二度見て気付く絶妙な差配
いつもはリアルタイムでも後追いでも試合を1回観て自分なりの考えを構成するのだけど、この試合だけはたまたまリアルタイムで観ることとなり、眠気と戦いながらだったので珍しく2度観た。
ライブ視聴の時に
「前半はサウサンプトンペースでした。」
「前半のサウサンプトンペースの時に特典できなかったのが・・・」
中継の日本語コメンタリーで再三聞かれたのだけど、リーズ視点で観ていたのは確かだけど、本当にそうなのか?そんな違和感を覚えた。
2度目の試聴のときにその違和感の答えを探してみたところ、なるほどポゼッションもサウサンプトンだし、試合もリーズサイドで行われているから確かにサウサンプトンペースだし、リーズの攻撃は単調に見えたからサウサンプトンペースなんだろう、と合点がいった。
しかしながら、リーズの攻撃、時には守備においての絶妙な差配が行われいたことは初見では気づかなかった。
4-1-4-1なのか、3-5-1-1とかそういう数字の話ではなく、左右の入れ替えという単純な差配が後半開始早々のリーズ先制点の絶妙な撒き餌になっている、僕はそう感じたので、今回はリーズのポイントから。
また、冒頭に亡くなられたフィリップスの祖母ヴァルさんの名前が入ったユニフォームを試合後リーズメンバーで掲げ、ビエルサも記者会見で言及した。
チームからもファンからも愛されたおばあちゃんに改めて哀悼の意を表します。
香車と成金で撒き餌
試合立ち上がり、リーズは通常の右ラフィーニャ、左ハリソンという攻撃MFを逆に配した。
通常は左利きのラフィーニャ、右利きのハリソンがピッチ中央に切れ込んでいくことでサイドバックが上がるスペースを作り、それによって相手DFとGKの間にアーリークロスを入れていくのがリーズの定番となっていた。
この試合において両選手は、両者の利き足と同じサイドに配されることで、リーズのサイド攻撃は縦に縦に、となっていた。
無論これは前節で優れたスピードを見せたサウサンプトンのテラをケアするために長い距離をスプリン出来るハリソンを右に配して対応させたい、という意図もあったのだろう。
ただ、攻撃の際には、中盤深い位置から左右を操るパスを支えるフィリップスがいないため、この配置だとどうしてもDFラインから長いボールを蹴り込んでサイドを上がらせる、またはサイドバックから縦につけてサイドバックが追い越す時間を作って攻撃、と相手DFからすると守り易い状況での攻撃しかできない。
アクセントをつけるためいロバーツが下がってボールをもらってドリブルや左右に散らしてもう一度ボールをもらうというきっかけを作ろうとしていたが、これも決定的な状況を作るには至らなかった。
しかし、試合を振り返ってみると、巧妙な撒き餌が展開されていたとしか思えない。
右サイドはハリソンも右サイドバックのエイリングも縦に縦にの動きになり、さしづめ将棋で言えば香車を縦に2枚並べたような、上下の機動力を重視した攻撃しかできず、単調にならざるを得なかった。
これが撒き餌1。
その配置を前半途中に通常通り右ラフィーニャ、左ハリソンにポジションチェンジ。
このポジションチェンジからロメウの攻守に阻まれる決定機が生まれた。
ポジションチェンジが撒き餌2。
どういうことか。
撒き餌1では香車の2枚の動きによりサウサンプトンはサイドMF、サイドバックの同数に数的優位を加えるためにロメウとウォードプラウズのサウサンプトン中盤1枚を応援に出させる。
これでサイドの守備面は3-2でサウサンプトンの優位。
この撒き餌1でサウサンプトン中盤をサイドに誘き出すことに成功する。
撒き餌2ではラフィーニャをハリソンの立ち位置を変えることで、撒き餌1によって誘き出されたセンターハーフが開けたスペースにカットインができる。
その分センターバックが前に出ざるを得ないため、最終ラインからセンターバックを誘い出せる。
気付かずに香車は金に成っていて斜めにも動き出し敵陣に入り込でいた。
後半開始。
リーズウィングの位置は元に戻したうえに、右サイドのハリソンに代えてより香車感の強いコスタを投入。
この後半開始の策によって、サウサンプトン守備陣はそれぞれのマーキングの確認と対応を再度認識合わせすることを強いられた。
自身のチャンスから展開されたボールをリーズGKメリエが手にしたトランジション時に、サウサンプトンはこの認識合わせを十分にできずにぶっつけ本番するより仕方がなくなった。
サウサンプトの両ワイドは対抗となるリーズワイドを探す、センターハーフもバランスを確認、センターバックはセンターハーフがボール奪取に向かう際にできるスペースのカバーに。
それぞれが撒き餌によって刷り込まれた試合への対応に切り替わっていたはずだ。
その状況でボールはピッチ中央のロバーツへ。
サウサンプトン中盤がロバーツへターゲット変更することで、MFとDFの間の距離が一瞬離れる。
そこをケアすべくセンターバックが前に出た瞬間にロバーツがパスを出した。
バンフォードまでの距離を補うには弱いボールでのパスだったが、一瞬前に出かかったサウサンプトンDFを背走させるには十分な強さ。
足元に入れたバンフォードが落ち着いてゴール右隅にボールを蹴り込んだ。
長短のパスを折り混みながら香車を動かしたり、成金を動かすことで、サウサンプトン守備陣の潜在意識に迷いが生じていた。
そこをうまく一撃で突いた先制点。
見直してこの将棋のような緻密さを感じたのが、僕にとっての大きなハイライトだった。
この先制点の後は左右を入れ替えたり、サイドバックが偽ラテラルのように中盤に顔を出したりとリーズは可変を繰り返す。
先制点までで巧妙に仕掛けられた罠は時間が経てば経つほどサウサンプトンを蝕んでいた。
違和感の大きな理由はこれだったんだろう。
1枚、1手足りない
戦前予想でリーズの中盤が1枚浮く、と予想したが、割とのそのような展開になりロバーツはそこそこ自由にポジションを変えてプレーしていた。
この1枚浮く、または浮かせてしまうというのが攻守においてもサウサンプトンの課題だと感じた。
ウォード=プラウズの正確なキックと気の利いたスペースマネージメント、闘犬のようなロメウのボールハンティング、どちらも非常にレベルの高い中盤の選手ではあるが、攻撃においても中のポジションはこの二人で構成されており、DRラインを前にしたときにどうしても1枚足りなかったり、もう1手加えられれば決定機になったのでは、というシーンが多かった。
逆を言えばリーズファンにとっては冷や汗というシーンは数えるしかなかったということだ。
ハーゼンヒュットル監督の意図としては、強固な中盤2枚を中心に高い位置でボールを奪い、サイドの選手も中に入ってゴール前に迫ることが目的なのだろうが、ゴール前でDFラインを形成されるとどうしてもサイドにサイドに、とボールを動かさざるを得なくなる。
そこからサイドを深く抉っても、結果中の枚数が足りない上にブロックを作られてしまっているのでペナルティ外の選手にマイナスのパスを出さざるを得ない。
ポゼッションが高くてもブロックを作られるとどうしてもこういう動きになりがちになる。
その上先制されてリードされているから、後ろからも押し上げが強くなりスペースができやすく一発で裏を取られる。
時間が経つにつれてサウサンプトンはドツボにハマって行ったように思う。
そういった意味では、ボールとは逆サイドのウイングがしっかりトップ下の位置まで入り込んでくることがサウサンプトンには必要だろう。
後半投入された南野に託された役割はそうであるべき、と思っていたが、彼のプレーを見るにどうもそのタスクを任されていた感じはなかった。
怪我人も続出でなかなかそうは問屋が卸してくれないという側面もあるだろうが、この1枚がないともう1手が出せない。
ハーゼンヒュットルとセインツサポーターの苦悩は暫し続くだろう。
余録 ゲーゲン、ゲーゲンうるさいです
ハーゼンヒュットルに関わらず、ドイツサッカーに関しては採用戦術はゲーゲンプレスと言われて久しくなった。
果たしてそうなのだろうか。ゲーゲンプレスって戦術なんだろうか?
ゲーゲンプレスをしたところで、結局前項で示したようにサイドに押し出されて中でシュートが打てないのであれば、それは戦術ではない。
「ゲーゲンプレスから高い位置でボールを奪い、そこから2列目、逆サイドまでがペナルティに入りゴールを奪う戦術」
として戦術を構成しないと意味がない。
つまり、ゲーゲンプレスとは戦術の構成要素の一つであって、戦術そのものではない。
これはカウンターサッカーもそうだし、結局のところそのチームを分かりやすく類型化するために代表的な戦術構成要素を用いているに過ぎないので、ゲーゲンプレス、ゲーゲンプレス、げーげんぷれす、ゲーが出ますとやかましい。
ビエルサのサッカーが面白いのは、マンツーマンという代表的なキーワードが出るが、その実マークの受け渡しはするし、必要以上にゾーンを放棄してまでついていかない。
ゾーンとマンマークを高い次元で融合し、カウンターもあればポゼッションもある。
簡単に類型化できず、とにかく選手の運動量が多いサッカーなので「Murder Ball」と言われる。
むしろこのMurder Ballがビエルサの戦術であって、マンマークではない。
構成要素に囚われて、その監督を評価するのは本質からかけ離れたことでしかないと思う。
この辺は別項でくどくど言ってみたい。
3
0
得点
バンフォード(47′)
ダラス(78′)
ラフィーニャ(84′)
得点
In/Out | Pos. | Leeds | Southampton | Pos. | In/Out | |
---|---|---|---|---|---|---|
GK | イラン・メリエ | アレックス・マッカーシー | GK | |||
CB | パスカル・ストライク | ライアン・バートランド | LB | |||
CB | リアム・クーパー | モハメド・サリス | CB | |||
CB | ディエゴ・ジョレンテ | ヤニク・ヴェステルゴー | CB | |||
LM | スチュアート・ダラス | ヤン・ベドナレク | RB | |||
Out(59') | CM | マテウシュ・クリヒ | ネイサン・テラ | LM | Ount(58') | |
RM | ルーク・エイリング | オリオル・ロメウ | CM | Out(70') | ||
Out(46') | LAM | ジャック・ハリソン | ジェームズ・ウォード=プラウズ | CM | ||
Out(75') | CAM | タイラー・ロバーツ | スチュアート・アームストロング | RM | ||
RAM | ラフィーニャ | ネイサン・レドモンド | FW | Out(58') | ||
CF | パトリック・バンフォード | チェ・アダムス | FW | |||
Sub | Sub | |||||
GK | キコ・カシージャ | フレイザー・フォスター | GK | |||
DF | オリバー・ケイシー | ジャック・スティーブンス | DF | |||
DF | ニール・ハギンズ | ケイン・ラムゼイ | DF | |||
In(59') | DF | エズジャン・アリオスキー | ムサ・ジェネポ | MF | In(70') | |
DF | チャーリー・クレスウェル | アレクサンドラ・ヤンケヴィッツ | MF | |||
MF | ジャック・ジェンキンス | クガオゲロ・チャウケ | MF | |||
In(46') | MF | エウデル・コスタ | ダニー・イングス | FW | In(58') | |
In(75') | MF | パブロ・エルナンデス | 南野 拓実 | FW | In(58') | |
FW | ジョー・ゲルハート | ダニエル・ヌルンドゥル | FW |