前節アーセナル戦とは全く違う形での敗戦となり連敗を喫したリーズ・ユナイテッド。
ファンとしては”不運”という言葉で片付けたくなるような失点について、マルセロ・ビエルサはその学者然とした回答で一刀両断にした。
(Leeds Liveのプレスカンファレンス記事を拙訳)
引き分けにできなかったということからも、どれだけ不運だったと感じていますか?
もしもあなたが試合を振り返ったなら、我々が(試合の)大半を支配していた(とわかるだろう)。非常に僅かな時間だけ我々が試合を支配できなかった。
チャンスのシーンを見てみれば、我々は彼らが作った2倍のチャンスを作った。我々はよく守ったし、よく攻めた、つまりはこれが私が今している(今日の)試合の分析だ。
分析についてはよくわかりました。しかし、今日はあなた方(リーズ)の日ではなかったし、神が味方してくれなかったと感じるところもあって然るべきだったのではないですか?そう感じませんか?
我々は結果と運を紐付けないようにしている。私には運が結果における要素にならないようにそれを乗り越えるべき策がある。しかしはっきりしているのは、今日の結果は効率性によるものであると定義されるべきということだ。
もしも君が運と君が身を捧げたことをついて語るとするならば、時にはそれは一般的には受け入れられないこともある。
今夜のジェイミー・シャクルトンについて。彼が守備陣の前でプレーしたことについてどのように感じていますか?
彼は守備的ミッドフィルダーのように守った。しかし彼はナンバーエイト(攻撃的ミッドフィルダー)のように攻撃もした。彼とクリヒの間で、二人は守備的ミッドフィルダーとナンバーエイトの役割を分担していた。
(相手の)二人の守備的ミッドフィルダーとストライカーの間(のポジション)においては、攻撃的なミッドフィルダーという(役割は)ない(に等しい)。これは彼らにとってこなすには厳しい要求ではなかったということだ。
あなたはリアム・クーパーがプレミア・リーグに適応していることを評価していますか?
私の視点からすると、(彼には)不便はない。彼は非常に上手く守れる選手だ。彼は上手く対処しているし、彼は自分の背後もしっかりと守っている。
彼は空中戦でも輝いているし、ボールに対しても非常に良く(守備)できている。これらの面をほとんどのゲームで定常的に表現していると言える。
負けた試合にも関わらず、今夜のアウェイでの試合はかなりポジティブに感じるものでしたか?
君の言ったことに賛成だな。
「我々は結果と運を紐付けないようにしている。私には運を結果における要素にならないように、それを越えるための考えがある。しかしはっきりしているのは、今日の結果は効率性によるものであると定義されるということだ。」
この試合の後の記者会見でビエルサはこのように語った。
ウルブズのアダマ・トラオレが左サイドで縦パスを受けるととそのまま対峙したエイリングを振り切ってカットイン。
カバーリングに向かったストライクを持ち前のスピードで交わして右足から力強く弾き出されたボールはそのままクロスバーに跳ね返り、反応後着地したキーパーメリエの背中にあたりゴールへ・・・(その刹那思わず「嗚呼、楢崎正剛!」と呟いてしまった。この意味はFC東京ファンの方なら記憶を呼び起こすと理解してもらえるかもしれない。)。
このオウンゴールのシーンを「不運」と片付けるのは、試合の大半を支配しながらも敗戦した我々ファンの気持ちを慰めるには最も適当な方法である。
しかし、ビエルサが語るように、運で片付けるということは効率性が悪かった自軍の結果に目を瞑ることにもなる。
簡単にトラオレを振り向かせてしまったこと。それにより右サイドのスペースをストライクがカバーしに出ざるを得なかったこと。そして結果トラオレがドリブルでカットインするだけのスペースを開けてしまい、右足を振り抜かせたこと。
決めきるべきところで決められなかったが故に、効率的に得点を奪ったウルヴズに軍配が上がった。
戦前の予想では中盤で激しいマッチアップが繰り広げられる分、双方のサイドが鍵になると予想した。
ウルヴズの注目選手として挙げたモウチーニョとネベスだったが、その二人をケアするためにアンカーポジションに配置されたリーズのシャクルトンが望外の活躍を見せ、二人にボールが入るところをことごとく潰しに行き、試合の局面を動かすようなプレーをほとんどさせることがなかった。
この意味からも、僕個人だけでなく、各種識者や海外メディアで予想された以上に、正にピッチの真ん中は「封鎖」された状況となり、ウルヴズのパス主体は3バックから両ワイドのセメド、カストロを経由するケースが多く、真ん中を使えてもシンプルに外に叩くという動きが大半となった。
3-4-3のウルヴズと4-1-4-1のリーズ、双方の戦術は拮抗するには噛み合わせが悪いようにも見えるが、中盤を共に潰しあったことでサイドでの2対2の構図がくっくりと浮かび上がり非常に迫力のある攻防戦を見ることができた。
例えば、ウルブズが右ワイドMFのセメドと3トップ右のネトで縦へ仕掛けようとする攻撃を、リーズはハリソンとダラスで対応し、そのバトルにウルヴズはFWのウィリアン・ジョゼ、リーズはCBのクーパーやクリヒが参加するといった数的同位でのバトルがそこかしこで見られた。
このような中で殊更ピッチ上での違いを植え付けるのは、やはりこの持つ力。
圧倒的なフィジカル能力を誇るアダマ・トラオレの存在感はウルヴズ左サイドで圧倒的だった。
冒頭にも記したように、得点シーンにおいても、左CBサイスからの縦パスがトラオレの足元に入った瞬間を狙ってリーズ右サイドバックのエイリングが一気に寄せたが、しっかりと体でエイリングをブロックしターンと一瞬の爆発力で抜き去ってシュートまで持ち込んだシーンは圧巻だった。
むしろリーズファン目線で言えば、あそこで一気に寄せてしまった守備をミスとして論うこともできなくはない。
しかし、そうなったとしても一旦終戦した中央の戦場の裏側にそれなりのスペースが空いていたことを考えると、遅らせたからといって効果的にウルヴズの攻撃を止められたとは限らない。
散々繰り返されたn対nの戦いがこの一瞬だけ1対1に陥れることができたウルヴズの攻撃が「効率的」なゴールを生んだ端緒であることに間違いはない。
予想された通りに中盤にロバーツを配することで、リーズは中盤で時間を作ることができるようになっていた。
特に前半には、先に述べたようにモウチーニョとネベスというウルヴズのキーマン2人をシャケルトンが潰しに行き、そのカバーをクリヒが行うことで、ロバーツはトップ下のようなポジションでプレーすることができ、ウルヴズ中盤とDFラインの間を自由に動き回った。
これにより両サイドのラフィーニャとハリソンも上下動がしやすくなっただけでなく、サイドバックの上がりを待つ余裕も生まれていた。
ただ、後半になり左サイドのハリソンがセメドとネトの対応で疲弊するとロバーツも左サイドに流れることが多くなってしまい、リーズの攻撃がラフィーニャの右かロングボールでのDF裏狙いの2パターンに落ち込んでしまったことで、ロバーツの存在感も薄れてしまった。
ただし、前節アーセナル戦での途中出場から流れを変えることができたことで掴んだこのスタメンもポジティブに受け入れられたと思う。
あとはもう少しバンフォードに近い位置でプレーできれば、チームとしての得点機会も演出できるようになるだろう。
そしてもう一つは昨シーズンからビエルサの頭を悩ませてきたフィリップス欠場時の穴埋めに新たなオプションが加わったことだろう。
小兵のシャケルトンにフィリップスの代役が務まるのか、と試合開始時は後ろ向きに考えたが、ハイボールはCB2枚が尽く跳ね返し、シャケルトンは猛然とウルヴズ中盤2枚に襲いかかり、そのこぼれ球回収役をクリヒが担うことで、攻守のスイッチを切り替えていた。
これまでは中盤での空中戦対策も考えストライクを起用することが多かったビエルサだが、地上戦であればシャケルトンが十分にプレミアでもやれることを前節で本人が示したことで、ビエルサの頭の中にあったであろうオプションを具現化する機会を得られたのがこの試合だったのだろう。
この試合のベンチには怪我が重なるジョレンテも戻り、今後クーパーの相棒として確立されてくれば、アンカーオプションが増えたことも戦術の多様性に繋がってくる。
フィリップスが戻れればシャケルトンを起用することで怪我を抱えたままのクリヒを休ませることもできる。
怪我人が重なる苦しい状況をユース上がりの若手が一変させる可能性が見えたという意味でも、この試合の意義は大きかった。
スタンドに姿が見えたサウスゲートの目にもしっかりと印象は残したのではないか。
惜しむらくはセットプレーから再三迎えた決定機に決め切ることができなかった点と、英語でゴールポストを意味する「woodwork」が”work”してしまい、2試合連続でメリエに試練を与えたことか。
次節サウサンプトン戦は嫌でも日本で注目される。
そこでこの連敗を止めたい。
得点
オウンゴール(64′)
得点
In/Out | Pos. | Wolverhampton | Leeds United | Pos. | In/Out | |
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GK | ルイ・パトリシオ | イラン・メリエ | GK | |||
CB | レアンデル・デンドンカー | スチュアート・ダラス | LB | |||
CB | コナー・コーディー | リアム・クーパー | CB | |||
CB | ロマン・サイス | パスカル・ストライク | CB | |||
Out(60) | LM | ヨナタン・カストロ | ルーク・エイリング | RB | ||
CM | ルベン・ネベス | ジェイミー・シャクルトン | DM | Out(66') | ||
CM | ジョアン・モウチーニョ | ジャック・ハリソン | LM | Out(81') | ||
RM | ネルソン・セメド | マテウシュ・クリヒ | CM | Out(81') | ||
LW | ペドロ・ネト | タイラー・ロバーツ | CM | |||
Out(87') | CFW | ウィリアン・ジョゼ | ラフィーニャ | RM | ||
RW | アダマ・トラオレ | パトリック・バンフォード | CF | |||
Sub | Sub | |||||
GK | ジョン・ラディ | キコ・カシージャ | GK | |||
In(82') | DF | ライアン・エイト・ヌーリ | ナイアル・ハギンス | DF | ||
In(60') Out(82') | DF | マルサル | ディエゴ・ジョレンテ | DF | ||
DF | キ=ヤナ・フーフェル | エズジャン・アリオスキ | DF | In(81') | ||
DF | マックス・キルマン | ジャック・ジェンキンス | MF | |||
MF | モーガン・ギブス・ホワイト | エウデル・コスタ | MF | In(81') | ||
MF | ヴィトール・フェレイラ | パブロ・エルナンデス | MF | In(66') | ||
MF | オーウェン・オタソウィー | ジョー・ゲルハルト | FW | |||
FW | ファビオ・シウバ |