2つの魅力2つの試合
前半というよりも50分までは完全にアーセナルが試合を支配したゲームだった。
50分以降は0-4というビハインドにもめげずにリーズが反撃し、試合の面白さを取り戻した。
この試合を良い意味で捉えれば両軍合わせて6点が入る、中立の立場のサッカーファンからすると非常にダイナミックな試合だっただろう。
一方で違う見方、否定的な見方をすれば、個の力でリーズと圧倒するアーセナルがリーズの組織力に押されてしまい完勝できる試合を苦しい試合にしてしまった、とも言えるのではないか。
ただ、個性豊かなアーセナルと組織力と規律のリーズという異質な魅力を持ったチーム同士のガチンコでのぶつかり合いが前後半で全く違った試合を見せてくれた、という非常にダイナミックな試合だった。
アーセナルらしい個の融合
どのポジションを見ても高い技術力とスピードを持ち合わせた選手がいる、それがアーセナルの印象だ。
その個の魅力に組織力が加わると、手に負えないほどの力を発揮し、相手を圧倒する攻撃力となり見るものを魅了する。これは過去長きに渡ってアーセナルがアーセナルたる所以でもある。
僕自身はアーセナルの試合を全て見ているわけではないが、古くはアーセン・ベンゲルが指揮した時代からシャンパン・サッカー〜ティキ・タカなどと言われる、いわゆるシンプルかつスピーディーなパス回しで相手を翻弄し攻撃するということがチームの文化として培われてきたのが特徴になっていると認識している。
この日のアーセナルは、立ち上がりからまさにこのパスサッカーでリーズを翻弄した。
リーズの戦術の特徴は、センターフォワードがファーストDFとして相手GKとDFのビルドアップのパスコースを消しながら守備のスイッチを入れ、それに連動して左右のウィングやセントラルMFが相手中盤やサイドの選手にマンツーマンでマークを行うというマンツーマンディフェンスが象徴的な言葉となっている。
アーセナルはこのリーズが採る守備戦術にしっかり対応し、ビルドアップから高い技術力で攻撃につなげ、マンツーマンで引き出されたリーズ守備陣が空けたスペースを活用してゴールを陥れた。
例えばアーセナルのビルドアップ時に、レノがダヴィド・ルイス、ベジェリンの両者からビルドアップをしようとすれば、そのラインをリーズのバンフォードが消しに行く。
そうなった場合にガブリエルがレノに寄ってパスコースを作るのだが、ガブリエウが動いた後のスペースにセバージョスが入ってボールを受けて素早くジャカや、または幅を取ってポジショニングしたスミス=ロウに繋ぐ、というシーンが何度も見られた。
これらに対応するためにセバージョスへのパスをリーズはダラスとラフィーニャ(またはクリヒとハリソンなど)が抑えに行くと、シンプルにルイスやガブリエウに下げられ、2人のMFが食いついた分空いたスペースに中長距離のパスを出され、そのケアにサイドバックや守備的MFが引き摺り出される。
このアーセナルのシンプルかつ素早い連動がリーズのスペースマネージメントを見事なまでに瓦解させた。
このような動き自体は、選手個々が持つ技術力が高くなければできない芸当であり、長年リーズを応援する身からしても、高速パスから高速FWが最終ラインを切り裂くという「これぞアーセナル!」という攻撃には感嘆の息を漏らすより仕方がなかった。
課題と収穫と
本来は自分達が相手に対してやりたいことを出だしからやられて面食らったのがこの日のリーズだったと言えるだろう。
先に述べたようにアーセナルが見せたビルドアップからの形を、オーバメヤン含めたアーセナル攻撃陣に封じられた上に、自分達の守備も後追いになってしまった。
この結果がオーバメヤンのPKでの得点につながるメリエの反則にも繋がったわけで、マンチェスターシティとリバプール戦を想起させるような素早い出足の最前線からの守備がリーズのゲームプランを根底から覆すことになっていった。
リーズにとってはこのような押し込まれる状況が続いている中で、個の力で局面を打開できるだけのスキルセットを持った選手がピッチにいなかったことは一つの課題だっただろう。
リーズの中ではラフィーニャ、ジャック・ハリソンの両ワイドがその力を持っているが、サイドでのこの打開はリーズに限らずどうしても独力にならざるを得ないため、孤立してしまっていた。
無論クリヒやダラスという中盤の選手もプレミアで十分にその力量を発揮しているが、技術力で相手を凌駕するというよりもハードワークで相手中盤からボールを奪ってゴール前に出ていく推進力を武器とするタイプのため、ラフィーニャやハリソンと連携して相手DFを崩しにかかるタイプではない。
そのため、どうしても自分達のプレスがはまらなくなると、両ワイドが孤立してしまいサイドバックとのパス交換で相手DFのズレを探すしか無くなってしまうという、負のスパイラルに巻き込まれてしまっていた。
その課題に対する解決策として一つの道筋を見出したのが、クリヒに代わって後半から入ったタイラー・ロバーツだろう。
若きウェールズ代表は良くも悪くも多くの外的評価を付されている。ストライカーという人も言えば、ドリブラー、トップ下などなど、彼のプレーを見た人によってポジション適正がバラバラという選手だ。
ただ、これも裏を返せば攻撃に関してはシュートも撃てる、パスも出せる、ドリブルもできるという万能選手でもある。
これは先に述べたような中盤で局面を変えるに当たっての適任の選手とも言える。
この交代策はばっちりと当たり、ロバーツがボールを受けてドリブルで一人交わして相手DFにズレを生じさせるとそこにラフィーニャが入り込んだり、ハリソンに代わったコスタが入り込んだりと、中盤とワイドが連携して相互にスペースに入り込んでいくリーズらしい攻撃を構成することができるようになった。
この後半の流れは今後の大きなオプションになる。
また冬の移籍市場で移籍リクエストを出していたと言われるロバーツにとっても、流れを変えられたこのアーセナル戦での出来はビエルサに対する大きなアピールにもなるはずで、今後の出場機会増加にもつながるだろう。
そしてもう一つ見えた光明は、疲れの見えたアリオスキに代えてハギンスが右サイドバックに入ったことで(左にはダラス)、右サイドバックで出場していたシャクルトンが中盤に移行したことだ。
本来は中盤を専門とするシャクルトンは、先の通りロバーツが入ったことで上手くアーセナルのダブルボランチとセンターバックの間に位置を取ったり、2センターバックのギャップでボールを受けたりと、攻撃におけるポテンシャルの一端を垣間見せた。
この二人の選手(ハギンスも含めれば3人)の及第点を与えるには十分な動きは、ラフィーニャやコスタといったサイドの選手を活かす大きな歯車になっていた。
この試合のように当初のゲームプランが狂って収まりが悪い場合に、取り得るオプションとして認識できたことは、この敗戦における大きな収穫だっただろう。
4
2
得点
オーバメヤン(13′)
オーバメヤン(41′)
ベジェリン(45′)
オーバメヤン(47′)
得点
ストライク(58′)
コスタ(69′)
In/Out | Pos. | Arsenal | Leeds United | Pos. | In/Out | |
---|---|---|---|---|---|---|
GK | ベルント・レノ | イラン・メリエ | GK | |||
LB | セドリック・ソアレス | エズジャン・アリオスキ | LB | Out(53') | ||
CB | ガブリエウ | リアム・クーパー | CB | |||
CB | ダヴィド・ルイス | ルーク・エイリング | CB | |||
RB | エクトル・ベジェリン | ジェイミー・シャクルトン | RB | |||
DM | グラニト・ジャカ | パスカル・ストライク | DM | |||
Out(89') | DM | ダニ・セバージョス | スチュアート・ダラス | CM | ||
LM | エミール・スミス=ロウ | マテウシュ・クリヒ | CM | Out(46’) | ||
Out(78') | AM | マルティン・ウーデゴール | ジャック・ハリソン | LM | Out(46') | |
RM | ブカヨ・サカ | ラフィーニャ | RM | |||
Out(62') | CF | ピエール・エメリク・オーバメヤン | パトリック・バンフォード | CF | ||
Sub | Sub | |||||
GK | マシュー・ライアン | キコ・カシージャ | GK | |||
In(89') | DF | ロブ・ホールディングス | ナイアル・ハギンス | DF | Out(53') | |
DF | カラム・チェンバース | チャーリー・クレスウェル | DF | |||
DF | パブロ・マリ | リーフ・デイビス | DF | |||
Out(78') | MF | モハメド・エルネニー | ジャック・ジェンキンス | MF | ||
In(62') | MF | ウィリアン | エウデル・コスタ | MF | ||
FW | アレクサンドル・ラカゼット | パブロ・エルナンデス | MF | In(46') | ||
FW | ニコラス・ぺぺ | ジョー・ゲルハルト | FW | |||
FW | ガブリエル・マルティネス | タイラー・ロバーツ | FW | In(46') |