過程が示した結果
札幌戦のレビューを書かないとな、と思っているうちに時間は過ぎていき、業務やコーチ業で疲弊してあっという間にフロンターレ戦当日を迎えました。
と同時に札幌戦のレビューは放棄する、という安易な選択肢を選んだわけですが、「別にレビュー書いて給料もらっているわけでもなし。」と思っているわけではなく、単に1日が48時間あったらいいよね、ぐらいに思っているワーカホリックです。
さて、あらゆるところで触れられていることですので今更言及する必要もないのですが、FC東京が勝てなかった理由はその過程が全てであり、川崎の勝因はその誤ったFC東京の過程を見逃すことなく楽に自分達のペースを維持できたことでしょう。
そのくらいFC東京のプロセスは酷かったです。
「結果良ければプロセスが悪くてもOK」であったのはシーズン序盤によく言われる言葉ですが、シーズン中盤に突入するこの時期にあのプロセスでは先が思いやられる、というのが正直な感想です。
一方で自分を宥めているのはその「シーズン序盤」という言葉です。
まだ9節。今シーズンは残り29試合あるわけです。
4分の1が終わったこのタイミングを序盤とするのか中盤とするのか、これによって見え方は大きく変わってくると思います。
川崎 - 当たり前のことを当たり前に
フロンターレのポゼッションを観ていると、前夜に観たマンチェスターシティーのボール回しを彷彿とさせるな、と思いました。
いみじくもその試合は(僕が応援する)リーズ・ユナイテッドとの試合であり、試合内容もボールを持って相手の隙を狙っていくシティと、とにかく耐えて一旦マイボールにするとポゼッションをよりも前に進むことを選択するリーズ、とこのJリーグの試合を予習したかのような内容でした。
さらに言えば、その試合の解説は中村憲剛氏でしたが、氏が注目していたのはシティの動きであり、ペップ・グアルディオラの一挙手一投足でした。
このことからも、川崎の元選手としてもシティのサッカーというのは強く意識しているということがよく分かりましたし、解説の端々からフロンターレが参考としているであろうポイントがよく分かりました。
「いやいや、流石にシティに比べたらやり方も全然違うでしょ。」
という意見が大半を占めるかもしれませんが、まあ落ち着きなさいな、と。
両者に共通するのはインサイドキックを主体とした近距離の早いパス、ボールを浮かせない正確なトラップ、2タッチ目でのパスとそのスピード、その受け手の動き、この当たり前のことを当たり前にやっていること、そしてその連続性が大きな共通項です。
小難しい5レーン理論やら、カウンタープレスやらという言葉を使う以前の部分が高い次元で実現されていることが両者の共通点です。
(だからってシティに川崎が勝てるとは言ってませんよ。個の力量が大きく違うことはいうまでもありません。)
これは風間前監督がとにかく拘った部分であり、その後を受けた鬼木監督もその部分を決して緩めることなく続けているため、他チームに比べてもパススピードとそれを受けるトラップのミスでのボールロストが極めて少ないのでしょう。
そのため相手チームは川崎がボールを保持するとしっかりブロックを作ってミスが起こるのを待つのか、激しくプレスを賭けに行くことを選択するしかありません。
すでにこの時点で川崎の術中に嵌ってしまっているわけですから、川崎が主導権を握り続ける試合になってしまうことは仕方のないことです。
そしてもう一つ川崎とシティの共通点は、ボールを失った時のトランジションスピードの速さです。
失った瞬間から周囲の選手まで含めてボールを奪うことに意識がいっていることが観ていても分かります。
その際、後方との間に距離・スペースが出来てしまう事も両者の共通点で、観ている側からすればそのスペースを使えば反撃のチャンスと思いがちですが、ボールホルダーからすればプレッシャーが速過ぎてそのスペースを使うまでの判断に至れません。
川崎とシティ、両チームはその弱点を補う意味でも奪われたその瞬間を非常に大切にしているのだと思います。
逆を言えば、ここが川崎を攻略する唯一のポイントと言えるでしょう。
相手チームはボールを奪い、川崎にプレッシャーをかけられる状況であっても、しっかりとボールを動かすことが必要になってきます。
ボールホルダーに対してしっかりと2つ以上のパスコースを作る、それがダメならボールホルダーがプレッシャーを1枚剥がして素早く縦パスに移行する。
高いレベルでの守備者のポジティブ・トランジションが必要となりますが、高い次元で完成された川崎の戦術を破る第一歩でしょう。
東京 - 曖昧さがもたらした失点の山
前述した数少ない川崎の弱点を突く、という意味ではFC東京は決して対応できていなかったわけではありません。
19分のディエゴ・オリヴェイラのバックヘッド、1点目、2点目、全てにおいて起点となっていたのはフロンターレからボールを奪った後に出来たFWとMFの間のスペースです。
ここからスペースに動いた前線の選手にパスを出したことで、ゴール前にボールを入れることができました。
なので、この日のFC東京は決してフロンターレの攻略法を実践できていなかったわけではありません。
問題はフロンターレに最もボールを持たせてはいけない、ピッチを縦に三分割した際の中央部でのミスに尽きます。
1失点目は安易な縦パスを洗濯したことでボールを失い、シンプルに繋がれたもの。
2失点目も同様で、受け手が攻守の切り替えについていけていない=チームとしての統率が取れていない状態でのパスミス。
3失点目は言わずもがなで、自陣ボール前での繋ぎのボールを相手が狙っているにも関わらずトラップをピッチ中央に向けて行い奪われました。
4失点目は疲労が出始めるタイミングで全員がボールウォッチャーになってしまっていたことなので、上記の3失点とは意を異にします。
これらの失点は全て「ミス」です。自滅と言っても過言はないでしょう。
こういったミスが生じることは無論選手個々の問題もあるでしょう。
しかし、それ以上に選手が変わるとこれまでの試合で出来ていたことが出来なくなる、という課題が見えます。
これを言い換えると、チーム全体で「FC東京のサッカー」というものが共有認識になっていない、という異に繋がると思います。
これまでの試合では、森重がアンカーポジションに入ることで、ビルドアップの際には森重を経由して幅を取ったり、状況に応じてバックパスからサイドを変えるパスを選択したりと、確実なビルドアップを行いながら、効果的に長いボールを入れて相手DFラインを押し下げるシーンが見られました。
しかし、森重がセンターバックに入ったこの試合では、そのビルドアップのポイントが最終ラインに入ってしまっているため、青木を使うのか安部を使うのかが不明確でした。
その一方でDFラインの選手はこれまでの流れで一列前にいるべき森重を探しますので、パスミスをしたり苦し紛れなロングパスを出しては川崎にボールを渡してしまっていました。
後半3-5-2にしてワイドに選手が広がることでボールの出し先が見つかったので、「3-5-2の方が良い」という声がネット上でも多く見られますが、僕自身は3-5-2は結果論でしかないと思います。
4-4-2でも4-1-2-3であっても、先にあげた川崎の弱点を突くことは出来ますし、システム的には川崎が採用する4-3-3に対して3-5-2は5バック的に臨まないと噛み合いません。
大事なことは青木と安部を起用したこの日の布陣において、中盤のビルドアップを誰が担うのか、もしくは中盤を廃して高い位置に一気ボールを送る、何がトランジションの時点での狙いだったのかが不明確であったことでしょう。
非常に曖昧な状態で試合に入ってしまったが故に、前半20分という早い段階で選手にもスタジアムにも敗色が浮き出てしまったとも言えると思います。
たらればを言えるなら、どうしてセンターバックにオマリじゃなかったのか。
首位チームを追い込むために必要だったのが森重アンカーではなかったのか・・・。
外からダイアゴナルに・・・
札幌戦のレビューを考えていた際に、ディエゴ神の他に非常に印象的だった得点機としてピックアップしようと思っていたのが、21分の中村拓のクロスをアダイウトンがヘディングシュートしたシーンでした。
これまではクロスを入れる際にどうしても田川とディエゴの2枚、もしくは2列目からペナルティに入ってくる選手の3枚という、点と直線的な動きに合わせる動きが多かった印象です。
しかしこのシーンでは一番遠いところからダイアゴナル(斜め)にゴール前に入ってきたアダイウトンが合わせて得点機を作りました。
川崎戦でも2得点はボールから遠いサイドのアダイウトン、内田が斜めにゴール前に入ってきてのものでした。
斜めに入る、というのはパスする側からしても面でパスを出すポイントを探すことが出来ます。
縦に入ってくるとどうしても点を探す必要がある異に比べるとパサーにとっても非常に優しい動きになります。
一方で守備側からするとボールと選手という2点を監視したいのに面で守る必要性が出てしまうので、ダイアゴナルに入られるのは非常に厄介です。
イメージがつかない方は、机の上でスーパーボールでもビー玉でも(そんなもん令和の時代に家にあるか知りませんが)右手の指先におき、左手の指をボールに対して縦に動かすピンポイントで弾くのと、遠いところから斜めに入ってくる左手の指に向かって弾くのと、どちらが合わせやすいのかを試していただくと印象が大きく違うと思います。
攻撃においてはこれまでもディエゴや田川がダイアゴナルに入ることでゴールを決めたシーンがありました。
この形にワイドの選手であるアダイウトンや内田が加わったことは、FC東京の得点機を増やす意味でもあります。
この試合で連発したミスはミスとして受け止めざるを得ません。
中村拓に関しては、反撃の狼煙をあげたチームを奈落の底に落とすようなミスをしてしまったのは確かです。
ただ、怪我人続出の中で中村拓には経験を積み「強く」なってもらう必要があります。
それこそがチームとしての基盤であり、底上げに繋がります。
個人的には次の試合、中村拓を外すようなことがあれば長谷川監督を見る目が変わるでしょう。
このレビューでも、長谷川監督を批判するような言葉が増えてしまうかもしれません・・・。
まだ序盤、と考えれば、中村拓はまだまだここからではないでしょうか。
岡崎も同様です。