Match Review 2021.4.3 名古屋グランパス vs FC東京
相似か相同か
3月下旬から4月初旬にかけてのプライベートな忙しさが久々に帰ってきました。
仕事が年度末(弊社は4月末)なのもそうですが、チームの解団式そして新たな選手の体験練習と、コーチ陣も新しい環境に向けた高揚感と寂寥感に浸る時期でもあります。
そんな状況でもあるので結果試合のチェックは4月4日(日)深夜近くになってしまいました。
言い訳はさておき、非常に締まった良い内容のゲームだったと思います。
0-0という結果であるからこそ「良い内容」という言葉でもありますが、双方共にいんてんしてぃ(強度)が高く集中力も最後まで途切れることのない試合でした。
この両チームの試合を見るにあたっては、どうあってもマッシモ・フィッカデンティ名古屋監督の存在を無視することはできないでしょう。
すでにFC東京を離れてから5年が経とうとしていますが、FC東京の礎を築いた監督と言っても差し支えはないでしょう。
「攻撃」というキーワードを中心にしてきたFC東京において、「守備」に重きを置いた戦術をすり込んだ、という意味ではフィッカデンティと共にした2年間はチームにとってもサポーターにとっても大事な時間であったと思います。
一方で名古屋にとっても、トヨタ自動車の資金力を背景にして強力な補強作を繰り返しながらもなかなか結果が出なかった近年において、しっかりと守備から組み立てるサッカーによって優勝を争うまでに古豪を復活させた手腕は確かなもので、この試合を迎えるまでは6連勝という期待の持てるシーズン序盤となっています。
「高い位置から相手にプレッシャーをかけ速い攻撃を繰り広げる。」という似た形でがっぷり四つに組んだ試合。
これは相似なのか、それとも相同なのか。
双方が今展開するサッカーの起源がフィッカデンティという一人の指揮官によるものなのか、それともこの5年で辿った別々の道によるものなのか。
そんなことを考えると、酒が止まらない夜となりました。
名古屋 - 手数の少なさをどう補うのか
今シーズン名古屋の試合は開幕の福岡、4節の神戸との2試合を観て、この試合が3試合目でした。
守備に関しては彼の愛弟子とも言える丸山と米本を中心として、しっかりと整備をされた、いわゆる「背骨の通った」チームであるというのが強い印象です。
チームというのはGK〜センターバック〜センターハーフ〜フォワード、1本の筋がしっかりとしている必要がある、というのがフィッカデンティの哲学であると考えています。
僕自身も何がしかのチームを構成する際も、この「背筋」をどうやって通すのかを重視することもあり、フィッカデンティのチーム作りというのは非常に興味深く観ています。
チームバランスという意味では、川崎に対抗し得るチームだと思っています。
蛇足ですが、この「背筋」がチームに通っているのかどうか、というポイントを考えて色々なチームw見てみると、わかることが多くあります。
バルセロナ、マンチェスター・シティ、バイエルン、PSG、ユベントスなど、チャンピオンズリーグなど世界を席巻するチームは必ずと言っていいほど、この背筋がしっかりとしています。
直近ではポルトがユベントスに勝利をしましたが、やはりDFからFWまでしっかりと筋が通ったチーム作りがなされています。
ボランチが大事、と言われる現代サッカーですが、GK、CB、CH、FWに強力かつ献身性の高い選手が揃っており、縦の連動が成されているチームは簡単に負けない、というのが印象です。
で、名古屋の話に戻ります。
CB、CH(ボランチ)は代表クラスの強力な選手を並べていますので、人間で言えば言わば腰から下の足元がしっかりしていると言えます。
3試合観てきて、名古屋にとってはあとは背中から首、頭に繋がるポイントをどう定めるのか、ではないかと思います。
一例を挙げれば、この試合でもマテウスの献身性は非常に高かったと思います。
ピッチの場所にこだわらずに、左右、真ん中と激しく動き回り守備も厭いません。
しかし、このマテウスの動きというのは、人間の体で言えば肩や腕の動きとも言えます。
そのための頸椎、つまりは頭や肩をつなぐ重要な骨になる選手はいったい誰なのか。
ここが判然としないのが名古屋、という印象です。
本来であればシャビエルがその役割であると思いますが、ここを抑えられてしまうとこの試合のようにマテウスという強力な腕力も発揮できずに終わってしまいます。
そのためにも「頭」の役割にもなる強力なFW、過去を振り返っても仕方がないですがジョーのような相手DFにとって脅威になり得る選手がいた方が良いように思います。
恐らくは名古屋フロントとしては柿谷にその役目を担って欲しいのかもしれません。
が、柿谷は純粋な9番というよりは8番タイプの選手です。
高いテクニックで相手を釣り出したり、スペースに飛び出てゴールを取るタイプの選手で、年間で20点取れるようなタイプではありません。
どちらかといえば左右のワイドに置いて自由にシャビエル、マテウスとポジションを入れ替えさせた方が効果を発揮する「腕」のタイプです。
そのため、マテウスが動き回りボールを保持しても、最後の局面での「なんか1枚足りないぞ」という間を拭い切れませんでした。
ここまで長々と訳のわからない生物学的サッカー論を打(ぶ)ってきましたが、名古屋はもう1枚「頭」ができれば手数の少なさが解消されるのではないかと思います。
この試合でもフィッカデンティは縦への速さや個で仕掛けられる選手を入れて局面を変えようとしましたが、最終的には力量としては少々不足する山崎に「頭」としての役割を担うより仕方がなくなった感があります。
ランゲラック〜丸山/中谷〜米本/稲垣〜シャビエルと強固な背筋を持つだけに、川崎に対抗するには一番手になり得るだけの戦力を持ったチームです。
柿谷をどう使うのか、どう手数を増やすのか。
夏場の補強次第ではありますが、そのタイミングまで攻撃面をどうやって担保していくのか。
このポイントが名古屋にとっては課題になりそうに思います。
東京 - 縦横斜め
背筋が通る、ということいえばFC東京のシーズン序盤はなかなかその背筋が見えなかったと言えます。
その要因としてはこれまでのレビューでも触れてきたように、3月いっぱいぐらいを目処に選手の見極めを行いローテーションを多用してきたから、というのもあるでしょう。
その過程でようやくこの試合でFC東京の一本筋が見えたと言っても良いでしょう。
児玉ー渡辺ー森重ーディエゴというラインが出来上がり、それぞれが調子を上げてくることで守備から攻撃への流れや力強さが垣間見えた試合だったと思います。
序盤のチャンスではディエゴとアダイウトンの縦のワンツーからディエゴがペナルティに侵入し、最後には田川のシュートまで行きつきました。
27分にも小川を起点にディエゴを経由して1タッチ、2タッチでの早いパス回しから小川のシュートに至っています。
36分の三田がシュートしたシーンは、肉体で言えば肩から腕とも言えるアダイウトン、田川、三田でシュートまで持っていっています。
得点には至りませんでしたが、このような2列目の選手まで連動してシュートまで繋がる動きをどれだけ増やせるのかがこれからのFC東京の課題と言えるでしょう。
例えて言えば、上記に挙げた前半3度の頭、肩、腕が連携したシュートチャンスまでに至る動きが倍出てくれば自ずとゴールに繋がるのではないかと思います。
個人的には観ていて最も面白かった45分間がこの名古屋線の前半でした。
縦の一本筋が出来上がってきたFC東京ですが、後は両腕、両足とも言えるサイドやインサイドハーフの構成をどうしていくのか、が悩ましいところです。
ボールを持った時の推進力、という意味ではここまで出色の出来を見せている三田は当確でしょう。
日本代表入りで奮起が見られる小川も同様です。
三田とのバランスでいえばスペースを埋めてリスクマネージメントに長ける東も重要なピースですが、本来彼に求められる前に向かうという点ではまだまだ本領が発揮されておらず、謹慎明けの安部という手もあるかもしれません。
両ワイドについてはレアンドロの状況が気になりますし、頭角を表しつつあった渡邊凌の長期離脱も痛いところです。
肩の状況が気になる永井も長い時間使えるのかが疑問、と考えると好調の田川を軸に起用機会も多くフィジカル的にも充足しているアダイウトンで両翼をになっていく、ことでしばらくメンバー起用がなされると思います。
サイドバックが中村帆の怪我で少々不安が残りますが、その点は中村拓が軸になり得ますので、新たな選手起用も含めたチームの底上げを行っていくものと思われます。
いずれにしても、ほぼ固まったメンバーの中で変化をつけられるような選手起用がどうできるのか、は変わらず今後の注目点になると思います。
この試合前半45分はこれまでの試合の中でも最も迫力のある攻撃を見せた一方で、後半は交代選手を送り込むまでは手詰まり感が出てしまったのは明らかです。
永井やレアンドロは然り、内田など若い力まで含めた交代選手が、後半の流れを変えるピースとしてどう一本筋、幹の枝葉となり花を咲かせるのかが非常に重要な要素になってきます。
次節からはこの交代策にも注目をして見ていくと面白いかと思います。
新守護神誕生なるか
2選手のプロトコル違反に関してはサポーターの間でも色々な意見があるでしょうし、僕自身も思うところはありますがここでは控えておきます。
いずれにせよ、その謹慎期間にGKに関しては児玉がポジションを得て非常に良いプレーを見せているのは事実です。
昨シーズンは林の牙城もあり仙台戦1試合の出場に留まりましたが、そのパフォーマンスも決して良いと言えるものではなかったので、今回も個人的には心配をしていました。
しかし、カップ戦、リーグ戦2試合ずつ計4試合で3つのクリーンシートはGKとして十分な結果を出しています。
これまでローテーションによりチームが定まらなかったことを割り引いたとしても、ライバルである波多野が5試合クリーンシートなし、という結果と比較しても今後もしばらくは児玉がゴールマウスを守ることになると思います。
この日も何気ないプレーでしたが、40分のCKからマテウスがシュートを狙ったシーンでも安易に飛び出さずしっかりとボールの軌道を見極めて弾き出したシーンや、70分のクロスへの対応でもボールが蹴られるまでしっかりとステップを踏んで準備して反応した点など、準備を怠らない姿勢が見て取れました。
試合中も非常に細かくポジションを修正していることからも、ゲームの展開を読んでそれに応じたポジションを取ることを意識していることが分かります。
僕自身はGKについては指導においても門外漢なので細かいところは分かりませんが、それでもこういった児玉が見せる小さいことの積み重ねがクリーンシートに繋がっているということは感じ取れます。
今週の札幌、川崎との2試合でどういった結果を出すのか、によって林が帰ってくる場所もない、という状況にも繋がるかもしれません。
プロトコル違反というきっかけではありましたが、代役がしっかりと主役級の活躍をしていることはチームにとって本当に心強い状況です。
今週の2試合、注目ポイントは児玉といっても良いかもしれません。
たった1つしかないポジション。今週の出来如何では新守護神誕生と言える瞬間に出会えるかもしれません。