグマネーを背景としたオーナーが誕生すると、いきなりとんでもない大目玉の選手獲得が期待されてきました。
しかし、ニューカッスルの場合は豊富な資金を戦略的に使って補強に向けた打ち手を打っていると言えます。
PIF買収以降の加入選手は以下の通りです(Transfermarktより)

移籍金については、当該選手の当時の市場価値を遥かに上回る金額を支払っているのは確かですが、その一方でどういったチームを構成していきたいのかが的確にわかります。
2021/22シーズンは、ゲームを作り上げるための中盤にビッグクラブも注目していたブルーノ・ギマランイスを移籍金で圧倒して獲得。
同時にアトレティコ・マドリーで絶対的な存在となっていたキーラン・トリッピアーを当時の移籍金約19億円+ボーナスと格安の移籍金で獲得。
その他の選手についても語り出すと項目に終わりがないが、獲得した選手それぞれからもこれはチームとしてどのようなチームを作り上げていくのか、それにあたって短期/中期/長期でどのような選手獲得をしていくのかが非常に明確に分かります。

この狙いと結果の連動に関しては、非常に興味深いので別で記事を書くことにしたいと思うが、この2年弱で大きく変わったのがポゼッションが20/21→21/22→22/23の19節終了時点まで38.84%→41.85%→50.15%(各90分平均/プレミアリーグのみ)と大きく向上しています。

またこの試合においては、後述のLeedsの項でも触れるがパス数が405本と全シーズンのプレミアリーグ自チーム平均309.11を100近く超えています。
このことからも新生ニューカッスルが狙うサッカーは明らかなもので、この冬も含めてよりパス志向のサッカーに取り組んでいくことになると思われます。
マンチェスターシティを凌駕する金満チームでありながら、シティ同様に世界トップクラスかつ自チームのコンセプトに合う選手を獲得していきながらどうチームを組み立てるのか、が非常に楽しみなチームであり、それに十分応えてくれる試合内容でした。

各ラインをどう構成するのか

さて、一方のリーズはといえば、前節マンチェスターシティ戦から大きな改善があったというわけでもなかったというのが印象でした。
相手がニューカッスルということもあり、シティに比べればこの力はまだ落ちる部分もあるため、最後の最後の場面でなんとか耐え凌ぐことができていました。
それがこの0−0という結果、つまりは勝点1に繋がったわけですが、全体的に左右のサイドバックが上がった裏を中長距離のパスで取られてピンチになる場面が多数あり、この観点は昨シーズン終盤の残留争い時点から改善された印象がありません。

もちろん自身がポゼッションしている際にラインを高く設定して、相手ゴールに迫力を持って迫っていくサッカーは、可能性を感じることが多く観ていても楽しいと感じています。
しかし、相手ゴール前まで迫っても、シュート数は8本で枠内が1本、そこに至るまでの相手ゴールに迫るまでのProgressive Passの成功率は64%と、ここ数試合大きく改善していません。
またこの試合では全96回のボールロストにおいて、中盤でのロストが約半数の43回と、せっかく守備陣が奮闘して守り切ってもそのボールを繋ぎきれていないことがはっきりと分かります。

実際にプレーの中でも、中盤での繋ぎの場面でボールをつなげることができず、前半でフォーショーをロカに交代させて中盤でのパス向上を目指しました。
そして、この交代によって中盤での失地回復の兆しが見えたことは、ニューカッスルに攻撃を受ける際に許すパス数を示す数値のPPDAが改善していることもこの交代によって示されています。

このことからも、中盤でロカ、アダムスのどちらかが欠けても、中盤のバランスが崩れてしまうことは前節、今節で改めて痛感することになったリーズの課題でしょう。

Newcastle vs LeedsにおけるLeedsのPPDA推移

飛車角落ちの状況をどう補うのか

前節のレビューでは、DFラインと中盤に課題と述べました。
DFラインについては、この冬の移籍市場でザルツブルグからクリステンセンやアーロンソンに次いでマキシミリアン・ウーバーを獲得しました。
これにより左サイドで奮闘していたストライクが本来のセンターバック、場合によっては中盤の底を担う余地ができましたので、コッホとストライクというセンターバックコンビの計算が立つようになりました。
またウーバーはセンターバックとしてもプレーができる選手ですので、コッホとウーバーのドイツ語圏のセンターバックコンビでストライクを左サイドバックにすることで、右サイドバックのクリステンセンが持つ前への力を活かすために、攻撃時はストライク-ウーバー-コッホでの3バックにすることも、先述したサイドバックの裏を取られることへのリスク回避策にもなります。
さらにはこの場合、中盤のアダムスやロカを必要以上にDFラインに近い場所でプレーさせなくて良い、というメリットにもつながります。

その一方で、アダムスとロカいずれかの飛車角落ちの状況になった場合の備えについてはまだまだリスクが高いと思います。
この冬の移籍市場のニュースも、攻撃的な選手かサイドバックの名前が相変わらず多く、中盤の選手で噂があるのはスイスのルツェルンの若手アルドン・ヤシャリ程度であるのが少々不安です。
そのヤシャリはスコットランドのセルティックも興味を惹いているという報道もありますし、クリヒの移籍も変わらず噂されているため、中盤での繋ぎが出来て汗もかける選手の補強はこの冬必達の目標と言っていいでしょう。

もう少し攻撃で可能性のある場面が増えてくれれば、課題を覆い尽くすポジティブな材料も出せるかと思いますが、この2節で見た飛車角落ちの現状が改善されなければ、昨シーズン最後のようなアップダウンの激しいサポーター感情に巻き込まれるのではないかと、かなり心配になってしまった年末年始の2試合でした。